第9話 やり直させてみようじゃないか!!
日時不明────
絶対絶命、修羅場とはこういう状況を言うのだろう。ヨシュアさんの家の庭で、僕はレミリスさんと美憂に詰め寄られていた。
先程、レミリスさんが出てきた石造りの家の扉の隙間から、ヨシュアさんがこちらを覗き込んでいる。この時間軸では初めましてになるので、ヨシュアさんに助けてすら言えないのが辛い。
「ぜ、絶胤…。あ…あの、美憂さん…?それ、ほ、本当の情報…ですか?」
「ヴェルって女神さんから私、聞いたからガチ!!」
美憂の身体に乗り移るまで、ずっとヴェルは、僕に付き纏っていたって事なのだろう。
「ユウトさん!!絶胤先生…女性の方だったんですか?!」
ガチ情報だと聞いた瞬間、レミリスさんはパアッと満面の笑みを浮かべると、テンション高めで僕に向かって話始めた。あれ?これもしかして、レミリスさんは大丈夫かもな。
「シーッ。あのですね…?レミリスさん。その話、絶対に口外しないで欲しいんですが…。」
「ヤバいですね…。あの性別も年齢も不詳の絶胤先生が…女性の方で、しかも…ユウトさんの都合の良い玩具だったなんて…。美憂さん?ユウトさんのお相手ですが、人気アニメ“勇者ウェルドは諦めない”の原作者さんです!!」
その情報、美憂にはマズい気がするんだが…。それと、玩具とか人聞きの悪い。僕の所属事務所が恋愛禁止としているので、仕方なくお互い都合の良い関係に結果なってしまってるだけだ。
「あ…あれ…。お、お兄ちゃん…?今日、私…観に行った舞台…。そんな題名だったよね…?」
一切、アニメに興味がない美憂でさえ、僕の舞台の題名は覚えていてくれるのだ。まぁ、今まさにそれが仇となりそうなのだが。
「そうなんですよ!!ねぇ、美憂さん?何となく、察せちゃいましたよね?」
「お、お兄ちゃん…お、女を…手懐けさせる特技あったなんて…。だ…だから、私もレミリスさんも…。いつの間にか…お兄ちゃんに、落とされていたってこと?!」
何だか、レミリスさんと美憂の話の内容が噛み合ってないようだが、この様子なら何とか切り抜けられそうな気がしてきた。
「あ。美憂、こんなことしてる暇なんてないぞ?この街は、もうすぐ魔族の襲撃に遭うんだからな?」
「うん。私、知ってるよ?ヴェルさんに教えてもらったから!!お兄ちゃん、邪魔してごめんなさい…。」
なんだよ。そこまでの話、いつの間にヴェルは美憂にしてたのか。
「レミリスさん。魔族が来た方向分かりますか?被害が大きかった方向でも良いです。」
確か、僕の記憶では…能力鑑定所の門扉がある面が激しくやられており、その左右後方にあった綺麗な石造りの街並みは、跡形もなく全壊していた筈だ。
「確か…街の南側から来たんだと思います。外へ飛び出て空を見ると、能力鑑定所の遥か南の上空に魔族らしき姿が一瞬…見えました。何故一瞬だったのかは、ユウトさんはお分かりになると思います…。」
「ごめんなさい!!レミリスさん。辛い記憶を思い出させてしまいましたよね…。ですが、これで大体の位置が分かりました。あのぉ…?ヨシュアさん!!この後、僕たちは魔王を倒しに行く旅に出ます。ヨシュアさんの能力も必要になると思います。着いてきて頂けますか?」
初対面で悪いね?ヨシュアさん。あと、また巻き込んでゴメン。
「俺で良いんですかい?!レミリスちゃんから、ユウトさんの話はうんざりする程、よーく聞かされてましたんでね?この話、承知しやしたぜ!!」
「じゃあ、宜しく!!あ、そうだ!!ヨシュアさんとレミリスさん?美憂の能力鑑定しに行って貰ってもいいかな?その間に、魔族倒しておくから!!」
二人に言うだけ言うと、僕は魔族討伐に取り掛かった。
────
作戦は簡単で、入り待ちの要領で勇者ウェルドの演技をした状態の僕が、魔族を迎え討つ。
──「【光速移動】し続けておいて、現れたら【運命斬り】で良いんじゃないか?」
現実味のない滅茶苦茶なことを、M・a・Uさんの声でヴェルがサラッと言ってきたのだが、M・a・Uさんがそういうキャラの声を演じすぎていて、『うんうん、言いそう。』とついつい思ってしまう。
「なぁ…?ヴェル。もう美憂の身体には乗り移れないのか?」
──「残念ながら、今の状態では無理だぞ?この前の、レミリスの【死に戻り】みたいに、自分以外が時間軸を崩壊させるような場面に遭遇した場合だけだな。」
美憂の話をしてしまったが、ヴェルについての話だったからか、今回は【演技】の範囲内だったようで、勇者ウェルドのままでいられた。どこまでがセーフなのか、線引きが全く分からないが、ユウトとしての私情を挟むとダメだった気がする。
──「ほら?言っていれば、ご登場みたいだぞ?」
実は僕たちは街の南側で、【光速移動】を繰り返しながら、魔族が現れるのを見張っていた。勇者ウェルドの魔力量的に、そろそろ限界だったところで良かった。
「【運命斬り】!!」
そう唱えた瞬間、聖剣ヴェルデュルグは本来の姿である運命の女神に戻ると、魔族へと一直線に向かって行った。
──「お前の運命は…うん、誰も知らんだろうな?」
「うわっ?!何をするっ!!ここから出せ!!」
そう魔族に告げながら、ヴェルは自らの右手から何かふわふわと光る何かで、魔族を包み込んでしまった。光に包み込まれた魔族は叫ぶが、声が微かに聞こえる程度だ。こんな展開、原作を熟知している僕でも流石に知らない。
──「孤児だったおまえを、最初に拾った奴がダメだっただけみたいだな?そこから、やり直させてみようじゃないか!!丁度、適任者も居るしなぁ?」
ん?『やり直させてみよう』って、どういう意味だ?ヴェルって…もしかして、公式設定以上に出来るキャラだったのか?!今まで僕は、ヴェルについては勇者ウェルドに付き纏って、チート攻撃で敵を惨殺するだけのストーカー系ヒロインだと思っていた。
ヴェルの言う『適任者』については、嫌な予感しかしていない。
──ピカッ!!
「うわぁぁぁぁっ!?」
魔族を包み込んでいた光が、急に弾けたようになり、周囲に眩い光が放たれた。
──シュッ!!
光が放たれた瞬間、魔族の叫び声のようなものも聞こえた気もしたが、次の瞬間には周囲を照らす眩い光は収束し消えていった。
「あれ…?ここは、どこ?」
──「ここはナジーブだ。」
「ナジーブ?ボク、そんな地名聞いたことないや。」
先程まで魔族が浮遊していた位置の真下となる場所の地面に、薄汚れたボロボロの格好をした銀色の短髪で、薄い灰色の肌をした紅い目の男児が、ヴェルと言葉を交わしていた。
──「ユウト?可愛い顔した小僧みたいな魔族の孤児だ。あんな未来にならんように、よろしく頼むぞ?」
ふと気付くと、ヴェルは聖剣ヴェルデュルグ形態で僕の両手に収まっていて、その言い草もまるで他人事のようだ。
「ちょっと、今回ばかりは酷くないか?」
──「ん?ナジーブの損害ゼロに収まったんだ!!私に感謝して欲しいくらいだぞ?しかも、ユウトの舎弟も出来て、良かったじゃないか!!なぁ?」
舎弟と言うか、なんだろうな。
「あの…。さっきのお姉ちゃん、ボクはお兄ちゃんの世話になれって…。だから、これからよろしくね…?お兄ちゃん。」
母親の再婚で、義妹しか居ない僕には、弟ポジションの存在がずっと欲しかった。義理の弟になれば、一緒に風呂だって入れるし、一緒に見せっこしたり、連れションしたりと夢は膨らむ。
「僕の名前はユウトだ。君の名前は?」
──シュン…
ユウトとして話した為、勇者ウェルド状態が解かれたが、仕方ない。
「ボクの名前は…ポナイル。宜しく!!」
勇者は2.5次元俳優 茉莉鵶 @maturia_jasmine
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