第8話 自分の未来を変えたんです!!

日時不明────


 令和6年9月14日、13時30分。

 僕は劇場の舞台上で、2.5次元舞台“勇者ウェルドは諦めない”の第一部で、勇者ウェルドを演技中だった。

 なのに今、僕は見知らぬ景色の屋外に、舞台袖までついてきていた義妹の美憂と共に居る。しかも、美憂はどういう訳か、同じ事務所の人気女性声優でM・a・Uさんの声になっていて、自分のことを…勇者ウェルドの相棒のヴェルだと名乗っている。


 「ユウトさんっ!!」


 僕と、ヴェルというべきか美憂というべきか、まぁ二人で会話している最中に、背後で音がしたので振り返った。

 ここまでは良かったのだが、全く身に覚えがない翆色の目をした、プラチナブロンドの美女に僕は名前を呼ばれた。


 ──「そこのおなごは、確か…レミリスとか言ったな?私だ!!分かるか?」


 「あの…。ヴェル…さんですか?!」


 僕が覚えていないのに、何故ヴェルは覚えていられるんだ?この会話から想像すると、僕とヴェルはこの目の前にいる、美女には面識があるという事になる。


 ──「流石だな!!何ひとつ覚えてない、ユウトとは大違いだな?」


 「え?!ユウトさん、私の事忘れたんですか!?」


 ──「なぁ?レミリス。全く…ユウトは、最低だろう?私がユウトと共に時間を戻ってなければ、今頃どうなったことやら。」


 「さっきヴェルが『この世界に一度来ているんだよ。』って言ってたのって、もしかして…レミリスさんが関係してる感じ?」


 「なるほど!!【死に戻り】した場合、基本的には私だけが記憶を持ったまま、その時間に戻るんですね…。」


 あー。そういう事!?

 目の前にいるレミリスさんは【死に戻り】スキル持っていて、何らかの事由で【死に戻り】を使ったってことか。

 それで、その時の僕とヴェルは、どういう経緯でかは知らないけど、レミリスさんと知り合っていたと。


 「えっと、僕とレミリスさんはどんな関係だったんですか?」


 ──「レミリスはなぁ?レミリスが自ら志願して、ユウトの所有物になったんだぞ?」


 こんな美女が僕の…所有物?!思わずゴクリと喉が鳴ってしまった。


 「はい…。ですが、あの時の私とは…もう違います。【服従】魔法を掛けられる前に、あの地主の方の家を出ましたので。今は、ここのお庭の持ち主で、ヨシュアさんという方のお店のお手伝いをして、ユウトさんが来るのをお待ちしておりました。」


 なんか、僕が出会った時点では、色々訳ありな美女だったって事か。それにしても、僕は何をやったんだろうか?


 「なぁ?ヴェル…。一体、僕が何をしたらこんな風になるんだ?」


 ──「ユウトが【演技】スキルを使って、勇者ウェルドを演技して、私を使って魔族を倒したからなんだ。」


 魔族を倒した?【演技】スキル?

 何を言ってるのか、チンプンカンプンだ。


 「今から、地球の時間でいうところの30分後、この街は一人の魔族の襲撃を受け、半壊状態まで陥ります。」


 ──「そういう訳だ。ユウトはこの世界に来る際、【演技】スキルを授かってるんだよ。だから、ユウトが背中に掛けてる私を持って『【演技】勇者ウェルド!!』って叫んでご覧よ?」


 なるほど、僕は異世界転移させられた際に、【演技】スキルを授かっているのか。それに、僕の背中に斜め掛けしてるのは、殺陣用の聖剣ヴェルデュルグ風の模造刀だ。


 ──ガチャッ…


 ヴェルの指示通り、僕は背中から勇者ウェルドの相棒の喋る聖剣ヴェルデュルグを鞘から抜くと、両手で持って前に構えた。


 「【演技】勇者ウェルド!!」


 ──キラッ…!!


 身に纏っている勇者ウェルドの衣装が、急にズシッと重みを増した。その次の瞬間、聖剣ヴェルデュルグに嵌められている、演出用のLED内蔵のおもちゃの宝石部分が、急に眩しい光を放ち始めた。決して、LEDとかそういう次元の明るさの光ではなかった。


 ──「やっと会えたな?ウェルド。」


 両手に持っている聖剣ヴェルデュルグから、M・a・Uさんの声が聞こえてきた。


 「お兄ちゃん!!バカ!!浮気者!!」


 浮気者って…僕は美憂とは付き合ってる認識は全くないので、そんな事言われても困る。と言うか、声も様子もいつもの美憂に戻ったようだ。


 ──「ウェルド。何か、思い出してはこないか?」


 そう言われてみれば、【演技】スキルを使った直後からだろうか、これから起こるであろう出来事について、徐々に思い出し初めてきていたのだ。


 「レミリスさん!!忘れてしまっていて、すみませんでした…。日本人のお祖母様がいるオーストラリア人の19歳でしたよね?でも、なんか雰囲気…違いますよね?」


レミリスさんには、演技中の勇者ウェルドとしてではなく、素の増田ユウトとして謝りたかった。


 ──シュン…


 先程まで、薄ら光で覆われていた勇者ウェルドの衣装から光が消えると、ズシッとした重さが嘘のように軽くなった。それと同じにして、両手で構えていた聖剣ヴェルデュルグも、宝石部分に灯っていた光が消え、フッと軽くなってしまった。


 「私のこと、思い出して頂けたんですか?!嬉しいです!!私の雰囲気が違うのは…さっきご説明した通りで、あの小屋に行くことも、【服従】の魔法を掛けられることも無くなったからです。【死に戻り】して時間が戻った私は、ユウトさんとの幸せの為に…自分の未来を変えたんです!!」


 思い出した…。レミリスさんは『次は、綺麗な身体の私で…。』と言いながら、【死に戻り】する為、自害したんだった。あの時は意味が分からなかったが、今…レミリスさんに言われてようやく意味が分かった。


 「お兄ちゃん!!私のこと、無視しないでよ!!」


 そうだ…。前回と同じ時間を辿ってきた筈だったのに、今回は…ヴェルが色々と暗躍していたせいで、美憂がついてきているんだった。


 「全然、無視してないぞ?それに、浮気者って何の話だ?」


 レミリスさんの件は、素直に謝って交際を認めてもらうべきとは思っている。


 「レミリスさんの件は…お兄ちゃんからじゃないって話だし、許してあげる!!でも!!もう一人の件は、許してあげないんだから!!」


 もう一人?はて…?


 「あの…。すみません。さっきからユウトさんのこと、“お兄ちゃん”って呼ばれてますが…声も変わりましたし、ヴェルさんではないのですよね?」


 そうか。ヴェルの声のままだったので、レミリスさんも分かると思って、すっかり美憂自身の紹介するのを忘れていた。


 「あっ…。ごめんなさい。私、増田・ヴィクトリア・美憂と申します。お兄ちゃんとは…血縁関係にない義妹です!!お兄ちゃんには、『高校卒業したら』私のこと抱いてくれるって言われてて…。」


 「私の方こそ…すみませんでした!!レミリス・カスミ・エドワーズと申します。【死に戻り】する前、ユウトさんに『こんな私ですが…貰っては頂けないでしょうか?』と押し掛けてしまいました。」


 なんか自己紹介しつつ、僕との親密度アピールしてくれてて、この二人…意外とバチバチしてないか?


 「レミリスさん?聞いてくださいよ!!お兄ちゃん、私たちがいるのに…日本で都合のいい女作ってたんです!!しかも、高頻度でその女の家に行って、身体を重ね合ってたみたいで!!」


 おーい!!ヴェル!!おいおいおい…。極秘事項なに美憂に喋ってんだよ!!


 「え…っ?!私…穢された身体をリセットする為に、自分の首まで斬って…ユウトさんに操を立てたのに!?酷いです!!その相手の女、誰ですか!!」


 あれ…。レミリスさんが、私…赦せないって表情して、怒ってるんだけど…。


 「絶胤って名前、レミリスさんは知ってます?私、全く聞き覚えないんだけど…。」


 終わった…。絶対に口外してはならない情報が、美憂の口から…出てしまった。

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