第7話 ようやく、戻ってこれたみたいだぞ?
令和6年9月14日────
「…ちゃん!!」
──ドスンッ…
まだ寝ていた僕の耳元で声が聞こえ、次の瞬間下半身辺りが急激に重くなった。
「ねぇ…っ!!お兄ちゃんっ!!」
──グイッ…グイッ…グイッ…グイッ…
「うわ!?美憂、何してるんだよ?!」
寝ている僕の部屋の中で、美憂の声が響いた。流石にビックリした僕は、急いで目を覚ました。だが、僕の身体から掛け布団は剥がされていて、あろうことか薄着姿の美憂が僕の下半身辺りに腰を落としており、前後に腰を動かしていたのだ。
「私、お兄ちゃんと子作りしないと…。」
「はぁ…。僕は美憂には、卒業まで待っててって、言ってるよね?」
「だって…!!私、夢を見たの!!今日の舞台中、劇場が大爆発を起こして、お兄ちゃん…行方不明になっちゃうの!!嫌だよ…私。お兄ちゃん…居なくなるの…。だから…今から私と子作りして!!」
滅多に冗談を言わない美憂が、涙を流しながら僕の目を見て訴えかけてきている。
でも、今回の劇場は有名な劇場だ。それに今は令和で、昭和ではないのだ。だいいち劇場でそんな大爆発起こしたなんて、聞いた事がない。
「大丈夫だから。僕は、美憂の前から居なくなったりしないから。」
「今日、私…お兄ちゃんの舞台、見に行く!!だから、一緒に行ってもいい?」
そういえば僕の舞台、美憂は『お兄ちゃんは好きだけど、2.5次元は無理!!』とか言って、一度も見に来たことは無かった。
「あー、マネージャーさん車で迎えにくるから、一緒に乗ればいいさ。」
「じゃあ…私、支度するね?マネージャーさん来たら、教えてね?」
お年頃で学生の美憂だが、休みの日はメイクの勉強をしてるとか言って、支度がもの凄くかかるようになった。
血縁関係がない為、当然だが僕と美憂は全く似ても似つかない。その為、義理の兄妹とは言えど、並んで歩くのは事務所からNGが出ている。スキャンダルネタの記事を書くキッカケを与えるからだそうだ。
まぁ、メイクしてなくても美憂は可愛い。どれだけ可愛いかと言えば、背は150cm台と小柄で、髪は背中くらいまであるロングヘアの赤毛、目の色は空色、肌はピンク系の白い肌で、とここまで来ると分かるとは思うが、美憂の父親のジョナサンがイギリス人の為、日英のハーフになる。
どういう訳か、僕の母親で
まぁ、そういうわけで美憂は日英ハーフの為、顔の彫りが深くて少し気の強そうな顔立ちだが、僕にとっては可愛くて美人な妹だ。
令和6年9月14日、13時30分頃───
あの後、迎えに来たマネージャーさんの車に僕と美憂が乗り込んで、劇場の裏手にある関係者出入り口へと着いた。そこまでは良かったのだが、どういう意図なのかマネージャーさんが美憂へと、関係者パスを渡して、関係者出入り口を通らせてしまった。
トイレへとマネージャーさんを呼び出して理由を聞いたところ、『あんな美人な妹さん居るなら、早くうちの事務所に紹介して下さいよぉ…。』という話だった。
そんな訳で、関係者パスの威光とばかり、美憂が舞台裏側をウロチョロし始めている。
「ウェルド様!!危ないっ!!」
「何っ?!」
現在、上演開始から1時間30分程経過しており、たった今交わされたセリフは、勇者ウェルドを中心とした勇者パーティ5人が、魔王の四天王の1人である魔女イゼールの居城へ向かっている最中、背後から奇襲されるというシーンでのひとコマだ。
それにしても、何故か舞台袖を美憂がチョロチョロと動き回っているのが、ついつい気になってしまう。
この後、特殊効果で爆発が起きた後、スモークが焚かれ、舞台が暗転し場面転換される流れになっている。
「後方からの魔法に警戒しろ!!また来るぞ!!」
──ビュンッ!!
遥か上空から大型の攻撃魔法が、勇者パーティに向かって高速で放たれたような、舞台照明と舞台音響による演出効果がされる。
「うわぁ!?魔法が間に合わないっ!!」
いよいよ、この2.5次元舞台の見せどころだ。
──ドオオオオンッ!!
「キャアアアアアッ!!」
劇場内が揺れる程の耳をつんざくような爆発音が聞こえ、キーンと耳鳴りがし始めた。
まさか…。今朝、美憂が見たと泣きながら言っていたことは、本当に…正夢?予知夢?だったのか?そう思い始めた時だった。
「お兄ちゃん!!逃げて!!危ないっ!!」
同然となる劇場内で、舞台袖から美憂が大声を出しながら、何やら杖のようなものを握りしめながら、僕のすぐそばまで駆け寄ってくると、突然飛び付いてきた。
──ドカアアアアンッ!!
美憂の飛びつくタイミングとまるで合わせたかのように、轟音と共に爆風が舞台上にいた、僕たちを襲った。
日時不明────
──「…い!!」
「んっ…。」
どれくらいの時間が経ったのだろうか。はたまたすぐなのだろうか。爆風で吹き飛ばされた僕は、意識を失っていたようだが、M・a・Uさんらしき声が聞こえてきたおかげで、幸いなことに目を覚ますことが出来た。
目をゆっくりと開けると、舞台上にも劇場内にも僕は居ないようで、まず空が見えた。
──「おい!!ユウト。ようやく、戻ってこれたみたいだぞ?」
「M・a・Uさん、無事だったんですね?」
ようやく戻ってきたとはどういう意味だろう?そんな事を考えながら、M・a・Uさんの声がした方へと顔を向けた。
「み、美憂…?!声真似でも始めたのか?」
僕が顔を向けた方向には、M・a・Uさんの姿などはなく、どこからどう見ても、今朝おめかしを決め込んでいた、僕の義妹の美憂が屈みながらこちらを見つめていた。
「ああ、すまんな!!私は、ヴェルだぞ?あれだ、妹さんと波長があってな?少し、身体を借りさせてもらっているんだよ。」
言っている意味もそうだが、美憂の顔でM・a・Uさんの声で喋られても、余計に頭が混乱してくる。でも、自分の事をヴェルと呼ぶのは、あのキャラしか思いつかなかった。
「ん…?ヴェルって…。運命の女神の?」
──「うんうん!!さすが、ユウトだな!!まるで、私のウェルドみたいじゃないか!!」
本来ならヴェルは、アニメ“勇者ウェルドは諦めない”のキャラクターで、実在している筈はない。でも、アニメが好きではない美憂だ、ふざけて声真似出来るとも思えない。しかも、ヴェルのCV担当のM・a・Uさんの姿も周囲には見当たらないこの状況では、ヴェルの言うことを信じるしかなさそうだ。
「なぁ?ヴェル。ここは一体、どこなんだ?」
思い切って上体を起こした僕は、劇中でウェルドがヴェルとやり取りする口調で、問い掛けてみた。
「ここは、ナジーブと呼ばれる街らしいな。それと、ユウトの住む世界とは異なる世界だ。しかも、この世界には勇者は魔王に討たれてもう居ないそうだぞ?」
「僕と、美憂とヴェルは異世界に転移してきたってことか?しかも、勇者亡き世界に。」
何故かヴェルはこの世界の事を、知っているような口ぶりだった。まさか、ヴェルが僕たちをこの世界に連れてきたのか?と一瞬思ったが、ウェルドの事が大好きなヴェルが単独行動なんてするだろうか?
「実はな?既に私とユウトはこの世界に一度来ているんだよ。まぁ、人間のユウトが覚えてないのは無理もない話だな!!」
「え…?!僕、この風景に全然見覚え無いんだけどな…。」
はっきり言って、僕にはそんな記憶はない。と言うか、僕がヴェルとこの世界に来たことがあると言うのなら、この世界の誰かが覚えていても良いはずだ。
──ギイィィィッ…
そんな時だった。
急に僕の後方から、扉のようなものが開くような音が聞こえてきたのだ。
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