新着

七 虹花(なな こはな)

新着

新着メッセージ 無し。

 昨晩から何度リロードしても同じ。私はがっかりしたようなほっとしたような気持ちでまた携帯を閉じた。幼馴染で恋人の律からの返信を待っていた。昨日の昼、勢いと怒り、寂しさに任せて送った「もう別れよう。」というメールに返信がないのだ。一度送ってしまったことは取り消せないのに気がついて、この18時間ずっと後悔をしていた。律がたまたま読まずに消去してくれないかと思ったほどだ。

 そもそも私がこんなメールを送ったのは、この春から始まった遠距離が原因だ。律が大学進学とともに上京すると、私たちの距離はあっという間に1000㎞も離れてしまった。生まれた時から隣にいた私たちにとってその距離は大きすぎた。東京の大学生になった律の送ってくるメールにはいつもきらびやかな写真が添付されていた。行列のできるおしゃれなお店の食べ物に、雑誌に出てくるような服を着た新しい友達たち。一方で私の送ったメールに添付された写真は道端の花、空、家族ばかりで何ともパッとしない。この三か月どんどん律が遠くに行ってしまうような気がしていた。律は変わってしまった。そんな気がしていた。

 不安を募らせていた私には一昨日の律の電話は致命傷だった。いつもなら事前に確認をしてくる律が急に電話をかけてくるなんて珍しいと思った。案の定携帯から聞こえてきたのは、綺麗な顔に似合わず低く男らしい律の声とは似ても似つかない甲高い女の声だった。

「もしもぉし、律君の彼女さんですかぁ?」

背筋が凍るような感覚だった。思わず電話を切ってしまった。そのあとは朝までぐるぐるといろんな可能性を考えていた。ただのバイト先の先輩かもしれない。それか一緒に課題をやっていた学部の友達の一人かも。いくら考えても本当のことなんてわからなかった。考えれば考えるほど最悪の想像が頭を支配した。律のあのたくましい腕が女を抱き寄せ、あの柔らかい唇が女の唇に重なっていた。もうそんな想像から解放されたくて、半ば投げやりにメールを送った。

 まだ律からの返信はない。

 そんな時。

 「ピーンポーン。」

 チャイムが鳴った。そんなはずはないのだけれど。まだ幼さの残る、以前と同じ顔で笑う私の愛おしい幼馴染がそこに立っていればいいのに。そう思って重い玄関ドアを開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新着 七 虹花(なな こはな) @nonname089789

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る