第7話 legion
『さあかわいい子供たちよ!自身の脅威となる存在を駆逐し、各々の世界に秩序と平静をもたらすのだ!』
いつのまにか司令官は、自身の身体を異形の怪物に変えていた。全身からは仰々しいほどの体毛が生え、獣のような獰猛な顔つきで、口元には鋭い牙が並んでいる。
彼が呼び覚ました異形の者たちは、かつてこの星で官軍崩壊を画策する者たちが集い、襲い掛かった、いわゆる傭兵集団。あるいはテロリストの面々だった。
彼ら傭兵やテロリストたちは、官軍部隊組織のセキュリティの脆弱部分から侵入するハッキング能力のあるものや、内部の人間を懐柔しようとハニートラップにかけようとしたもの、あるいは武力行使によってねじ伏せようという強硬者も中にはいたが、そのすべてが一網打尽にされたのだった。
全ては、司令官であるこの怪物サイコパスの思惑通り、彼らテロリスト並びに傭兵は他の官軍隊員よりも理性的で、冷酷な決断ができると、踏んだのだった。
そして、捕まえられ捕虜となった人間たちは、すぐさま治験に対応するよう人権を軽視した科学実験が行われた。
さっそく、人工生命体が彼ら危険人物にシンクロするかが試されたのである。
司令官が工作して洗脳した科学者は、実に有能で、忠実な奴隷だった。約一名を除いて。
彼らは、地球上でもっとも生活するうえで成長する過程で形態が変わる生き物、いわゆる変態をする生命体に着目し、研究を重ねていた。
その生命体は、原生する蝶と、蛾だった。かれらは、無数の組み合わせで掛け合わされ、また、様々なアミノ酸やたんぱく質を投与され、人工的に新しい虫として創造された。
のちに、幼虫段階で人間の赤ん坊程度の大きさにまで成長するようになったその生命体は、早くも憑依実験に入った。
ラボの中では、拷問と言う言葉ではぬるすぎる目を覆って耳を塞いでも夜うなされるような試行錯誤が人体に対して行われた。
或る者は、発狂し、手製の銃でこめかみを撃ったり、またあるものは、自らの舌を噛み切ったりした。
まさかその生き物の成育歴と、憑依させる人間の年齢がある程度呼応するものでないと、scrambleを起こすなんてことは、その場にいたどれほどの天才も気づかなかった。これもまたある天才を除いて。
やがて、彼ら科学者は間違った方向へ舵を切り出した。人間側に細工を施し、マッチレベルを高めれるように細工したのである。もっともこれが、彼らが異形の物になった原因の大きな一つだった。
捕虜となった人間たちの身体には、試験的に、獰猛で狡猾な生き物の遺伝子が組み込まれた。たとえば、ハイエナやピラニア、マングースやタランチュラなどである。
すぐさま人間たちの姿かたちは変容したわけではなかったが、徐々に様子がおかしくはなってきた。
それまで、同調不全による悪影響で精神的に枯渇し、それまでの威勢はどこか彼方へと捨て去ってしまったように、生きるしかばねとなっていたかつての傭兵たちは、遺伝子投与とともにみるみる活気を取り戻し、夜な夜な咆哮し防音に手が回らなくなってしまった。
これをヨシと思った司令官は、ついに禁止していた生命体の同調実験を再度決行。
人間ではない生き物と化していたかつての傭兵たちは、同調実験によって、さらなる進化をとげ、今や、怪物のようなバケモノへと姿を変えてしまったのである。
希望の種 YOUTHCAKE @tetatotutit94
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