報復
北西 時雨
報復
はい? PC3さん、今なんと?
「館を燃やす」? 初手でですか?
えー……っと。えー……。
はい、はい……。ちょっと待ってくださいね……。
はい、そうですね……。(本をめくる音)――はい、はい。
ふむ……。
スー(息を吸う音)……。
えー、いくつか確認と質問をします。
まず、あなた方は依頼主から頼まれて銘々集まり館の調査をしに来ました。
今、揃って館の前にいます。
町から離れた森の中にある館は夜間ということもあって不気味な雰囲気ですが、外から中の様子をうかがうことはできません。
本来のシナリオの流れとしましては、これから館に入って調査をするというところなのですが……。
本当に一切入らず、館に火をつけて燃やしてしまう、ということでよろしいですか?
――はい。そうなりますと、シナリオから大きく外れた展開となってしまいますが、承知の上ということでよろしいですか?
――はい。外れるということは、本来受けられた経験や体験を著しく損なうということですが、よろしいですか?
――はい。PLの皆様は、お忙しい中予定を合わせてお集まりいただいたと思うのですが……。PC4さん、あなたは初めてのキャンペーンシナリオのご参加ですが。PC6さんも、お仕事が忙しいのでは? 本当に、PL全員の意向ということでよろしいでしょうか?
――はい。承知しました。……少し早いですが、一旦休憩としましょうか。5分……いえ10分ください。休憩開けたら燃やす描写からいきましょう。
――――。
――はい。休憩終了です。皆様おそろいですか?
はい、では再開します。
あなた方は相談して、館に火をつけることにした。ちょうど可燃物をいくつか持ち合わせていますね? それを使って、館の周りに撒いて、火をつける。火は見る間に館全体に燃え広がり炎が揺らめいている。ロールプレイをどうぞ。
――――はい。ありがとうございました。あなた方は依頼主に報告のため館跡を去るでしょう。
……木の陰から、あなた方を見ている瞳には、誰も気が付かない。
ここから、個別エンディングに移行します。
PC1。あなたは夜道を歩いている。聞き耳をどうぞ。
――成功。背後からコツコツという足音が聞こえてくる。あなたをつけてきているようだ。――あなたは逃げる。しかしすぐ追いつかれた。突き飛ばされて転ぶ。背後にいた者を見上げることだろう。
とても大きな男だ。黒いフードを被って顔が見えない。その手には刃物が握られておりあなたに向かって振り下ろしてくる。回避をどうぞ。――取ってない? では初期値は……。あぁ、分かる? はい、では振ってください。
――失敗。ダメージを出します。――9。
――逃走。判定をどうぞ。――失敗。男にはすぐに追いつかれる。刃物が振り下ろされる。ダメージは……――6。
ヒットポイントが0になりました。ロストです。
PC2。あなたは配偶者と晩酌をしている。
――アイデアロール? まぁいいでしょう。どうぞ。――成功。配偶者が、珍しい上物が手に入ったと喜んであなたにふるまってくる。――受け取らないつもりですか? ずいぶん不自然ですね。せっかくパートナーが勧めてくれているのに。パートナーは美味しそうに飲んでいますよ。
――杯を受け取り一口嚥下する。途端、視界がぐらつき喉に焼けつくような痛みが走る。手足も痺れてくる。ここからはSTR、CON、DEXの判定にマイナス20、1分ごとに1D2のダメージを負います。まずダメージ判定を――。さて、どうしますか?
――あなたは配偶者に向かって杯を投げつける。投擲――失敗。杯は床に落ちて割れる。配偶者は不思議そうな顔をしたままあなたを見ている。1D2のダメージを――。
――テーブルの上にはつまみの乗った皿があります。――投擲――失敗。配偶者の顔が、一瞬、知らない女の顔に見える。1D2のダメージ――。
――割れた杯を手に取り切り込む。こぶしですかね――ファンブル……んー、破片で手を切る。HPを1点減らして、さらに1D2のダメージ――。
強制的な気絶です。知らない女が、倒れたあなたをただ見下ろしている。1D2のダメージ――。
ヒットポイントが0になりました。ロストです。
PC3。ある日の夜。自分の家です。
風呂に入ろうとします。いつも通り服を脱いで風呂場に入ってドアを閉めた。
沸かしたはずの風呂は空っぽで、栓だけがしてある。
バスタブの脇に、見慣れぬダイストレイと100面ダイスが置かれている。横の壁に見知らぬ貼り紙がしてある。「1D100℃のお風呂に5分浸かってね」と書かれていた。1D100を振ってください。
あぁ、ちなみに5分耐えてもドアは開きません。――なんで、ですか? さぁ、なんででしょうね。そもそも、どうしてお風呂で1D100を振るんでしょうね。分かりませんねぇ。
さぁ、1D100を振ってください。
――――――――。
PC4。自室に一人でいます。
自分の携帯電話が鳴ります。出ますか?
――うーん。誰からの電話だったら出ると思いますか?
――そうですね。確かにPC4とPC5は恋仲ということでしたね。ではPC5からの電話です。
――電話に出て、受話器に耳を当てる。PC5の声とは違う、低い男の声だ。何かぶつぶつ言っているのが聞こえる。POW対抗ロールです。計算が難しいのですが……えーっとこれを算出して、……ああ、ありがとうございます。では振ってください。15%ですね。
――失敗。あなたはその声に支配される。その呪文を、口にしないでは、いられなくなる。ではこちらを……。はい。読み上げをお願いします。
――――はい。ありがとうございます。その呪文が何を意味するか、あなたは知らない。言葉だけで何かできるなどとは、そもそも思っていないかもしれません。それでもその不可思議な音の羅列は、あなたの心を確実に蝕む。時として、……本来はいないはずの神が、眼前に見えるかもしれない。……えー、端的に言うととても気持ち悪い見た目の神様が出てくるという場面ですが、描写しますか? ――はい。では正気度ロールです。成功で1D10、失敗で1D100の正気度ポイントの消失です。――失敗。まぁ元々ちょっと低いですからね。1D100をどうぞ。
――正気度ポイントが0になりました。永久的な狂気に陥る。
シーンを切り替えます。
PC5。
あなたはPC4が精神病院に入院したと聞いて病院に来ました。
PC4と面会しようと受付に向かいますが……誰もいません。
受付どころか待合室で待っている患者なども、誰一人いませんね。どうしますか?
ナビゲート。シークレットで振らせていただきます。――うーん。ではですね……院内は薄暗く、けっこう大きな病院なのですが、どこを見ても人がいません。ぐるぐると探索し、……霊安室の扉が開いていることに気が付く。
ここでPC4。1D10を振ってください。――続けて1D4を。――次に1D20……。――はい。ありがとうございます。少々お待ちください。……ふふっ、いや失礼。シーンを再開しますね。
PC5、あなたは霊安室の扉を開けて中に入る。そこには……。
ゆうに20体以上の死体が地面に横たわり乱雑に積まれている。塚のように積まれたそのてっぺんに玉座のような、えーっと、背もたれの長い椅子? のようなものがあり、その椅子に誰かが座っている。
――近付くと、玉座に座っていたのはPC4だった。瞳は固く閉ざされている。その頭部は完全に切り開かれており、あるはずの脳は無く、かわりに極彩色の、見たこともない巨大な花が、その空いた頭部を花瓶のようにして活けられている。PC4が大きなシリンダーを抱えており、その中には培養液のような緑色の水が満たされ脳が収められている。PC4、あなたは異界の存在に、ずいぶん気に入られたようですね。
――。そうPC5が叫ぶ。理解しがたい光景、最愛の人の確実な死を目の当たりにしたあなたは正気度ロール――失敗で1D20の減少――。
絶望するあなたの背後から、がっしりと頭をつかまれる。振りほどくことはできない。ノイズ交じりの不快な声で、こう言っている。「おそろいが、うれしいね」
PC5。ロストです。
お待たせしました。PC6。
あなたは、先の調査で同行した者と誰とも連絡がつかないことに気が付く。アイデアか目星を振ってください。
目星、――成功。路地の陰から自分を見つめる瞳がある。しかし探ってみても正体をつかむことができない。正気度ロールです。――失敗。1D3のSAN減少です――。……そうやって調査をしている間も、また別の方向から視線を感じる。
あなたは、つねに誰かから見られているような感覚に襲われるだろう。
何かがおかしい。この町で一体何が起きているのか。逃げるように町から逃げ出し、歩いた先は……何故かあなたが、あなた方が燃やした館の前だった。
館の前には、探索者5人の亡骸が横たわっている。ある者は血まみれ、ある者は口から泡を吹き、またある者は……とそれぞれ惨い姿をさらし、その表情はいずれも恐怖が刻まれている。凄惨な姿を見たあなたはSANチェック――失敗で1D6の減少です。
燃え跡から、巨大な触手が這い出てくる。……え? はぁ。では描写は省略します。大いなるクトゥルフを目撃したあなたは正気度ロール――失敗で1D100の正気値減少です。――正気度ポイントが0になりました。永久的な狂気に陥る。え――いいんですか? では永久的な狂気からあなたは戻ってこられない。ロストです。
以上でクトゥルフ神話TRPG「○○○○」セッション終了です。お疲れでした。本筋と大幅に外れたために整合性が取れていないところが多々ありますがご容赦ください。
シナリオと違う? まぁそれはそうですが……。先に本筋から外れたのはPLの方ではありませんでしたか? そもそもなぜ、何も調査をしていない、何が潜んでいるのかわからない館を、建物さえ燃やせば解決できると楽観視できるのですか? 猟奇的殺人鬼も、呪いも、悪霊も、神話的事象も、相手が分からずに対策はできませんよね? いくら歴戦の探索者といえど、まぁ普通の人間ですからね。
……え? KPさん怒ってる? いえいえ、そんなことはないですよ。いいんじゃないですか、こういう展開も。ありますよね、災いの元に手を出して、何も分からないまま全員殺されるとか、ホラー映画の冒頭やショートムービーとかで。浅学のため、具体的なタイトルがぱっと出てこないのが申し訳ないですが。
さて、長いキャンペーンシナリオでしたのに、もう終わっちゃいました。スケジュールが空きましたね。次のセッションの予定を決めましょうか。
報復 北西 時雨 @Jiu-Kitanishi
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