第7話 ISSミッション始まる

 NH2A増強型のミッションは2つあった。

 一つ目はISSへの物資輸送。いつも通りロケットの打ち上げ責任者は八千矛部長。取次者は赤井技師。末永次長、緋田主任、吉備野らが打ち上げ作業者側での参加である。

 二つ目は第一段リユースのための技術実証である。補助ロケットLRBは役目を終えたのち、洋上プラットフォームへの着陸を目指す。着陸は逆噴射により垂直状態で接地する。

 二つ目のミッションの主体はYAXA。岩崎重工側の責任者は志真次長。参加メンバーは剣木主任と碓原である。回収実験チームは種子島のリモート監視室と洋上プラットフォームの2カ所に分かれる。新会社における新型のリユース型ロケットの開発を着手するうえでの重要なミッションであった。


 種子島の射点で待機するNH2A最終号機の上空をISSが通過する。打ち上げはレーザー誘導装置の同期から始まる。ここで同期に失敗すれば、またISSが種子島上空に現れるのを待つこととなる。何とか今回のタイミングで打ち上げを終わらせたい。

 種子島の司令室では、メインモニターにNH2A増強型の映像が映し出されていた。内部に充填された液体水素は常に気化し、水素ガスとなる。余剰となった水素ガスは機体外に排出され、空気を凍らせ、まるでロケット自体が息をしているかのように濛々とした白煙となっていた。

 司令室で岩崎重工の技術者たちが所狭しと見守る中、打ち上げに向けた手順ずつ進められていた。

「レーザー光誘導シーケンススタート」

 第一段機体と第二段機体の段間部に設置してあるレーザー光通信受光器がわずかに光った瞬間だった。

「ISS補足。誘導装置同期完了しました」

 緊張の瞬間であったが、ISSとNH2A増強型の同期作業は完了した。続けて、ISS側から交信が入った。

「(こちらISS船長です。リフトオフを承認します」

「(ありがとう。船長。数時間後にまた会いましょう)」

 射点で待機するロケットに対して、打ち上げ許可が下りた、あくまでISS側に主導権があるのである。ISSとの通信と前後してメインエンジン点火のシーケンスが始まった。

「ウォーターカーテン散水開始」

 射点の真下で、エンジンの燃焼ガスの直撃を和らげるため、大量の水が散水される。滝のような流水の轟音が不気味に響いた。

「メインエンジン点火。第一、第二エンジンともに推力問題なし」

「LRB第一、第二エンジンともに燃焼圧正常。推力に異常なし」

 司令室ではロケット技術者はモニタリング結果をただひたすら読み上げる。発射シーケンスは基本的にコンピュータによる自動制御で技術者が直接操作する場面はない。たったひとつ、指令破壊を除いて。

「ブースター点火、ロックボルト解除、リフトオフ」

 射点から巨大な閃光とともに巨大なロケットはゆっくりと地上から持ち上がった。しばらくして、肌で感じるほどの轟音があたりにとどろき、ロケットはほどなくして雲の中へと消えていった。

 数分後、ロケットはマッハに達し、十分な高空に達すると、ノーズコーンを開頭した。むき出しのペイロードは漆黒の宇宙空間を目にした。

 まず、ロケットの外周につけられたブースターエンジンが燃焼を終え、分離・投棄された。その後、LRBとコア機体第一段がともに燃焼終了。LRB、コア機体第一段が順に分離されていった。

 第二段エンジンが点火するまでのわずかな時間、エンジンの作動音はなく、静寂な時間が流れる。第二段ロケットとペイロードは地球を眺めながら、滑空を続けていた。

 第二段エンジン予冷終了まであと数十秒。その時、温度センサーのテレメトリデータが蛇行し始めた。オペレーターの誰かが状況を伝えた。

「第二エンジンの予冷が不安定です」

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