死にかけの天使と出会ってしまったので、面倒を見てやることにした。

彗星桜

第1話 出会いは唐突に

 適当に偏差値の高い高校に入って、適当に運動部に入って、それなりに高校生らしいことをして。

 傍から見たら充実している俺──川畑星亜の人生だが、心の片隅にいまいち退屈だなと感じてしまっている自分がいた。


 生まれてから自分の人生が不幸だと思ったことは1度もない。

 単身赴任が多いが裕福な家庭を築いてくれた両親がいて、性格も相まってどちらかというと人の中心にいることが多かった気がする。


 幸せで恵まれている人生。

 …でも何かが足りなかった。

 元からあったパズルのピースがひとつ欠けているような、元からあったものがなくなったような、そんな感覚が昔からあるのだ。


「…厨二病かよ俺は」


 苦笑しながら俺は小さな声でそう呟いた。


「あー、でも何か面白いこと起きねぇかな」


 何となく地面に落ちていた石を拾って、それを川へと投げる。


「例えば空から天使が落っこちて来るとか。なーんて」


 また苦笑をこぼして、俺はまた歩みを進めた。

 その瞬間、足にひんやりとした何かが触れた感覚がした。

 恐る恐る足元を見ると、そこには水に濡れた白髪から水滴をぼたぼたと垂らした女の姿があった。


「幽霊…?」


「ちがいます」


「うおっ」


 幽霊かと思った女は、意外にも普通に返事を返してきたので俺の心臓がぴくりと跳ねた。

 女(幽霊?)はびしょびしょに濡れた髪を後ろに流してから、ぺこりと俺にお辞儀をした。


「驚かせてしまってすみません。別にあなたに何か呪いをかけるとかそういう類のものではないです」


「はぁ」


 いきなり丁寧に挨拶をしてくるものだから、俺はどう反応すればいいか分からず、空返事しかできなかった。


「私はただあなたにひとつ頼み事があるのです」


「…頼み事?」


「はい。その袋に入っている食料を分けていただきたいのです。」


 女は俺が学校が終わってからコンビニで買った食べ物が入った袋を指を指しながらそう言った。


「え、普通に嫌なんですけど」


 そう俺が一言いうと女はずざぁぁああという効果音がつきそうなほどの勢いで、俺に土下座をしてきた。傍から見たら普通にホラー映像だ。


「いきなりなにやって…」


「お願いしますお願いします!もう2日間ろくなご飯を食べれていないのです。分けてくれたらそれなりの対価は払うのでお願いします」


 半分泣きながら物凄い勢いで女はそうお願いしてきた。

 高校生男子に向かって髪も服もびしょびしょな謎の女が土下座をしている。

 中々に酷い有様の俺たちに興味を持った人たちが、少しずつ集まってきている。


 このままだと厄介なことになる。絶対に。


「分かった!分かったからとりあえずここから抜け出すぞ!」


 俺が小走りで走り出したらあの女も着いてくるだろう、そう思っていたが、女はまだ地面にべたりと座っていた。

 一瞬このままあの女を置いて家に帰ろうか悩んだが、それもそれで厄介なことになる気がして、仕方なく女の元に近づく。


「あの食べ物欲しいならついてきてほしいんですけど」


「すみません。空腹のせいで自分じゃ立ち上がれないです」


 まるで当たり前です的な雰囲気を出しながら、女は俺を見ながらそう言ってきた。

 初めて見た女の瞳の色は深い深い海のように美しい青色だった。


(日本人じゃないのか…?)


「あの手を」


「手?」


「手を貸していただけないと立ち上がるの無理です」


 青色の美しい瞳に目を奪われたのもつかの間、そろそろ俺のストレス値は限界は迎えていた。


「本当になんなんだよお前は!!!!!」


 周りにいるギャラリーなどお構い無しの俺の声が、辺り全体に響いた。



 この時は思ってもいなかったんだ。


 この女が俺の人生をめちゃくちゃにして、それと同時に俺の人生の歯車を回す存在だなんて。


 運命で必然で絶対的な出会いだなんて、思ってもいなかったんだ。


 ─────────────────────

 少しでも続きが気になる!と思ってくださったら、☆いただけると嬉しいです!

 皆様の反応全てが励みになりますので、応援のほどよろしくお願い致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死にかけの天使と出会ってしまったので、面倒を見てやることにした。 彗星桜 @sakura4456

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ