第2話 1人

適当なお店に逃げこんだ。ドアを閉めて鍵をかけた。手当り次第カーテンを閉めて、電気を消した。人はいない。疲れて足の力が抜けた。へちょんと座る。乾燥してパサついていた目から涙が溢れた。マシュマロ146との思い出が私の頭の中を駆け巡る。助けられなかった罪悪感と自己嫌悪が私を責める。空が黒く前までは空いていたはずのお腹が全くと言っていいほど空いていない。必死に涙を拭く自分の手は生暖かい。ごめんなさい、マシュマロ146。

カーテンの隙間から差し込む光が少しずつ明るくなっていくことに気づいた。そーっと覗き込むと、空が青色に戻っていっていた。あんなにたくさんいたフォークやスプーンもいなくなっている。終わった・・・? 人がいない。食べられてしまったのか。少し安心して、猛烈な眠気が襲ってきた。少し寝よう。横になって、丸まった。

「大丈夫ー?生きてる?死んでる?」

体をゆさゆさ揺らされて、目が覚めた。知らない人の顔が近くにある。びっくりして飛び起きた。誰?怖くて声がでない。

「良かった!生きてた!こんなとこ寒いでしょ!私と一緒に来て!」

え?どこに?怖い。あんなことがあったのに、何でかこの人はにこにこしてる。怖くなかったのだろうか。

「え、あの、あなたは・・・?」

「んー?私?私はねー、タルト87!よろしくねー!!」

タルトの人なんて会ったこともない。珍しい種族なのか。今気づいたけど、この人腰に大きなナイフをつけてる。怖い。

「まあまあ、とりあえずついてきて!こっちこっち!」

ナイフの怖さもあって、あっさりついていってしまった。殺されたりするかもしれないのに。外に出たら、すっかり夜だった。タルト87さんが小さなランタンを持って私を誘導した。正直、怖さよりも憂鬱な気持ちの方が今は強かった。なんでだろ。

ついたところは、駅だった。たまに私も来る駅。

「ここだよ!この場所はもう人がいなくて危険だから、避難するよ!」

「そんな、いきなりすぎます」

焦った。ここから離れたら私じゃなくなってしまうような気がして。タルト87さんは穏やかな笑顔で私を見つめていた。

「大丈夫、あなたが見たアレは、私たちがどんどんやっつけちゃうから!」

アレって、あの・・・?やっつける?そんな。やっつけられちゃうなら、マシュマロ146も助かったはずなのに。

「じゃあ行くよ!みんな待ってるからさ!」

中に人がいるみたいだ。少し安心した。中に入る。少し眩しい光が目に入った。

「お前、カヌレ428か?」

聞き覚えのある声がした。その方向に目を向けると、懐かしく感じる顔があった。

クッキー2525だ。目が緩んだ。涙が溢れた。知ってる人が生きてた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神様のおやつ おちょ @ocho1006

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ