第7話 鬼人流

「・・・ん?」

 見知らぬ白い天井、見知らぬ部屋、窓から見える満月。

ここ、俺の部屋じゃないよな。病室か?

「やっと、起きた...おはよ、ゼロ!」

 隣で椅子に腰をかけている吹雪が、微笑みながら言った。その顔は、少しだけ心配そうな顔をしている。

「・・・ごめん、心配させたな。」

「ああ、まだ動かないで。エルさんが、あと三日は安静にしてろって言ってたから。」

「エルって、誰?」

「そっか、知らないのか。エルさんは..」

 吹雪が話そうとすると、病室のドアが開き女性が入ってきた。

「やっとお目覚めかい。あんまり彼女さんを心配させない方がいいよ?」

「彼女?」

「え、違うのかい?」

 女性は不思議そうな顔をして、ゼロと吹雪の顔を見つめた後、ため息を付いた。

「最近の若いのは、これだから...まあいい。私が君たちの話してた、RAVENの頼れる医院長。エルさんだ!」

「あなたが...ありがとうございます!」

「いいや、感謝すべきは私じゃない。その子さ。君が気を失っていた約二日間、常に君のことを見ていたのだからね。」

「そうか、二日間も...ほんとに心配させてごめんな。いいや、ありがとな!」

 笑顔でそう言うと、吹雪はその顔を見て、安心したように肩の力を抜いた。

二日間も気にかけ続けた疲れは、かなりのもので、吹雪は安心したと同時にあくびをしてゼロに言った。

「ゼロ、ちゃんと安静にしてるんだよ。私は眠いから、寮に戻るよ。」

「ああ。本当にありがとう」

「別に、暇だっただけだよ。」

 そう言って吹雪は病室から出ていった。

「それじゃあ、ゼロくん、真面目な話をしてもいいかな?」

 エルは急に真面目な顔をして椅子に腰を下ろした。

お腹の前で指を組んで、エルさんは話し始めた。

「君が使う鬼人流という流派、それが人間にどれほどの影響を与えるかは、わかっているよね?」

「はい。鬼人流は連発できない。それは人体に、圧倒的疲労と苦痛を与えるからです。」

「そう、さすがだね。ホウオウとの戦闘は覚えているよね?何があった?」

 鋭い目で見てくるエルさんは、少し怖い。なにか、見透かされているような気分だ。

 そしてゼロはエルに、ホウオウとの戦闘のことを全て話した。

「なるほど...鬼人流を二度使ったからか。」

「あの、体になにか異常があるのでしょうか?」

「そうさ。二日間、君の体を診させてもらったんだが、破壊された筋肉の回復速度がとても早いんだ。」

「いい事なんじゃ?」

「まあ、とても悪いことって訳じゃない。しかし、二日間食事をせずに点滴での栄養摂取だったせいか、筋肉が完全回復せずに回復が終わってしまったんだ。」

 そう言うとエルさんは、持っているファイルを開いて、一枚の紙を取り出した。

「数年前の物だが、これは私の友人の観察記録だ。こいつは君と同じように鬼人流を使える。」

「・・・鬼人流を使えるなんて、珍しいですね。」

 渡された紙を見ると、エルの友人の健康診断の結果がグラフ化されて書いてあった。

そのグラフには鬼人流を使った日時も書いてある。

 鬼人流を使った日は、一日身体能力が向上し、その次の日に使う前より低下している。

そして、少しずつ向上していく...

「分かったかな。鬼人流は、人間の身体能力を鬼に近付ける力がある。しかしそれは、一時的のみ。」

「使う時は慎重に、ですね?」

「ああ。特に二連続で使うと、体力の低下が凄まじい。やめておいた方がいい。それじゃ、私も帰るよ。何かあったら、そこのボタンを押してくれ。」

 そしてエルさんは、病室をゆっくり出ていった。


翌日。

「ゼロ、起きろ。」

「んん?ああ、レクか。なんだ?」

「レナってやつが、お前に話あるそうだ。迷惑かけたくないから、起きてるか確認して来てくれってな。」

「だったら、寝かしといてくれてもいいだろ...」

 そう言いつつも体を起こし、身だしなみを整える。

「入っていいぞ!」

 レクがそう言うと、ゆっくりとドアを開けてレナが入ってくる。

「そんじゃ、俺は行くから。じゃあな」

「おう、ありがとな。」

 レクが病室を出て行くのを見届けた後、ゆっくりとゼロに近付いてくる。そして、レナは言った。

「その、ゼロくんと、ちゃんと...お、お話したい...」

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