曲解されそうなレビュータイトルだと思いながらも、
あえてカサブランカに主語を寄せてみました。
物語は、ただただ人間的です。
それが哀しくてもいやしくても、善であっても、義であっても。
律儀で誠実な物語でありながら、残酷で容赦のない物語でもある。
闇と光を相対させれば、その花弁は、合間に何を浮かび上がらせるでしょう。
一期一会という言葉がありながらも、実際のところ、
人は絶えず流動的に、あるいは刹那的に生きていかねばならない。
それが、現実というものの痛みではないでしょうか。
本作では、一組の幼馴染同士とその家族を中心に、
訥々とした、噛みしめるような人間のドラマが描かれます。
迎え火に始まり、送り火に終わる。
実際はその枠に収まりませんが、故郷というよすが、
あるいは心の中にある、それぞれの故郷に。
望郷の念を抱きながら、ここに暇を告げたいと思います。
田舎に憧れた都会人が「都会はクソだ。田舎暮らしにこそ人間らしさがあるんだ」とのたまう。
都会に憧れた田舎者が「田舎はクソだ。都会暮らしにこそ人間らしさがあるんだ」とのたまう。
これらの事って、よくありますよね。
でも、実際は、田舎暮らしを上手くやれる田舎者は都会に出ても上手く馴染めるし、都会暮らしを上手くやれる都会人は田舎へ引っ越しても上手く馴染めて、上記のような現在のコミュニティを否定して見ず知らずの世界を礼賛するようなセリフを吐く人間はどこへ行っても馴染めない……それが真理だったりします。
そう、思っていました。この物語を読むまでは。
訳の分からない因習やどうにも自分と合わない空気感、それらは田舎にも都会にもあります。時には陰惨な事件や、反吐が出そうな不条理も、それらは都会だからこそ起こるとか田舎だからこそ起こるなんて事はない。ハッピーとアンハッピーは何処に住もうが同じ位に生まれてくる。
だけども、狂おしいほどに愛おしい【自分を育んでくれた空気】というのはやっぱり故郷にある訳で。故郷にしかない訳で。
【私たち家族を育んで見守ってくれた、この土地が、この空気が、この歴史が、この風習が、とてつもなく愛おしいんだ】と思ってしまう人は、何があってもその故郷に住み続けるのが幸せなのかも知れない。
私はそんな事を思いました。
でも、きっと、この物語は読む人によって違う感想を持つ事でしょう。
そう。私たちが現実世界で見誤ってしまう多層構造がこの物語の中にはある。だから、色んな感想が生まれてしまう。
さて、あなたはこの物語を読み切った後、どんな感想を持つでしょう?
ステキな物語です。ぜひ、ご一読のほどを。