お前が祠を壊したんか!?

関係者達の話をまとめ終わった調査員は頷く。


「今回の事件の全容が掴めました。

村長。村の皆さんを集めてください」


調査員は村長に村人達全員を集めさせると、今回の祠破壊事件に関する推理を披露し始めた。

百々神様は、これは良い見世物だと上座ではしゃいでいる。


「皆さん。そして百々神様。お集まり頂きありがとうございます。

今回の事件の犯人が分かりました。


結論から申しましょう。犯人は、貴方です!」


調査員が人差し指を向けた先。

そこには、自称動画配信者の大学生が立っていた。


「お前が祠を壊したんか!?」


村長が激昂した様子で叫ぶ。


「オレぇ?いやいやいやいやいや!

違うって、無理だってぇ。

動機もねぇしぃ、ほら、なんか神様パワー?だかで色々無理じゃん?」


慌てながらも弁明する大学生に対し、調査員は頷いて語り出す。


「ええ。本来ならば不可能でしょう。

順序立てて説明します。先ず、今回の百々丘村どどおかむら祠破壊放火事件に置いて、重要な事項は五つになります」


調査員は指を五つ立てる。


「第一。祠の事を知れるのは、村の関係者のみ。

第二。祠に近づくには、村長達が管理をしている結界を抜けなければならない。

第三。祠に近づいても、発狂から身を守らなければならない。

第四。村の人間は祠を壊そうとすると、盟約により死んでしまう。

第五。祠を壊す動機があるかどうか」


調査員は話す毎に指を折り曲げていく。


「第五の動機に関しては後ほど説明する為除外しましょう。

村長は第二の条件はスルー可能ですが、他が不適。

大学生の方は第四以外が不適。

オジサンは第二と第四が不適。

双子は第一以外が不適。


一件、全員が不可能であるように見えます。

ですが簡単な事でした。一人一人が不可能であるのならば当然。共犯関係があるのだと。


大学生さん。貴方はあくまで実行犯。

村長。そしてオジサン。貴方達が共犯者ですね?」


「な、なんじゃと!?

なんて事を言うんじゃ!百々様の御前で!」


調査員は村長とオジサンを見る。

村長は慌てるが、オジサンは不敵な笑みを浮かべている。双子の少女達は、不気味な笑顔を浮かべながら静観しているようだ。

オジサンは咥えていた煙草から口を離すと、調査員へ挑発的に言葉を投げる。


「調査員さん。もしもあんたが本を出すなら一冊買うよ。

確かに俺と村長が共犯者なら、条件の二、三、四は突破出来るだろう。

でも甘いよねぇ。それじゃあまだ五つの条件を満たしていないじゃないか。

動機。それに、大学生のその子は部外者だ。村の事を知りっこないだろう?」


「えぇ。それを今から説明しようと思っていました。

動機に関しては、双子の子どもの証言が鍵になります。


オジサン。貴方はかつて許嫁を百々様に献上された。そうですね?」


双子はきょとんと、同時に首を傾ける。

オジサンは苦笑をして肩を竦めた。それは肯定の証だろう。


「そして恐らく、抗う為にかつて百々様に立ち向かい敗北をした。傷はその時のものでしょう。動機としては充分です。

更に少女達はこうも言っていました。子守歌が綺麗。遊ぶのが上手だったと。これは、許嫁の女性の身近に幼い子どもがいた事を示します。


大学生さん。貴方は、オジサンの許嫁さんの、弟君か何かなのでは無いですか?」


大学生は話を振られると、表情を変える。


「先ず、動画配信者と言うのは嘘でしょう。

貴方は明らかに、動画撮影に慣れていない。私は詳しくはありませんが、こんな村にスマホ一つを持って撮影に来るものでしょうか。

それにそもそも。祠の近くでは、電波が通りません」


大学生は舌打ちを鳴らす。

先程までの軽薄な態度は立ち消え。そこにあるのは、憎しみだった。


「……そうだよ。オジサンの許嫁は、オレの姉さんだった。姉さんは歌が綺麗で、遊ぶと楽しくて、笑うと花が咲いたみたいで。

それを!只村で一番胸が豊満だったからって理由で百々神の供物にされたんだ!他の何も無視して!見もしないで!姉さんには沢山の素敵な所があったのに、胸だけを見て!許せるかよ!」


感情が決壊したかのように、大学生は叫ぶ。話を聞く村長は両手で顔を覆い。オジサンは諦めたように、ため息を吐いていた。


「オレは、祠を傷つけないようにする為の盟約が結ばれる前にオジサンに逃がして貰った。それからは暫く村とは縁を切っていたんだ。だから、」


大学生の言葉を、調査員が引き継いだ。


「だから、祠を壊せる。発狂に関しても、オジサンに守って貰ったのでしょう。

これで第二以外の条件を満たしました。そして、村長には。いいえ、村の皆さんには、祠を守る結界を緩める動機もある」


顔を覆っていた村長が顔を上げる。調査員の言葉に、村人達も動揺したようにざわつき始めた。


「単純な事です。小さな村において、毎年のように胸の豊満な女性を生贄に差し出せる訳が無い。

負担だったのでしょう?だから、オジサンと大学生の計画に乗った。

万が一の際は、大学生だけに罪と百々神様の祟りを押し付ける腹積もりだったのかもしれませんが」


「ふ、ふ、ふ。

……オジサンの許嫁は、ワシの娘でもあったのじゃ。狭い村じゃからの。

もうこれ以上、あんな思いをするものを生み出したくは無い。祠さえなくなれば、この地に皆が縛られる事もなくなる。皆もそう、思っていたんですがのぉ」


村長は、調査員の言葉に力無く笑いだす。長い年月の諦観が籠っているようだった。

村人達もまた、涙ぐむもの。悔しさから歯ぎしりをするもの。様々だ。


「……理由。動機がなんであれ。祠の破壊は犯罪であり、悪です。

罰は受けなくてはなりません」


オジサンが最後の足掻きのように口を挟む。


「出ているのは状況証拠のみ。

物的証拠はあるのかな。……と言っても、無駄か」


「はい。

祠近くに落ちていたライター。あれは、オジサンが大学生にお守兼放火用として持たせたものでしょう。あれはオジサンが普段使いしているものでしょうから。霊力や指紋を確認すれば分かる話です」


或いは、オジサンは大学生一人が罰されかねない場合に備えて。あえて、身代わりになる為に指紋等が付いたそれを渡していたのかもしれないが。調査員は頭に過ったその推理は口には出さなかった。


「まとめるとこうです。

オジサンと大学生君は、許嫁の、お姉さんの仇を打ちたかった。村長達は、祠から解放されたかった。

誰から持ち掛けたかは分かりませんが、利害が一致したのでしょう。

村長が結界を緩め。オジサンが狂気から大学生君を守り。

そして最後に。大学生君が祠を金属バットで殴り恐し、オジサンから貰ったライターで火をつけた」


言葉を交えると、調査員は上座におわす百々神様へと向き直る。

百々神様は、面白い見世物だったと言う笑顔と共に。確かな怒りも滲ませていた。神とは、人間の知る一つの感情では測れない存在だ。


「百々神様。以上が、百々丘村祠破壊放火事件の全容となります。

実行犯は大学生君。共犯は、オジサン、村長を含む村民全員。

村ぐるみによる犯行が、真実です。


どうか、沙汰の程をお願い致します」


「うん。そうですね。

いやぁ、残念です。私もそれなりに、村に恵みは与えていたつもりだったんですけど。

ここまで長くこの村が続けられたのは、私のお陰なんですけどね」


※神語翻訳機による翻訳の為、一部語弊あり。


百々神様は立ち上がる。悍ましく、肌を、正気を蝕む祟りの気配がたちまちの内に蔓延する。調査員は支給されている、祟り触り防止の仮面を被り。お姿を拝謁しないよう顔を伏せる。

その姿は【閲覧禁止】であり、【閲覧禁止】を見た村人の幾人かは、そのまま正気を喪った。


「一つ、一つだけ待ってくれ!」


百々神様の怒りの気に充てられながらも、オジサンが叫ぶ。その後ろには、大学生が庇われている。特に強い祟りの気を受けながらも、まだ立っていた。村長は、無駄な事と知りながらも必死に村人達を逃がそうとしているようだ。

大学生が叫ぶ。


「オレ達は、覚悟していたから良い!

けれど、頼む。その子ども達は本当に関係が無いんだ!許してやってくれ!」


その目線の先には、双子の少女達がいる。

少女達は状況を理解出来ていないのか。慌てふためく皆の姿が面白いのか。ケタケタと嗤い続けている。


──オジサンはここで、漸く違和感に気づく。何故気づかなかったのか。

それは、神によって覆い隠され続けていた、認識齟齬。村人達の誰も気がついていなかった記憶。

普通の子どもであれば、流石に泣き喚くだろう。逃げるだろう。この状況で何故、嗤えている?いや、そもそも。


こんな子ども達は、この村にはいなかった筈だ。


「変な事言いますね。元々その子達には何もしないつもりでしたよ?」


百々神様は、その【閲覧禁止】で少女達の頭を撫でる。


「だって。私の可愛い可愛い娘達なんですから」


オジサンと大学生は目を見張る。

まさか、そんな。だが、齟齬が晴れた脳は、確かにその面影を少女達に見せる。


彼女達は。オジサンの許嫁であり、大学生の姉に。良く似ていた。


「ねー。可愛いよねー」「楽しめた?百々とと様」

「私達は面白かったね」「また見せて欲しいね」


「「ねー」」


何故、彼女達が、子守歌が上手な事を知っていたのか。

何故、遊ぶ事が上手である事を知っていたのか。


「あぁ、そうか。

なら少なくとも、不幸じゃあなかったんだな」


オジサンはそう、ぽつりと呟く。

大学生もまた、何処かしら、救われたかのような顔をしていた。

彼等が大切に思っていた女性は。神に召し上げられた後も、笑顔でいる事が出来ていたのだと。


「はい。それじゃあ皆さん、御憑かれ様でした」


百々神様のその言葉と共に。百々丘村の村人は皆死んだ。


──


祠管理機関・調査員による報告書。

被害報告:百々村の村人100名以上。及び大学生一名。

被害による生存者。調査員及び百々様の子である双子二名。


今回の事件は、百々様の性癖によって妻に召された女性を廻っての復讐。及び、祠の管理に対する疲労によって引き起こされた事件だったと言える。

今後このような事件を発生させない為には、祠の管理者、及び周辺住民への情報の統制、及びメンタルケアが必要と思われる。


尚、新調された百々様の祠の今後に関しては。百々様の血を継ぐ、双子の少女に祠の管理を引き継ぐものとする。


了。

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誰が祠を壊したか ガラドンドン @garanndo

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