誰が祠を壊したか

ガラドンドン

誰が祠を壊したんじゃ!?

「もう村は終わりじゃ……儂ら皆死ぬんじゃ……。

一体誰が祠を壊したんじゃ!?」


平凡な村に、老人の声が響き渡る。


某年某日某所深夜0時30分。百々丘村どどおかむら。凡そ1000年程前から存在をし続けている村だ。

神性存在を祀り、封じている祠の破壊が発覚したのがつい先程の事。

祠の管理をしている村長から通報を受け。日本全国の祠を調査・把握し、神性災害の発生を抑制・最小化を試みる祠管理機関のエキスパートが即座に調査に派遣された。


破壊された祠の周囲では、村人達と祠破壊の容疑者達が集まっている。

祠は無残にも粉々に破壊され尽くした後、火を掛けられてしまったらしい。焦げ落ちた祠の周囲には、血渋木のように木片が散乱している。祠の近くには、凶器として使われたであろう金属バットとライターが落ちていた。

祠の死骸を見た村人達の中には、悲鳴を上げるもの、意識を失うものと。村人達のショックの程は計り知れなかった。


祠に祀られていた神の名は百々神様どどがみさま。百の貌と姿を持つ、特A級(神性災害が発生した場合、周囲一帯の更地化、深刻なものによっては日本全体への呪詛の発生)の神性存在だ。


「これは恐らく、鈍器か何かで壊した後、より破壊する為に念を入れて放火をしたのでしょうね。

犯人はこの祠に、深い怨恨を抱いていたものと推測されます」


調査員の男は、村長である老人にそう話す。


「そんな!儂らの村はみぃんな神様の事が大好きで、信仰しとるんじゃ!

怨みをもつものなんて一人もおるはずが!」


「ですが現に、こうして祠は壊されています。

まぁ安心してください。私はこれまでに、何十件もの祠破壊事件を取り扱って来ました。今回も、直ぐに解決してみせますよ」


祠破壊事件調査のエキスパートである調査員は、村人達を安心させるようにそう声を掛ける。

村にいた人物達の中で、経歴やアリバイが存在しないと言う理由から。既に容疑者の候補は幾人かに絞られている。

調査員は関係者及び容疑者一人一人に話を聞く事にした。



~容疑者1:祠の管理者。村長の証言~


「終わりじゃあ!儂ら皆死ぬんじゃあ!今年の生贄ももう捧げたのに!

先祖代々守って来た祠じゃと言うのに、どうしてこんな酷い事をするんじゃあ!」


村長は発作のように頭を抱え叫ぶ為、まともな証言は期待出来ない。

だが祠の管理者であれば、知っている事は多いだろう。かつ、祠をバレずに破壊する方法も熟知している筈だと調査員は会話を続ける。


「祠に怨みを持つ村人等いない筈と言っていましたが。

それでは、村外の人間であれば如何ですか?」


百々神様どどがみさまの祠の事なぞ、村の人間以外で知っとる奴なんぞそうはおらんですじゃ!

詮索しようとする外部の人間は、にしとりますさかいのぉ!」


「成程。ありがとうございます」


この村長は祠を守る事については人並みならぬ情熱を持っているようだ。少なくとも、祠を直接壊す人間では無いだろう。


調査員は続いて、被害者に話を聞く事にした。



~被害者。祠に封印されていた百々神様の証言~


「ビックリしましたよ。起きたら祠の封印が解けてるんですから。

誰がやったか?いえいえ、見てませんよ。なんせ寝起きでしたし」


百々神様はそう語る。特A級の神性存在でありながらも、気さくに調査員との会話を行ってくださるようであった。幸い、話の分かる神のようだ、

祠を壊した人間を生贄に捧げ、壊れた祠を新調すれば、大規模な呪詛は引き起こさないと言う。逆に、犯人が見つからなければ見境の無い災害がこの国に降りかかる事になるだろう。


「私としても、祟りを起こすのやっぱり祠を壊した人が良いですから。

変に人間絶滅させてもほら、ねぇ?信仰を無くしますし、やっぱり祠を壊される前に呪い殺せなかった私にも落ち度はありますから。


それにしても、。どうして犯人は無事だったんでしょうか?

そもそも、筈なんで、近づく事も叶わない筈なんですけどねぇ」


※神語翻訳機械による翻訳を行っている為、一部会話に齟齬あり。


百々神様は会話の最後に、犯人が胸の豊満な女性であれば教えるように調査員に話した。百々神様の好みであり、その女性を生贄に捧げれば全てを水に流すとの事。

残念ながら、容疑者候補の中に胸が豊満な女性は存在しない。



容疑者2:チャラ男大学生自称動画配信者


「オレはぁ~、ちょっと動画でバズりたくってぇ~。

ここら辺になんか祠があるって聞いてぇ~。ちょっと動画撮りに来ただけでぇ~。

祠ぁ?わざわざ壊す意味ねぇって言うかぁ。動機ぃ?が無いって言うかぁ


ここにだって、配信してたらたまたまついてただけなんすよぉ~」


丁度この村に動画配信の為の撮影に来ていたと言う大学生はそう語る。

見るからに軽薄な態度、浮ついた言動をしている。スマホのカメラを調査員へと向けて来ていた。


「第一ぃ、オレみたいな善良な一般ピーポーに、訳わかんねえ祠なんて壊せねえよって言うかぁ?

巻き込まれて寧ろ大変迷惑なんですけどぉって言うかぁ。あ、このインタビュー?動画に使って良いすかぁ?」


「それは駄目です」


んだよぉ、と大学生は文句を言う。スマホを持つと、おぼつかない手つきで何事かを調べている。うわ!ここ電波通じねぇじゃん!と文句を言っているようだった。


容疑者3:怪し気な雰囲気の30代男性村人

「あー、あの祠壊れちゃったの?それじゃ、もう駄目だね」

「皆、多分死ぬ」


村人の一人である、伸びた髪を後ろで縛った、30代程の中年男性はそう語る。

癖であるのか。火のついていない煙草を口に咥えている。何処か厭世的な。かつ浮世的な雰囲気を放っている。その右目には、縦三列に及ぶ痛ましい傷跡が見られる。

調査員は、この男性が秘めている力を一目で見抜いた。


「ぶしつけなのですが。貴方には霊能力がおありですね?

それも、かなり強力な」


「あ~~。分かっちゃう?

まぁ、多少ね。本気の百々神様には全然及ばないけど」


男性は息を深く吐いてそう話す。調査員は、中年男性の微かなニュアンスを見逃さなかった。


「及ばない、と仰られると言う事は。

かつて、百々神様に挑んだ事がおありだと?」


「……まぁねぇ。若気の至りってやつ?

ぜ~んぜん相手になんかならなくって。身の程を知ったけどね。

まぁお察しの通り。俺なら、少しの間なら祠の近くで発狂しないように済む事が出来るよ」


中年男性は苦笑してから、その上で良い事を教えてあげようかと言う。


「でもねぇ。そもそも村の人間に祠を壊す事なんて出来ないのよ。

村の人間は皆、百々様と血の盟約を交わしててね。になってるから」


だから。村の人間には絶対に無理なの。

男性はそう言って、自嘲しているかのように口元を歪めた。


容疑者4:神秘的な雰囲気を放つ双子の少女の村人

「あの祠壊れちゃったのー?」「壊しちゃったのー?」

「「じゃあ皆死んじゃうねー」」

「かなしいねー」「可哀想だね……」

「「ねー」」


双子の少女は、瓜二つの外見で同時に、謳うように話している。

幼い子も容疑者の内とは、と調査員は心苦しく思うが。この二人にもアリバイが無く、祠の近くで目撃されている。幼子であれば、何も分からずに祠を壊す事もあるだろう。話は聞かなければならない。

だが、先程から人の言葉が聞こえていないのか、何処か要領を得ない。


「君達は、祠が壊れた事に関して何か知らないかな?

祠を良く思っていなかった人の事とか」


調査員はやりづらさを覚えながら訪ねる。


「良くない?祠は良くないの?」「そんな事無いよ。無いと駄目」

「百々様の事は、皆好きだよ」「好きじゃないと駄目」


「でも可哀想だよね。オジサンも」「ね。可哀想だね」

「許嫁さんを神様に獲られちゃったから」「神様が欲しいって言ったから」

「子守歌がとっても綺麗な人だったね」「遊ぶのがとっても上手だったね」

「笑うとお花が咲くんだよね」「沢山笑ってたね」


「「ねー」」


双子達はクスクスと調査員に笑いかける。

話は飛び飛びであり、何か話掛ければおかしくてたまらないと言うように笑いだしてしまう為。調査員は双子への調査を途中で切り上げた。



調査員は、関係者から聞いた話を幾つか書き上げると、ぽつりと口に出した。


「これは……不可能祠壊しだ」


と。

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