お前その祠を武器にしたんかぁぁぁぁ!!

未録屋 辰砂

お前あの祠を……え?

 ここはよくある現代世界の日本。時刻は深夜。

 Ib県に存在する院衆いんしゅう村にて、既に事件は起こっていた。


「「「「祠が……無い!?」」」」


 何かを察知して現れた四人……老人、無精髭の生えた夢も希望も無さそうな三十代男性、幼なげな双子が視線を交わす。

 村外れの森に祀られていた祠が無くなっていた。それはまるで、誰かが引っこ抜いたようにも見える跡で。


「……きっと誰かが盗んだんだぁ!」

「盗んだんだぁ!」


 沈黙を切り裂くように双子が無邪気に笑う。


「ヒュー、やるねぇ。あの祠、石造のおっもいヤツだろ〜? よく持って行ったよ」


 口笛を吹いた後くつくつと笑いながら煙草に火をつける男を、老人が肘で小突く。


「こら、この村は禁煙じゃぞ」

「固いこと言うなよぉジイさん、こんな村が形だけ都会を真似て禁煙だなんて馬鹿げてるよ、ホントに」


 心底バカにするようにボヤいた後、男は美味そうに煙草を吸う。


「……祠を盗むなんて罰当たりなことを」


 老人はそれ以上男を追及することなく、祠があったはずの痕跡を見つめる。

 それほどの、緊急事態なのだ。


「クスクス、盗んだ人、龍神様に食べられちゃうねぇー!」

「食べられちゃうねぇー!」

「とってもとってもかわい……」

「ちょっと待て……何か、聞こえないか?」


 言葉を遮られて膨れる双子に対して人差し指を口に添えて、男は耳を澄ます。

 それを真似するように三人も耳を澄ませる。


「……本当じゃ。ブンブンと、何かを振り回す音が聞こえる」

「聞こえるねぇー!」

「ねぇー!」

「ああ、これは明らかに力を込めて何かを振っている音だぞ」


((((……ん?))))


 四人の中に共通の予感が過ぎる。

 それはとてつもなく恐ろしいもので。

 彼らは走って音のする方……より村から外れた地へと向かった。



「な、なんじゃあ!?」


 そこで彼らが見たのは、ライダースーツを纏った女が祠で素振りをしている姿だった。

 そう、祠だ。


「本当に祠を振ってるぅ〜!」

「振ってるぅ〜!」

「……お、よく見ろよ、あの嬢ちゃん、かなり可愛くないか?」

「お前は何を見とるんじゃ!!」


 老人にも男の言わんとしている事は伝わっている。

 四人の存在に気づき其方を見た顔は月明かりに照らされたからだ。

 後頭部に結われた長い茶髪に狐のような瞳、ツンと高い鼻は見事なバランスで顔を飾っており、神秘的で凛とした雰囲気を纏っている。

 また、肌にフィットしたライダースーツを着ていることからその抜群のスタイルも明らかだった。


 ……だが、そんなことを言っている場合ではないのだ。

 祠が、ぶん回されている。


「お前、何しと……むっ!」

「「「ギギギャ〜〜ッ!!」」」

「妖怪さんたちが来たよぉ〜!」

「来たよぉ〜!」

「……祠が動かされて結界が揺らいだんだな」


 茂みから現れたのは金色の肌をした小鬼……ちょうど双子と同じくらいの130センチ程の個体が三体。

 四人は懐から呪文が記された札を取り出し臨戦態勢となる……が、女がソレを腕で制止する。


「な、何を! お前には見えておらんかもしれんが、妖怪が迫っておるのじゃ!」

「お姉ちゃん早く祠を戻してぇ〜!」

「戻してぇ〜!」

「嬢ちゃん、ここは俺達が食い止めてやる。早く行きな!」


 四人の必死の訴え。

 それでも尚、女は首を横に振った。


「そ、その祠はな、龍神様が封印されておるんじゃ!」

「とっても怖くて、強いのぉ〜!」

「強いのぉ〜!」

「だから、この村の住民はその強さに縋った。毎月一人を生贄に村を護ってもらうというクソッタレなルールを作ったんだ!」

「…………ルールは」


 ルール、という言葉を発した男をジッと見つめ、女はボソリと何かを呟いて。

 そして、小鬼たちへと向き合う。


「壊すためにあるッ!!」


 女は小鬼たちへと駆け出し、祠を横薙ぎに払った!


「ギ、ギャ!」

「ギャ……」

「ギャ、ァ!」


 当たりどころが悪かったのか、中央に立っていた小鬼が倒れ、塵と化す。

 その光景を見て逃げ出す小鬼たちを女は見逃さない!


「ふんッ! はッ!」


 とてつもない重量の祠を持っているとは思えないほどの軽やかなステップで二体の小鬼を叩き潰す。


「物理攻撃で……倒しおった」

「嘘っ!? すごーいっ!」

「すごーいっ!」

「ヒュー、マジかよ……」


 唖然とした表情を浮かべる四人を一瞥して、女はため息を吐く。


「……攻撃力を強化しよう!」


 すると、女は祠を地面に横たわらせる。


「お姉ちゃん何してるのぉ〜?」

「してるのぉ〜?」

「……今更だがあの嬢ちゃん、祠を」

「……そうじゃ! お前その祠を武器にしたんかぁぁぁぁ!!」


 ここぞとばかりに声を張り上げる老人。


「…………」


 しかし、無視。

 ウエストポーチから瓶を取り出していた女は、中身の粉末を祠に振りかける。


「……あの、無視しないで? そしてその振りかけた粉末はなんなんじゃ?」

「……わっ! 見て見てぇっ!」

「見て見てぇっ!」

「……これは、驚いたな」


 女が祠に粉末を振りかけて十秒ほどの時が経ち、四人の間に緊張が走る。

 祠が纏う雰囲気が明らかに変わったからだ。

 何が、と言われたらその解は出ないだろうが、明らかに『強く』なっている。


「光属性を付与しよう!」


 女はそんなことを言いながら、ウエストポーチから別の瓶を取り出してこれまた同じように粉末を振りかけた。


「え、お姉ちゃんが何か言ってるぅ〜!」

「言ってるぅ〜!」

「……なんじゃって?」

「……へぇ」


 表情の違いはあれど四人は興味深げに女と祠の様子を眺めている。

 ……すると。


「わぁ、祠が光り輝いてるぅ〜!」

「輝いてるぅ〜!」

「つくづく驚かされるな……けど、バチが当たったりしないか?」

「これは……!」


 女は光り輝く祠を持ち上げて満足げに頷く。


「お前……その祠を最大強化して光属性も付与したんかぁ!!」


 老人の言葉に頷く女。しかし、それ以上のアクションはなかった。


「……はっ! また来るよぉ〜っ!」

「来るよぉ〜っ!」

「「「「「ギギギャギャ〜ッ!」」」」」


 女の背後から五体の小鬼が現れる。


「ルールは壊すためにあるッ!!」


 女は再び小鬼へと駆け出し、輝く祠を横薙ぎに払うッ!


「ヒュー、これは凄いな。全員一発で仕留めたぞ」

「おぉ、なんと……なんという!」



 それから三十分の時が経ち。

 現れ続ける妖怪たちを倒し続ける女の姿を四人は見ていた。

 老人は杖の手入れをしながら。男は煙草を吸いながら。双子は鞠で遊びながら。

 そう、この状況に慣れてきたのだ。

 そして、四人の脳裏に共通の思惑が過ぎる。


((((とっておきの台詞言いてぇ〜!))))


 こんな惨い因習はいつか終わる。

 祠が壊されることによって、村諸共。

 それが四人の共通認識であり、だからこそ終わりのときのためのとっておきの言葉を考えていた。

 それがどうだ、現実はヤバい女が祠を持って闘い続けているではないか。

 このままこの女が妖怪全てを滅するまで闘ってくれそうな気さえしている。

 それでこの村に平和が訪れるなら願ってもない話だが……。

 それでも。


((((言いてぇ〜……!))))

(……って、ジイさんはもう二回もそれっぽいこと言っただろ!)

(馬鹿を言うな! 壊したんか〜って言いたかったんじゃ! それをあんなよくわからない言葉に……)

(私たちは言おうとしたらオジさんに遮られたんだけどぉ〜!)

(遮られたんだけどぉ〜!)

(それは悪かったって……けど、一番ありえないのは俺だろ。『死ぬよ』だぞ!? あの嬢ちゃんその気配が全く無いんだが!?)


 などとテレパシーで会話している四人の願いが通じたのか否か。


 鈍い音を立てて。

 祠の先端が、欠けた。


((((……これは壊したにカウントされるのか?))))


 彼らが想定していたのは、もっと大きな破壊だ。それこそ祠の大部分がバラバラになるほどの。

 

「「「「……はっ!」」」」


 微妙な雰囲気が流れていたが、瞬間、空気に緊張が走った。

 そして、祠の先端からモクモクと煙が上がって……。

 ソレは龍の形を成した。


「りゅ……」

「龍神様だぁ……!」

「龍神様だぁ……!」

「……」


 恐れとも尊敬とも取れうる空気が四人に流れる。


「お姉ちゃん! 祠を武器にするのはやっぱり間違いだったんだよぉ〜!」

「間違いだったんだよぉ〜!」

「妖怪を滅する手段としては悪くなかったが……祠の耐久力が持たんかったんじゃ!」

「……ああ。嬢ちゃん、ここは逃げた方がいい!」


 四人が声をかけるも、女は首を横に振って……。

 龍神へと祠を向けた。


「お前! まさか龍神様に立ち向かうというのか!」

「無茶だよぉ〜!」

「だよぉ〜!」

「……いや、嬢ちゃんならあるいは」


 男が僅かに抱いた希望。


「……ッッ!!」


 龍神が尾を払って放った一撃は希望を打ち消すには十分なほどに強力で。

 命中した者は誰もいなかったものの、村の木々全てが震えているような感覚さえしていた。


「……やっぱり」


 双子の片割れがポツリと呟く。ダメかもしれない……そう続く言葉は言わずとも他の三人にも伝わっていて。


「ルールは壊すためにあるッ!!」


 けれど女は。

 いつもの決め台詞を放って雷神へと駆け出す!


「ゴオガアアアアアアアァァ!!」

「嬢ちゃん!」


 龍神が咆哮するが、それを意にも介さず祠をその頭に叩きつける。

 そして、何度も何度も祠を打ちつけては攻撃を躱し打ちつけては攻撃を躱し……!


「わわ、見ててヒヤヒヤするよぉ!」

「するよぉ〜!」

「しかし、彼女は見事に攻撃を避けておる! 龍神様に与えるダメージは絶大じゃろう!」

「しっかし、龍神様の攻撃もハンパねぇな。一撃一撃がこっちまで衝撃が伝わってくるほどだ」

「うんうん、そうだねぇ〜!」

「そうだねぇ〜!」

「ああ、強いとは聞いていたが、まさかこれほどとは……!」

「にしても強すぎないか……? こんなの毎日生贄を捧げないと釣り合わないくらいの強さじゃねぇか」

「説明しまショウ! これは祠に施した『強化』が龍神にも適用されているため、絶大な攻撃力となっているのデス!」

「誰!? 誰なの!? 怖いよぉっ!」

「怖いよぉっ!」


 いつの間にか隣に立っていた大柄な男に双子たちは身を寄せ合って震えている。


「申し遅れました、ワタクシ、実況解説の田中吉田マルクス権田と申しマス!」

「じっ……なんじゃって?」

「なんだその名前」

「怖いよぉ!」

「怖いよぉ!」


 名前がわかったところでそれ以外が意味不明であるのだから、怖いのに変わりはない。

 白い歯を見せてニコニコと笑う大男に対し、双子は……というか老人に男も怯えている。


「細かいことは放っておいて、今はこのバトルが何よりも優先されるべきでショウ! あの女性は今、龍神の体力を大幅に削っていマス! 本来は無尽蔵にあるはずの体力をナゼ!? ……それは、攻撃力強化の代償に自身の最大体力を削るという効果があるからデスネ!」

「攻撃力強化の代償……なあ、それって嬢ちゃんも」


 男は今も龍神と激闘を繰り広げている女に視線を移す。


「ええ、もちろん払っていマス……が! そもそもあの龍神の攻撃は基本的に一発でもくらえばアウトッ! なので合理的な攻略法だと言えるでショウ!」

「そうなんだぁ〜って、お月様見えなくなって急に真っ暗になったよぉ!?」

「真っ暗になったよぉ!?」

「これは龍神の第二形態デスネ! 雷を狙った相手に向かって落とす技を使うようになりマシタ!」

「当たり前に言っとるけど第二形態って何??」

「狙った相手に……って、それ、避け切れるのかよ?」

「そこが龍神攻略のミソ! あの女性は祠に光属性を付与しマシタ! この事により……!」


 大男の目線は四人から女へと移る。

 彼女は先ほどと同じように攻撃を避ける……が、次の瞬間。

 女の頭上に雷が落ちる!


「「お姉ちゃん!!」」


 思わず双子が叫ぶ中、女は祠を頭上に掲げる!

 すると、輝く祠へと雷の光が吸収され……!

 女は一回りして吸収した光を龍神へと放つッ!


「グオガアアアアアアッ!!」

「……あんなの有りかよ」

「……なんという!」

「「すっごーい……!」」


 たまらず叫ぶ龍神。その姿はみるみるうちに銀色に輝いて。

 ポカリと口を開けて四人はその様を見つめる。


「さあ、問題はここからデス! 龍神は現在第三形態に入りましたが、あともう一度形態変化を残していマス!」

「……なあ、さっき形態変化した時に龍神様が使う技が増えたよな。今度は?」

「第三形態が狙った一人に確実にダメージを与える技……そして、第四形態は周囲の人々全員にダメージを与える技デス!」

「なんじゃと!?」

「やっぱり龍神様には勝てないんだぁ!」

「勝てないんだぁ!」

「認めたくないが、その通りだ。どうやって龍神様を倒すって言うんだ?」

「……あとは、見届けるのみです」


 大男はニッコリと微笑んで……。

 瞬きの内に姿を消した。


「……おいアイツ、逃げたか?」

「儂にもそうとしか思えん」

「酷いよ〜っ! 私たちも連れていってよぉ〜!」

「連れていってよぉ〜!」


 四人の視線は女へと更に集中する。

 彼女は未だに傷を負うことなく戦い続けているが……。


「グオガアアアアアアッ!!」


 龍神は咆哮するとその長い身体で女を囲んで……銀色のブレスを放った!


「ああああああぁぁ……ッ!」

「嬢ちゃん……!」

「「お姉ちゃん!!」」


 避ける術もなくブレスに当たった女の叫び声が響く。

 そして、拘束を解いた龍神の視線は四人へと向いて。


「まずい……来るぞッ!」

「く、来るぞって……どうしようどうしようっ!?」

「どうしよう!?」

「……仕方ない、か。お前たち、逃げろ! ここはこのジジイが食い止めよう! 村人たちを連れてできるだけ遠くまで逃げるのじゃッ!」

「何言ってやがるんだジイさ……おわっ!?」


 突如、轟音が響く。

 何かが潰れる音と、硬い何かが壊れる音。


「グオギャアアアアアアアアァァァァァッ!!」


 そして、龍神の叫び。

 瞬間、龍神の身体は金色に輝く。


「……嬢ちゃん!」


 男の視線の先には半壊した祠を持った女の姿があった。


「一気に攻めるよッ!!!」


 女はそう叫んで半壊した祠を龍神に打ち付け続ける。


「……私たちも、いくよぉっ!」

「いくよぉっ!」


 そんな彼女の様子を見て双子が懐から札を取り出す。


「儂らも……いくか」

「はいはい……俺だけサボるってわけにもいかないしなぁ!」


 四人は取り出した札を龍神に投げつける。


「……なあ! これって効いてるのか!?」

「わからん! ……が、もう覚悟を決めたんじゃ! 信じて攻撃を続けるしかあるまいッ!」

「えいっ! やぁーっ!」


 途切れることなく札を龍神に投げつけ続け……。


「やぁーっ! ……もう札無いよぉ〜!」

「対神用の札なぞそう多くは持ち歩かんからな!」


 持っている分の札を使い切った四人はただ女を見つめることしかできなかった。

 彼女が持っていた祠は最早その辺に転がっている大きめな石同然で。


「……ッ! マズい。多分デカいのが来るぞッ!」

「これがあの大男が言っておった大技か……ッ!」

「……お姉ちゃん、頑張れぇ〜っ!」

「頑張れぇ〜っ!」


 龍神が天上へと登り行く。

 そのまま頂点へと至れたなら、周辺を焼き尽くすブレスを放つだろう。


「はあああああぁぁぁッ!!」


 女は走り、勢いをつけて、地面から去らんとする龍神の胴体に祠だった石を押し付ける!


 それは、奇しくもラリアットのような形になった。


「グオギャアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッッ!!!」


 一際大きな叫び声をあげて、龍神は地に伏し。

 塵となって地面に溶け込んでいく。


『─GOD DRAGON SLAIN─

   The 1st Clear Player

    TRY:6th Round

    Level:80→99

    Level:1 →99

    Level:1 →99

     Level:1 →99

    Level:1 →99    』


「なんか出てきたぁ〜!?」

「出てきたぁ〜!?」

「なんじゃ? 儂、英語はまるっきりダメでなぁ」

「俺もあまり得意じゃないが、どれどれ……?」


 突然空中に現れた謎の文字を男が読もうとするが、その前に消えて。


「ほーたぁーるのぉーひぃーかーーり!」


 龍神と激闘を繰り広げた女が突然歌い出すという謎の状況が発生した。


「突然歌い出したぁ〜!? でも、この曲、好きぃ〜っ!」

「好きぃ〜っ!」

「『蛍の光』か。久しぶりに聞いたな。良い曲だ」

「ほほ、儂も好きじゃ!」

「けど……ふっ、最後は神様相手にラリアットで決めるなんてな。豪快な嬢ちゃんだ」

「わははっ、そうじゃの! ……っておわぁ!?」


 老人が驚愕の表情を浮かべる。

 それもそのはず。何故なら、歌い終わった女に突然抱きつかれたからだ。


「嬢ちゃん!? 何して……うおっ!?」


 驚愕の表情を浮かべた男もまた抱きつかれて。


「次は私たちの番かなぁ〜?」

「かなぁ〜? ……わひゃ〜っ!」


 ソワソワしていた双子たちももちろん抱きつかれる。


「……なんじゃなんじゃ?」

「……さっぱりわからないな」

「でも嬉しい〜っ!」

「嬉しい〜っ!」


 キャッキャとはしゃぐ双子と苦笑いを浮かべる男と老人。

 そんな四人に女は自分の手のひらを見せた。


「ん? それはどういう意味じゃ? ……ほほっ!」

「……ははっ!」

「「ん〜? ……あっ、そういうこと!?」」


 女の手のひらからは祠だったモノの粉がポロポロと溢れている。


「お前あの祠を壊したんか!」

「あー、あの祠、壊しちゃったのか。それじゃあもう駄目だね、死ぬよ(龍神様が)」

「あの祠、壊しちゃったのぉ〜?」

「壊しちゃったのぉ〜?」

「とってもとっても可哀想だねぇ〜っ!」

「可哀想だねぇ〜っ!」

「もう助からないねぇ〜っ!(龍神様が)」

「助からないねぇ〜っ!(龍神様が)」


「……ふふっ」

「「「「あはははははっ!!」」」」


 とっておきの言葉はこれで使った。

 祠ももう無くなった。

 これまでの生贄の命が帰ってくることはないが、四人の中で何かが進んだ気がした。


「……ねえ、お姉ちゃんはどうして喋らないのぉ〜?」

「喋らないのぉ〜?」

「…………」


 双子の問いかけに対して、女はただ首を横に振るばかりで。


「もしかすると、喋らないのではなく、喋れない、とか? 特定の状況じゃないと……って、やっぱりそうか」


 ハッとした表情の男に、女は食い気味で頷く。


「へぇ〜! そうなんだぁ!」

「そうなんだぁ!」

「ふむ。自分の名前は言えるか?」

「……シュラスコ齋藤」


 若干の間の後、女……シュラスコ齋藤は答えた。


「シュラぁ〜?」

「スコぉ〜?」

「「あははっ、面白い〜っ!」」

「けど、どこか落ち着く名前だ」

「うん、そうだねそうだねぇ〜!」

「そうだねぇ〜っ!」

「ああ、不思議じゃな。あの田中なんちゃらとかいう大男の名前は覚えられておらんのに。その名前は覚えられそうな気がするぞ、シュラ……って、おぉ!?」

「あっ、こら、またジイさんに抱きつくのはやめなさい……って、俺も駄目だって! もー、言葉が伝わらなくても、やりようはいくらでもあるだろうに」

「……私たちはギュー待ちです! 思いっきりギューしなさぁーい!」

「ギューしなさぁーいっ! わひゃあぁ〜っ!」

「……ふっ。なぁ、ジイさん、村人たちへの説明はどうする?」


 シュラが双子たちを抱きしめてわしゃわしゃする様子を見て微笑んだ後に、男は老人へと視線を移す。


「正直に話すのは得策ではないじゃろう……まぁ、全てこのジジイに任せておれ。お前ら世代が村長になる頃には血に濡れた因習とは無縁の理想の村にしてみせるさ」

「はっ、それじゃあ遅すぎる。俺にも手伝わせてくれよ。アンタがくたばる頃にはその理想の村ってやつにしてみせるからさ」

「ほほっ、抜かしおるわ!」



 これにて、事件は解決。

 この村が平和になったかどうかはシュラのみぞが知るお話。

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