07

 てのひらが熱い。カメラが熱を帯びているのか、私が熱くなっているのか、もうわからない。

「ねぇ、最後に、おばあちゃん、いいよって言って。もう家売っていいよって。よく我慢したって。私の若い頃のあんなこともこんなことも、許して。全部許して。ねぇ、聞こえる?」

 そうだ。関係性。

 老いた祖母と、老いた母の関係性。母である以前に、祖母の娘である母を、カメラを通して見つけたいのかもしれない。

 いやいや、そんなのも嘘だ。たぶん。

 でも撮る。私は撮り続けたい。祖父のためにでも、祖母のためにでも、母のためにでもない。誰のためでもない。

 自分のために、紛れもなく自分のためにだ。こうすることでしか、私はここに居ることが難しい。

 シャッターを切る音が止まない中、カメラに赤いランプが点灯した。それは、撮影可能な残りの枚数が少ないことを意味した。

 私はファインダーを覗き込みながら、祖母だけでなく母もフレームに入れた。相変わらず憎らしかったが、私の気分は晴れやかだった。

 しかし、カメラアングルが微妙に決まらず、自らの身体を移動させた。その途中、何か柔い物体にぶつかったが、私はそれをかまわず押し倒した。再度、ぶつかったが、それもかまわず押し倒した。私はもうどこも痛くなかった。

 二人を通して、私は私を睨んだ。凝縮された私の汗が、この身体の腕にはっきりと滴った。

 誰かに何かを大きな声で言われた気がしたが、いったい何を言っているのかはもうわからなかった。

「……あとちょっとなんだよな」

 私は、ここに私が居るための瞬間をいつまでも待っていた。

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口実 西村たとえ @nishimura_tatoe

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