辛く苦しい世界も実は嘘であって
私は2月生まれの早生まれで、一つ下の従兄弟とはほんの一カ月違い位の、大した差でない期間でこの世で生まれ落ちているのだが、このわずか一カ月に今後苛まれることは、まだこの時知るべくもない。
前述の遅生まれで7つにして小学校という段階に上がり、内心の漣を悟られないようにと隠しながら、短い2年の保育生活を終えた私は、その時すでに育ち始めていた自身の中での情緒の確変的な発散に、気付かぬうちに蝕まれていました。
事故を保っていた「良い人」は形を変え、より具体的な、気色の悪い実態を以てして私の前に立ちはだかりました。
「みんなに頼られる」「非の打ちようがなくて」「この人なら信頼できる」そう言わしめる人間であるべきと、自分の中の「そうあるべき」を生み出す劣等感が叫んでいるようでした。
先に書いた通り私は体が弱く運動が不得手だった分、頭を働かせるのは経験から得意な方でした。脳の容量に全て物を言わせ、好きでもない教科書に齧り付き、周りに勉強を教えるという物理的な優位によって、私は当時の信頼を勝ち取っていました。
誰かに尽くすことで、誰かに感謝される。そこに来て初めて自分は評価されるのだと感じていた私は、それはもう狂ったように鉛筆を握りました。友人の宿題を片っ端から黙々と解いていきながら、尻目でみんなが遊ぶのを眺める。そんな小学校を四年間続けていました。
そんな狂気の甲斐もあってか友人関係に難もなく、上っ面だけで集まってくる友人を今と比べて何人も多く持っていました。友人には「いい奴」であり家では「いい兄」であり学校では「いい小学生」であり続けた訳ですが、当然内面には黒いものが燻っていき、それを解消するために一人を望む事も徐々に増えつつありました。
寂れた図書室、喧騒に置き去りにされた音楽室、緑に満たされた観察林など、孤独を目標に訪れる場所も増え、誰にも邪魔されない環境で自身を振り返り、また自分を嫌いになって。「もっとああすれば」「もっとこうすれば」を煮詰めたまま、不遜な狂気はより濃度を増していくばかりでありました。そんなこちらの隠している内面に年はもいかない同級生が気づくはずもなく。
気づかれない現実に下劣にも安心を覚え、そしてそんな自分にまた嫌悪感を抱き、本当の自分を見つけてくれない世界に少しの苛立ちを感じていました。しかしその頃まで幸いであったのは、上っ面だけでも仲良くしていた友人をまだ「信頼」していたという点です。
それなりに遊びに誘い出していた友人に少なからず友情を感じていましたし、博愛的な感情は持ち合わせていたので子供らしく「困ったら頼る」という手を当時は苦肉の策で使っていましたが、それすらも叶わない事態にこのあと発展していきました。
唯の劣等感でした @isorisiru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。唯の劣等感でしたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます