第3話 ムルマの楽園
「はあぁ...」
ポロンクセマは大きくため息をつくと、目の前の二人に視線を送る。
二人とも異国の料理が珍しいのか、ポロンクセマのため息など全く気にも止めてもいなかった。
「アロ、お箸はそんな風に持つんじゃないの、こうするのよ! 」
いつの間にか自分の席に戻った
「? 、!? ...? 」
アロは、自分の手と
箸を閉じるたびに眉を寄せ、開けると眉も開いていることに本人は気づいているのだろうか?
あの後、
「と、に、か、く、二人とも! 今後、暴力沙汰は絶対に避けて欲しいポロ! 特に
ポロンクセマは、二人を指さしながら言った
「確かに、前にいた所とは違うわね、あんたのスフィアには草と木しかなかったもんね」
「やかましいポロ! 君たち地球人類の為に創ったユートピアを! よりにもよって君にそんなこと言われる筋合いはないポロ!! 」
「そうだ! 人の故郷を悪く言うな! 」
箸の練習を早々に諦めたアロは、口いっぱいに肉を頬張りながらポロンクセマに加勢した。
「アロ...」
ポロンクセマは、大袈裟に涙ぐみながらアロを見つめる。
アロは、黙々と咀嚼を繰り返し、水で肉を流し込んでから話を続けた。
「いいか
「食べ物のことばっかりポロ...」
ポロンクセマは、ガックリと肩を落とした。
「そ、それに...山! 山もある! 天を着くようなアバルシス三山は、我らの誇りだ!! 」
アロは両腕を斜めに上下させ、山の形を表現している。
「ポロが居た山? そんな名前だったのね...」
「そうポロ! スフィア・ポロンクセマの名物! アバルシス三山! 赤土と白雪の織り成すコントラストが自慢ポロ! 」
「そうだぞ!
アロは、いつの間にか立ち上がり、
「そうポロ。我らが誇りポロ。」
ポロンクセマは、何故か遠い目をしている。
「...そういえば、この辺の土は赤くないのね」
店の外には、くすんだ青レンガで積まれた塀に、瓦葺の屋根、赤く塗られた提灯など、
「この辺のは、私がよく知ってる土や砂って感じだわ」
「この星の土は元々、赤いポロ... 土から色々なものを子供達に与えると、こういう色になるポロ...。」
ポロンクセマは、落ち着いた口調で続ける。
「
「僕は、子供たちに製鉄の技術は必要ない、そう判断したポロよ...。」
テーブルに静寂が戻り、アロはポロンクセマと
「―のよ...。」
「じゃあ、なんでマヨネーズはあるのよ!! 」
「おかしいでしょ! 製鉄技術はないけど、マヨネーズはあるって!! 」
「私のいたところでは、異世界転生ってのが流行ってて、転生した先で、元の世界の知識で成功するって言うのがお約束なの!! 」
「製鉄技術なんて、女子高生に分かるわけないでしょ! なんで、そういう難しいのだけ無くて、マヨネーズはあるのよ! 」
アロは、少し考えるような顔をした後、思いついたように手を叩いた。
「あー、
「やかましい! 」
「言ったはずポロ、ここは楽園。マヨネーズのない楽園なんて考えられるポロ? 」
ポロンクセマは、当たり前のことのように聞き返す。
「この星は、君たちのために創られたのだから、君たちに必要な物、好きな物は大体あると思っていいポロ、手付かずの自然というのも、そういったものの1つポロ」
「まあ、こっちの料理が美味しいのはありがたいんだけどね...」
現代知識無双を夢見る少女の目は、油断なく辺りを見回している。
白い土壁、赤く塗られた木の柱、木製のテーブルの上には、各種調味料が置かれていた。
「......この街なら、ないんじゃない!? マヨネーズ! 」
少女の目に再び光が宿り、目の前の少年に期待の眼差しを向ける。
「…きっと、ないポロな...... 」
ポロンクセマは、呆れたように続ける。
「さっきも言ったポロ、ここはムルマの創った世界で、ムルマの作ったルールがあるポロ、このテーブルにマヨネーズがないということは、ムルマが必要ないと判断したということポロ」
「卵に油をゆっくり混ぜながら、よく泡立てる... 塩と酢で味お整えれば完成よ...。売れる...売れるわ... 」
例に漏れず、ポロンクセマの声は少女には届いていなかった。
「まあ、やってみればいいポロ、すぐにムルマの調整力が働いて有耶無耶になるポロ... 」
「ポロンクセマ様、ムニャムニャとはなんでしょうか? 」
アロの疑問にポロンクセマは答えなかった。
「あと、もう1つ付け加えるなら、
ポロンクセマは穏やかな目で
「気づいたらここにいただけよ、どうやって来たかも分からないんじゃ、転生したようなものじゃない... 」
穏やかな表情の少年を、気まずそうに見やりながら、呟くように言った。
「ていうか、なんか悪いわね...。そんなに待ち望んでたのに、早々に帰りたいなんて... 」
「僕たちは、地球人類の願いを叶えるのが仕事ポロ。
ポロンクセマは、肩を
「逆に僕も申し訳ないポロ、地球とはここ最近連絡が取れてないポロ、地球から迎えに来て貰えないなら、君を地球に帰すには管理人全員の
「とりあえず、そのムルマっていうのを探せばいいのよね... どこにいるかは分からないの? 」
いつの間にか、テーブルの上の料理は食べきってしまい、
「さー、僕も
そういうと、ポロンクセマは立ち上がり、二人の方に無邪気な笑顔を向ける。
「まずは、聞き込みポロ! 管理人は、地球人類の為に存在するポロ! 見つけちゃえばこっちのものポロ! 」
「さあ! アロも来るポロ!! 」
ポロンクセマは希望に満ちた眼差しをアロに向ける。
当のアロは血の気の引いた顔で、中腰になりながら、腰元を何度も擦っていた。
「―あ...ません...。」
アロの消え入りそうな声で、ポロンクセマと
「何ポロ? 」
自分の感情とアロの表情のギャップに戸惑いながら、ポロンクセマは聞き返した。
「申し訳ありません! 財布を無くしてしまいました!! 」
アロの悲痛な叫びに、さっきまで騒がしかった店内が一瞬にして静まり返った。
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