第24話 シュガー対マシラツラ
エトバリルはリムエッタを
「私のかわいいリムエッタ……!」
エトバリルの声には悲痛の色が強くにじんでいました。彼は飛行魔法を使ってリムエッタに接近します。
「
エトバリルはリュストゴーレムをつなぐ
ボニデールの魔力は
イムテンダスでエトバリルを捕らえようとしますが、今度はリュストゴーレムが邪魔になり、つかまえることはできません。
そして、エトバルはふたたびリムエッタの
復活したリムエッタがリュストゴーレムを両腕で
エトバリルとリムエッタはかりそめのひとつの体にもどり、地上に向けて落下していくのでした。
上空へ高速でもどってくるテュオンテューロとリムエッタはすれ違います。
テュオンテューロはリムエッタに手を出さず、リムエッタも、活動停止した甲冑ゴーレムを抱えて飛ぶテュオンテューロに
アカマカドレ・ムベ隊長が手に入れたのは赤い
テュオンテューロがドミュッカ城に降りたとき、ベルサームは量産型では手に負えないと見て、昼間に子どもたちが作ったオリジナル機体を出したのです。ムベ隊長の操縦するテュオンテューロは、四機のオリジナル甲冑ゴーレムを難なく退治してしまいました。
「デンテファーグ王子のスパイからの報告では、赤いのがいちばん働きのいい機体だったはずだな」
そうしてムベ隊長はパイロットが脱出したあとの赤い甲冑ゴーレム、つまりトキトが完成させた機体を
ほんの短いあいだの戦い、どちらが勝利したと言えるのでしょうか?
ベルサーム国は地球人の子どもたちの命を
ラダパスホルン国は甲冑ゴーレム開発を阻止することはできませんでした。しかし、それは地球から来た子どもたちが協力させられた結果であり、まったく予期できない
おそらく
逆の見方をすることもできます。
ベルサーム国は甲冑ゴーレムを一機奪われて技術を知られました。またリムエッタという
ラダパスホルン国は甲冑ゴーレムの開発を止めることはできませんでした。ラダパスホルンが量産しているリュストゴーレムは、この世界では無敵の兵器であるはずでした。しかし今や、ほぼ同性能の甲冑ゴーレムがベルサームに作られてしまいました。
二国の努力はともに痛みのある結果となった。そう見ることもできるのでした。
ベルサームもラダパスホルンも、自分と同じ程度の新兵器を相手も持つようになったことを知りました。二国の対立と争いは、ますます激しくなってゆくことでしょう。
地球ではないもうひとつの世界が、大きな争いの時代に移り変わるのです。
五人の地球の子どもたちがやってきたこの日は、世界にとって歴史的な節目の日となったのでした。
ベルサームの上空にある空の道を、西に向かって三機のメルヴァトールが飛行しています。
ピッチュ・コクビクによるトロンファの回復も終わっています。
敵地に
自国ラダパスホルンに帰るのです。
ボニデールは、不満そうにつぶやます。
「十八体のリュストゴーレムのすべてが動かせれば、きれいに勝ったのに」
と。
ムベ隊長がボニデールのぼやきに答えます。
「敵のメルヴァトール級兵器の破壊は命じられておらん」
「それは……そうですけど」
ボニデールもそのことは
「メルヴァトールの
「ムベ隊長はウマだったら早駆け以外も超一流じゃないですか。メルヴァトールでの戦いだって、今そこに敵の一機を持ち帰ってきてるし――」
とまだ不完全燃焼の気持ちが解消されないボニデールのようでした。
トロンファがそこに言葉をわりこませます。
「いいの、ボニデール。ムベ隊長、今日の戦闘はこのトロンファ・ガンモモアチュリが
と
ムベ隊長は「お前は反省を生かせる兵士だ。そうだな?」と言い、トロンファは「はい」と答えました。そこにボニデールが声をかけます。
「ロニー、あなたも
「ボニデールも初陣じゃん。なんであっても、負けたら、意味ないよ」
トロンファの声にはまるで元気がありません。
「……じゃあ、晩ごはんはこのボニデールがおごるから」
「……ないから」
ぼそぼそとしゃべるトロンファに、ボニデールが聞き返します。
「なに? ロニー、はっきり言って」
「晩飯たった一回じゃ足りないから。明日もおごって、ボニデール・ミュー」
声は怒ったような色をおびていますが、照れ隠しでしょう。
「あー……はいはい、今日と明日と、二回おごってあげる」
ここでやっとトロンファは大きく息を吐いて、気を取り直したようでした。
「うう、ありがとう……」
「すなおになるとかわいいな、ロニーは」
ボニデールにからかわれると、むすっとするトロンファ。
「年上だからってお姉さんぶるな」
「これからおごってもらうくせに、生意気ねえー」
「うぐぐ……」
ムベ隊長はなにも言いません。
彼ら三人の任務は、終わったのです。
城内では混乱がおさまりつつありました。
スパイはあらかたマシラツラが
マシラツラが問います。
「
「シュガーは
とシュガーは答えます。マシラツラが鼻先でふん、と笑うような音を立て、言います、
「お前もわかっておろうが、私とて、ベルサームに命を
短いやりとりが終わり、音もなく動きもない時間が流れます。
二人は
「ケロム密林の部族の
シュガーは今はもうマシラツラを呼び捨てにしています。
「エトバリルのようには魔法を自在に使えるわけではないがな……試してみるか」
とマシラツラ。
言い終えた瞬間に、魔法が発動します。
シュガーの足元の石がざらりと
シュガーの足のすぐ下だけではなく、離れた位置まで含めた面積が砂となって崩れ落ち、シュガーは体重を足で支えることも、素早く
「もう仕掛けてきていたか……」
ずるり、と腰から下方に
「わが一族ならば壁蹴り、
マシラツラは姿勢を低くして警戒をゆるめません。
「エトバリルなら飛行魔法を使うだろう。その手もあるけど、シュガーは違う」
「ほう。見せろ。大地まで
「滑落は、しない」
シュガーの足からも魔力の光が放たれていました。崩れていく砂の動きをその光がつかまえて停止させています。
「シュガーは砂の上を歩いて、お前を倒す」
砂の落下が止まっていました。砂は色のにごった雲のようになり空中で固定されています。シュガーはその上に乗っています。もはや不安定な姿勢ではなく大地にしっかりと両足をつけた体勢です。さらにその場で、高く脚を
まるで遠くにむけて水まきをしたようです。砂が、液体のように空中を流れ、ゆるやかな
シュガーが砂の橋を走ります。マシラツラに劣らないほどの速さでした。
マシラツラはとどまって
二人の体が、中庭の上空、なにもない空間で
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