第22話 バンハッタ対エトバリル
「ロニー、イムテンダスがリュストゴーレムを引っぱっていくから、
ボニデールが「ロニー」と
「ムベ隊長、
と、トロンファは明るい声で隊長に答えてから、少しつんとした声の調子に変わり、
「ボニデール、子どもあつかいしないで。やってやるから、見てな」
バンハッタは男性的なフォルムの人型マシンです。
トロンファはバンハッタを敵にむけて発進させました。
そのほんの少し前のドミュッカ城の中庭。
エトバリルに呼ばれた巨大マシン、リムエッタが出現しようとしています。
リムエッタにより城の中庭の地面がゆれ動きます。先ほどのリュストゴーレムが降下してきたときよりも
やがて白いリムエッタが背中から現れてのび上がります。体の白さ、フォルムの
リムエッタは、エトバリルを腹に乗せると、大地を
リムエッタ内部の操縦席でエトバリルがひとりごとを言いました。
「見えるぞラダパスホルン。お前たちの人型の機械。リムエッタと同じサイズ、おそらくパワーもほぼ同じ。間違いない。ドラゴンのいた千年前の
リムエッタはハンドルや
機械を
ラダパスホルンの側では、このようなやり取りがかわされていました。
ムベ隊長は部下に戦いの指示を伝えます。
「ボニデール、お前の
と、ボニデールに全力を出すことを禁じる命令を下しました。いちばんの
命令の意味はわかったボニデールですが、
「ムベ隊長ー、私一人ではこのイムテンダスと、
と
ムベ隊長はボニデールにはそれ以上何も言わず、トロンファに向かって指示をします。
「トロンファ、バンハッタの第一の奥の手を出すことをゆるす」
解説をするなら、バンハッタは格闘戦がとくいな機体なので、リムエッタを迎え撃つ役割をまかされたのです。イムテンダスはリュストゴーレムをゴテゴテくっつけたまま、安全なところに移動するまで後ろから
それらを言いおいて、ムベ隊長は
「二体であやつを
と言うやいなや、リムエッタの進路を
リムエッタが二機のメルヴァトールにせまります。
黒いバンハッタが攻撃のモーション。
右の拳が出ます。
「ベルサームのお前、速度上げすぎなんだよぉ」
トロンファは
リムエッタの細い腕が、パンチをからめとるように動きます。
リムエッタは生物っぽいデザインで、ヒトの骨格標本に似た形をしていました。ひょろっとした骨に、
骨組みだけに見えるリムエッタの腕は、正面から
さらに力に逆らわず、バンハッタの運動エネルギーを受けて、リムエッタ自身の体をくるりと反転させました。相手の腕にまといつくような動きです。
「わがリムエッタの、この
リムエッタがメルヴァトールに対しても劣らないどころか性能でまさっているという自信が、エトバリルの言葉にはあふれていました。
なぜかエトバリルはこの機械を異常なほどたいせつに
もしかすると、エトバリルと機械リムエッタのあいだには、エトバリルにしかわからない秘密が
バンハッタはリムエッタの腕の外側の装甲板をバリバリと削って小さな破壊をあたえたあと、体のむきを変えました。リムエッタに背中をとる動きをされて、これにも攻撃で対応するつもりです。次にやることはべつの腕で打撃を与えること。つまり殴りです。今度は左です。
「フィストコンビネーション!」
というトロンファの言葉とともにリムエッタに左の拳を振りおろします。
不安定な横向き姿勢からの拳は、さきほどより勢いもなく、よけやすいものだったでしょう。リムエッタは今度は自分の
バンハッタの腕は先端に近づくにつれて太く、また拳はボクサーのグローブのように大きくデザインされています。また、手首のまわりの「
そうすることで攻撃力を上げ、指や拳を傷つけないデザインなのでした。
迎撃するリムエッタは折り曲げた肘で、バンハッタの左の拳を力強く受け止めます。今度は「かわす」動きは取れません。ドゴアンと大きな音が空気をふるわせます。
白いリムエッタと黒いバンハッタの間の激しい
「ロニー、長く接触していると魔法を流しこまれるよ。距離をおいて戦って」
イムテンダスからボニデールの通信が入りました。
「わーってる! 相手はベルサームの魔法使いエトバリル。魔法に
リムエッタからの反撃がありました。
「膝がとんがってて痛そう!」
と言うのを
「なんの。根性。でいや、どおいっ」
トロンファはバンハッタのほうからも同じ膝蹴りを合わせます。
またも大きな
バンハッタが奇妙な動きをしました。
リムエッタとの衝撃が発生した直後、殴った左腕がどんどん短くなっていったのです。腕は機体の内部に
バンハッタは左腕を胴体に引き込むと、体内で右腕とつなげました。一本の長いヒモ状の腕が形作られたのです。そして、今度は右の拳を敵に向けてくり出します。三度目の殴りです。
腕の長さを倍に長くしたこの攻撃が、バンハッタの奥の手、フィストコンビネーションでした。遠ざかるリムエッタを拳がムチのように追います。
二つの機体が跳ね返しあって、姿勢が十分にもどらないうちの、バンハッタの追い打ちでした。
「お見事、ロニー。フィストコンビネーション、ここが使い時だったよね」
「ほめても
「おごってくれるんだ」
トロンファは気持ちが乗ってきたようです。
しかしリムエッタはその奥の手を
「ドラゴンの首を
ドラゴンのあぎとのようなバンハッタの鋭い打撃は、リムエッタの首ぎりぎりをかすめて後ろに通り抜けてしまいました。
リムエッタとバンハッタは、空中で一瞬だけ動きを止めてにらみ合いました。バンハッタの右腕は長くのびてリムエッタの頭のうしろにとどいています。すぐにリムエッタが前進します。バンハッタの武器である拳が離れていて攻撃できない今がチャンスと考えたのでしょう。しかし、
狙いは、背後のイムテンダスにあったのです。
エトバリルはリムエッタの操縦席で言います。
「じゃらじゃらとお荷物をぶら下げていては、ろくに戦えまい。動けないそちらのメルヴァトールから始末してやる」
ところが、エトバリルの考えはよいものであったにもかかわらず、
バンハッタの殴り「フィストコンビネーション」は
長くなった腕がリムエッタの頭の後ろにまわったのち、ぐるりと巻きつきました。殴りのときとちがい、
首をしめられたような形になりましたが、リムエッタは生き物ではありません。
それでもリムエッタの首をしめつける格闘機体バンハッタ。今度は二つの機体は密着した状態です。膝の攻撃が割りこめる空間はありません。バンハッタにはこの状態からくり出せる強力な攻撃手段がありました。
頭での殴り、つまり
ゴオオオン、ゴオオオン、と正面から金属の
強力な頭突き。そのくり返しがリムエッタにダメージを与えていきます。
バンハッタの頭は、頑丈に作られています。重い頭も武器として使うことができよう設計されていました。
リムエッタのパワーはバンハッタに劣るものではなかったのでしょうが、頭突きの対策はなされていなかったようです。リムエッタの頭部は美しい昆虫のように触角のような部品や、薄い装甲できめ細やかに
頭部を武器としてデザインされているバンハッタは、もちろん無傷です。やわらかいカイコガの頭に、硬いカブトムシが角をぶつけているようなものでした。
ドミュッカの城に、リムエッタの
バンハッタの固いしめつけからの脱出が叶わず、リムエッタの
「くらえ。くらえ。くらえ、ベルサーム。国境沿いのいつもの
興奮するトロンファに、ボニデールが声をかけました。
「ロニー! 少し冷静になって。破壊を命じられたわけではないんだから。敵をよく見て」
「見てるよぉ。すっごく近いからね、よく見える」
「よく見て、ロニー!」
「見てるって言ってるだろ。気分がいいから今日だけじゃなくて明日も晩飯おごってやるよ、ボニデール」
ここで、エトバリルが怒っておどろきの行動に出ます。
エトバリルは、リムエッタの操縦席を
リムエッタの操縦を放っておくことになるはずですが、
魔法使いとしてもかなり上位の実力をもつエトバリルの、魔法による接触攻撃がバンハッタに襲いかかります。
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