第17話 灰色ロボット群の来襲と、タバナハの目的

敵襲てきしゅう!」

「ラダパスホルンせいの甲冑ゴーレムらしき機械が城の外にあり!」

 庭をぐるりとかこむ城壁、その上のほうから、兵士の声が降ってきました。

 ほとんど同時に、城門になにかが外から激突げきとつする大きな音が響きます。子どもたちは、自動車事故をもっと大きくした音のように感じました。

「あらら、魔法でかくれながら接近したのね。それにしても上手にやったわね」

 と、いつのまにかそこに立っていたノルが言いました。

 エトバリルは落ち着いています。

「甲冑ゴーレムを出せ。ピドナミ型には操縦装置を複写ふくしゃしてある。ラダパスホルンの機械に負けはせぬ」

 城門が破壊され、城内に灰色のロボットたちが流れ込んできます。

 トキトが感心したように言います。

「ベルサームの敵も、ほんとに甲冑ゴーレムを作ってたのか」

 ウインがノルの説明を思い出します。

「ノルさんからの情報にあったよね。ラダパスホルンという敵の国が先に甲冑ゴーレムを完成させてたってことだよね」

 パルミも、これで自分たちの今日ずっと置かれ続けてきた状況がに落ちる思いでした。

「なーる。急いであたしらに操縦装置を作れ作れ言うわけだわな」

 三人が声をひそめて会話しているのは、アスミチとカヒからはなれた目立たない植え込みの中です。タバナハの足音消しの魔法や、あとからかけてくれた気配隠けはいかくしの魔法があるので、兵士たちに見つからずにすんでいます。「移動したら見つかっちゃいますからね。私の魔法は弱いから」とのことなので、ここにいるしかありません。

「いつまでもここにいたら脱出できないんだよな。アスミチとカヒの乗っている甲冑ゴーレムに近づくタイミングを見つけようぜ」

 とトキト。甲冑ゴーレムをうばって逃げる目的のためには、城門が壊されたのはチャンスでした。

「けど、ほんとうに戦いが目の前で起こると思うと、すごく怖いよ」

 とウインが言い、自分の動きにくいあしをさすります。

 パルミが心配そうな顔を近づけて、

「ウインちゃん、脚がまだつかれてるの?」

 と、ねぎらいの言葉をかけてくれましたが、

「平気。たぶん走れる」

 とウインは強気に笑顔で返します。

 城門から押し入ってきた敵は、灰色のロボット六体でした。子どもたちがロボットと感じたのには理由があります。

 その機械は角ばっていて、地球の機械に似た外見だったからです。

 パルミも形がだいぶ違うのに気づいて、

「電子レンジとかコピー機とかの仲間みたい。あれ地球の機械じゃないんっしょ? なんかベルサームのと形がちがうよね」

 ベルサームの甲冑ゴーレムが丸い昆虫のようなフォルムをしているので区別するのはかんたんでした。

 城門が外から破られるというとんでもないできごとに、城内は大騒動おおそうどうとなりました。

 エトバリルは、突入してきた機械を見て、

「あれがラダパスホルン製の甲冑ゴーレムというわけか。天才王子デンテファーグの考案こうあんした技術と聞くが、いまいましい。我々に先んじて製造に成功していたのだからな」

 とひょうします。

 地下から中庭へと登る階段から、ベルサームの甲冑ゴーレムがつぎつぎに現れます。岩ゴーレムに分解して運んでもらわなくても、歩いて移動することができるのでした。地球の子どもたちの作り出した操縦装置が、コピーされてあれらを動かしているのです。おそらくは通信装置もコピーされていることでしょう。

「トキトっちが乗ったのと形が同じタイプだね。色は黄土色おうどいろで地味めだけどさ」

 とパルミが感想を言います。

「ラダパスホルンのロボットのほうがきっと強いだろうぜ」

 と言うトキトに、

「わかるの?」

 とウインがおどろきをかくせません。トキトは運動能力はずばけていますが、機械の戦いのことまでわかるのでしょうか。パルミがつっこみを入れます。

「トキトっち、さっき操縦したからって、メカの強さまでわかるものなん?」

「わかるさ。ベルサームの甲冑ゴーレムは今日やっと動くようになったばかり。見ろよ、動きもかなりのろのろしてるぜ」

 ベルサームの甲冑ゴーレムたちの動きは、トキトの言う通り、にぶいものでした。ただ、灰色のロボットもけっして素早い動きというわけではなく、人間とほぼ同じ速度でした。灰色ロボットは、ガシガシと走ってベルサームの甲冑ゴーレムにおそいかかっていきます。

 さきほどの、オピ・ケロムらとトキト機の模擬戦と比べると、スローモーションのようです。どことなく、真剣しんけんみのない動きにすら、感じられそうです。

 そう見えてしまうのも無理のないこと。ベルサーム側の甲冑ゴーレムは、歩くのがやっというようすなのです。トキトの操縦に及ばないのはもちろんのこと、ウインやパルミの甲冑ゴーレムの動きよりはるかにのろい動きです。

 ベルサームの甲冑ゴーレムは、敵と同じ数、六体が出てきています。それがやりのような武器をき出して攻撃します。

 灰色のロボットはそれより短めの剣に似た武器をふりかざして襲いかかります。

「甲冑ゴーレムに加えて、作業用ゴーレムも使え。武器はいらぬ。側面そくめん後背こうはいから組みついて動きをふうじるのだ」

 エトバリルの指示が飛び、岩のようなゴーレムがつぎつぎと灰色のロボットに迫ってゆきます。

 前からはほぼ同サイズの甲冑ゴーレムの槍、側面からは小さめサイズの作業用ゴーレムの群れ、ふたつに囲まれた形になり、灰色ロボットたちはうろたえたふうに見えました。しかし前進して甲冑ゴーレムの構えた槍を打ち払う動きを見せます。

 金属がぶつかりあう激しい音が響き始めました。

 灰色ロボットは一体だけが側面に向きを変え、作業用ゴーレムへ攻撃を移しました。剣をまっすぐに打ち下ろす切り技、唐竹割からたけわりを浴びせます。

 作業用ゴーレムはよけることはできず、頭部をまっぷたつに割られて停止します。動きが甲冑ゴーレムよりさらににぶく、よける動きが間に合わないのです。灰色ロボットによって作業用ゴーレムはあっというまに数を減らされてゆくのでした。

「甲冑ゴーレム・サイロニー型も投入せよ。そしてマシラツラに要請ようせいする。巨獣部隊きょじゅうぶたいパダチフを出せ」

 先ほどの地下階段から新たな甲冑ゴーレムが出現し、べつの入り口から、大猿オピ・ケロムと四足獣デサメーラが現れます。

「おお、かっけえよろいをつけてんなあ」

 とトキトが楽しそうな声で言いました。

 オピ・ケロムとデサメーラは、甲冑ゴーレムの装甲によく似た金属の板を身に着けています。トキトの言うように鎧でしょう。ただし、板を何枚か、頭と心臓と攻撃を受けやすい肩などに貼り付けたという程度のものでした。

「たぶんパダチフっていう部隊は、獣に甲冑ゴーレムと同じ鎧を着せた部隊なんだね……」

 ウインの言う通りでした。

 大きな獣に甲冑をまとわせてあやつる。これがベルサームの巨獣部隊パダチフなのでした。甲冑ゴーレムと同じに、今までにない新しい部隊でした。

「話しっぷりからすると、パダチフのほうはマシラツラの部隊なんかな」

 ウインとパルミの会話に、

「そうなのよー。この城では甲冑ゴーレムとパダチフという、新しい部隊を二つ、準備しているところだったの。戦略のかなめ、っていうことね」

 とノルが答えました。茂みにひそんでいる三人の小学生とまったく同じ姿勢で、背中を丸めて膝を抱えた姿勢をしています。

「わあ、ノルさん。なんでここに! 私たち、見つかっちゃったの?」

 大慌てになるウインに、ノルは「しーっ」と口に指を立てて合図します。

「ほかの兵士は気づいてないから。じゃあ、またあとでね」

 すうっとおしりのほうに身を引いて、どこかに消えてゆきました。

 そこへ、ふたたびヒュルルという空気を裂く音が聞こえてきました。

 直後に天から降り注ぐようにして現れたのは、追加の灰色ロボットの群れでした。

 その重厚な体が大地に降着こうちゃくするとき、地をるがし、大音声だいおんじょうが響きます。

 灰色ロボットがさらに十二体増えました。

 この事態にエトバリルの白い顔がさらに白くなったように見えました。

 新たに空から下りてきた灰色ロボットは、兵士たちや獣の檻などには目もくれません。一直線にカヒとアスミチの乗った青色の甲冑ゴーレムに向かって襲い掛かります。

 四年生コンビは、甲冑ゴーレムに乗ってすぐに戦いがはじまってしまい、おどろきとおびえのために起動どころではなかったのです。

 まだ動かない青色の甲冑ゴーレムの中で、カヒとアスミチは絶叫ぜっきょうを上げています。

「ぎゃー怖い」

 カヒの悲鳴に、アスミチもなだめるどころか自分も悲鳴を上げるしかできません。

「まだ、まだ待ってよ。待った、待った! たんま、たんま!」

 十二体の灰色ロボットに、顔の前で両手を広げて振りますが、相手に見えるはずもなく、見えたとしても待ってくれるはずもありません。

 兵士たちが、エトバリルのそばにけより彼を守っています。

 エトバリルは兵士の後ろから、灰色ロボットへ魔法による攻撃を試みるようでした。

 短いつえを手に持ち、その先から光を放ちます。

 灰色ロボットたちの手や足を狙いますが、強力な装甲にはまったく通じず、ね返されてしまうのでした。

「ラダパスホルンの機械めも、ルヴ金属を使用してある対魔法装甲たいまほうそうこうなのだな」

 エトバリルはにくにくしげに言い放ち、ねらいを地面に変更します。

 魔法による衝撃が地面をうがちました。大きな音で地面が下からボコンボコンと土を吹き上げました。

 エトバリルの魔法は、人間がすっぽり隠れられるくらいの穴をいくつも造ります。穴は灰色ロボットの足の下をねらって開けられたので、灰色ロボットたちは足を大地の下に落としてしまいました。十体の灰色ロボットはアスミチたちの青色ゴーレムに近づくことができず、動きを封じられます。

 足を取られた灰色ロボットたちは、移動することができなくなり、もたもたと穴から足を引き抜こうとします。

「魔法を直接作用させる必要などないのだ、ゴーレムのごとき相手にはな」

 ひざまで地面にめり込んだ灰色ロボットたちに、パダチフ部隊が襲いかかります。

 この大混乱は、ウインたち五人に、またとないチャンスとなりました。脱出することができるかもしれません。

 その一方で、ノル、シュガー、タバナハは獣の檻を一つずつ開放していきます。

 タバナハはふたたびリッソツラの仮面をかぶり、大猿オピ・ケロムや大猿より少し小型の(とは言っても地球で言うゴリラくらいのサイズがある)レサ・ケロムの名前を呼びながら、彼らを自由へとみちびいていたのです。

「ドブイ、ウーリョ、ジラン、ベト、遅くなってごめんね。森へ帰ろうね」

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