第12話 変身、シュガーとタバナハ
開いた
あらわれたのは、シュガーだけではありませんでした。彼女のうしろには着がえて身軽な服装になったタバナハが不安そうな表情で立っています。
ノルとシュガーはメイド服のままです。タバナハだけ、子どもたちが映画の中でしか見たことがないような
パルミがぎょっとおどろいたように目を見開いて、
「わ、わわ、わわわ、タバナハちゃん、トロピカルでワイルドなファッションスタイル……でも、それもいいっすね!」
と感想を口にします。熱帯、野生という意味の言葉をならべました。
タバナハの服装は、全体的に布が少ないかもしれません。南国の島にバカンスを楽しむ若い女性を思わせるような、上半身と下半身とセパレートになった水着に近い感じの服です。ただ生地はカンバス地(
「ゲームに出てくる冒険者……か、探検家の服装って感じ」
とアスミチが現代の小学生らしい表現を選びます。
シュガーもタバナハの服装を上から下までじろじろと見た上で、
「私もタバナハに少し似ている
と言って体をひるがえし、背中を見せてくるりと回転しました。
またたきするほどの時間で、シュガーは白い
「シュガりんも、かっけえええ!」
とパルミが目をかがやかせると、シュガーの顔が満足そうにゆるみます。
「笑顔がにあうね、シュガーさん」
とウインが言うと、
「笑ってない」
シュガーは無表情にもどります。
彼女は自分を
シュガーの白い革鎧は、タバナハの服装ほど
そばに立つウインは、彼女らのよそおいが、動きやすさをえらんだ結果なのかと考えます。
――これはこれで合理的というか、機能的で、いいものなのかな?
不思議な感じのするシュガーはともかく(ノルのように口に出さないように気をつけました!)、タバナハはウインたちと近い常識を持った女性に思えたからです。
それでも残る疑問に、首をかしげて考えました。
――たぶん、この異世界では、お腹を出していても恥ずかしいという感覚がないんだろうな。たぶんだけど。
とウインは想像するのでした。
ここで、 短い言葉の交換がおこなわれて、たいせつな情報が共有されました。
メイドに
つまり、三人とも本当はメイドで働くつもりなどなく、いわば
タバナハ、シュガー、ノルの三人は、あらかじめ打ち合わせをした仲間ではないとわかりました。ほんとうに
三人とも「地球からきた子どもたちがかわいそうだから」なんていう理由ではなさそうです。
あくまで取り引きであり、協力関係の
ただ、タバナハだけは、ときおり子どもたちに対し同情的なまなざしを投げかけていました。やさしい性格でもあるのでしょう。感情を
「エトバリルみたいにトモダチと口だけ言って、無理やり戦争させようとするより、取り引きしてくるあんたたちのほうが百倍まともだ」
と安心顔のトキトです。そんなトキトにシュガーが教えさとすように言います。
「そうとも限らないよ、トキト少年。無理やりさせられたとか、強制されたとかのほうが、気持ちの上では楽に行動できることもある」
意外な答えに、トキトはシュガーを見つめます。彼女は続けます。
「私たちは選ばせようとしている。君たちが危険な状態に
またしても親友、なんていう言葉がシュガーから出ました。タバナハやノルから見ても「親友」とシュガーが言うなんておかしな感じがしました。私生活に関することをシュガーが明かしたのは、意外なことだったのです。
ともあれ、五人の気持ちは決まりました。
三人のメイドたちの提案の通りにする。自分たちも三人に協力してもらう。
目的はひとつです。
ベルサーム国の新兵器、
それは間違いなく、命をかけた冒険の始まりでした。
シュガーがトキトに警告したように、彼らはそれを自分で選んだのでした。いい結果も、悪い結果も、自分で選んだことになるのです。
相談が始まります。
タバナハが少し身を乗り出して子どもたちと
「シュガーさん、ノルさん、まず私から先に、これからの手順を提案させてもらっていいですか?」
ノルは優しくほほえみながら、タバナハに話す機会をゆずります。
「もちろんよ。最初に計画を持ちかけたタバナハちゃんから、どうぞ」
子どもたちも、シュガーも、
タバナハは深呼吸を一つしてから、しっかりとした口調で説明を始めました。
「中庭に残った甲冑ゴーレムの二体ですが、五人が二体に分かれて乗りこむということでいいですよね」
「まず一体をトキトさんが
彼女の提案は理にかなうものでした。
「トキトさん、ウインさん、パルミさんなら、甲冑ゴーレムを
とタバナハが三人の顔を見つめて付け加えます。
ここでほかの人間は、少し理解に差があるかもしれないことに気づきました。タバナハはもしかすると、甲冑ゴーレムの「操縦ができるか・できないか」に問題があったととらえているのかもしれません。
メイドの仕事だけを命じられたタバナハが、甲冑ゴーレム作成について理解不足があったとしてもむりもない、むしろ自然なことでした。
ここで子どもたちがメイドたちに質問します。音声入力で動かなかったばあいに、もう一度操縦席をつくりなおすことができるか。この質問には「できる」と、シュガーとノルの二人が保証してくれました。
どうやら甲冑ゴーレム起動の問題は、なさそうです。
「大丈夫そうだぜ、タバナハさん」
と、あらためてトキトがタバナハの案を了承しました。
操縦が一番上手いトキトが、アスミチとカヒの年下組を同乗させるのは当然で、おそらくほかに選択の
タバナハは続けて、自分自身にも少しの魔法が使えることを明かします。
「甲冑ゴーレムの入り口の
「つまり、甲冑ゴーレムを開けることがタバナハちゃんにもできるってことよね」
ノルがほほえみました。
「エトバリル様が開ける様子を見ましたから、開けられます」
そこで、パルミの
「となるとさー、問題は、乗りこむ前だしょー」
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