第11話 シュガーが来る!
「今夜このまま
とウインがうながします。まずトキトが前向きな気持ちを伝えてきました。
「さっき言ったとおり、
パルミが加わります。
「こっちにはトキトっちがいるからね。ベルサームの兵士も手を出せない感じだったし、大猿や四つ足の
アスミチが、頭の中に城の地図をえがきながら、みんなの顔に真剣な目をむけました。
「ぐるっと見回したけど、北側、東側、西側は……たぶん、壊しても脱出できないね。石の建物がいくつも建ってた」
部屋の窓のあるほうを指でしめします。
「南側から逃げるべきじゃないかな。南には大きな
青ざめた表情のカヒが、小さな声で言いました。
「わたしも、みんなと同じ考えだよ……でも、すごく
カヒも怖さにおそわれながらも、
「軍隊のロボを
パルミがカヒの気持ちをくんで言いました。意外なことに、カヒはパルミのフォローにちょっとした異を唱えます。
「ありがと、パルミ。でも、怖いのはそれだけじゃないの。城ぜんぶ、なんだか、すごく今、怖い感じがするの……」
「いわば敵の真ん中に捕まってるみたいなもんだしな」
トキトは彼なりにカヒに理解をしめそうとしています。カヒはトキトの言葉に対しても、首をふりました。
「昼間より、今のほうがずっと怖い。なんかおかしいの。でも、ごめんね、怖くても、大丈夫だよ。わたしも、みんなといっしょに逃げたいよ」
カヒはしっかりと自分の考えを言えました。
ウインが自分たちの状況をたしかめます。
「うん。意見は
ほかの四人もうなずきます。
アスミチが、忘れてはならない点に
「あとはエトバリルやマシラツラが追いかけてきたらどうするか、という大問題が残っているね……」
彼の表情に暗い
「そこは現地の協力者のタバナハちゃんが、なんか考えてあるっしょー? いっしょに逃げるっちゅーてたじゃん」
パルミは
五人は、大した準備はできなかったものの、上着をふたたび着て、カバンを背負っていつでもタバナハがむかえに来てもいいように
ウインはピンク色のステンレス水筒をぎゅっと手のひらで握りしめました。ピンク色はウインの名字にもなっている
――お願い、私ががんばれるように応援して。私のロボット。
ウインの心にいる“友だちロボット”に伝えます。心の中に自分で作った友だちがいるのです。友だちロボットは体は持っていないけれど、心に話しかけてきます。
――うん、応援するよ。ウインお姉ちゃん、足が痛かったら、トキトお兄ちゃんたちにかならず言ってね。
もうひとつの心は、あたたかいメッセージを伝えてくれました。
ほかの四人もまた、中庭でひろった自分の持ち物を整理整頓したり、チョーカートップを指で触れたり、社会科の教科書の
これからおこなう大作戦を前にして緊張でいっぱいの五人でした。その五人の部屋に、ふたたび扉がノックされる音が響きました。
「タバナハさん?」
とウインが呼びかけると、
「違う。今、少し時間いいかな?」
と、どこかぶっきらぼうな、聞きなれつつある女性の声がしました。
「あ、シュガーさんだ」
とアスミチがすぐさま声の
「美人の声だから覚えたん? アスっちも、男子なんねー」
とパルミが冷やかしたので、アスミチはパルミのほうをぐっとにらみました。
「ひゃっ、アスっち、本気で怒らないでよね、くわばらくわばら」
アスミチも大きな冒険を前にして、心のゆとりが少なくなっているのかもしれません。
シュガーは、子どもたちの部屋に現れる直前に、見張りの兵士にわいろのお金を手渡していました。
つまり、これから起こるやりとりを
シュガーはひょいと身をすべりこませ室内に姿をあらわします。
「
とシュガーは強めの
五人の子どもたちは、その言葉に身を固くします。さきほどの戦場にすずしい顔で踏みこんでこられるシュガーがいったいどんな「お願い」をするというのでしょう?
「おどろかずに、
シュガーはそこでひと呼吸します。子どもたちが言葉を理解する時間をおいたのかもしれません。
「私が魔法を使ってサポートする。君たちは甲冑ゴーレムに乗ったまま、城門を破って脱出してくれてかまわない。遠くへ逃げきるまで、私が手伝うこともできる」
と続けました。
先ほどタバナハがしていた
五人はおどろきのあまり目を見張りました。すぐに言葉が出てきません。
シュガーはまた来るということだけ告げ、ふたたび
五人の子供たちは、この出来事に
「あはは、べつべつに同じことを
「俺もおどろいた」
と、トキトは何度かまばたきをしながら、
「けど、もとからタバナハさんの考えに乗るつもりだったし、協力者が増えるのはありがたいぜ」
言うと同時に、胸をなで下ろすようなしぐさをします。
パルミは疑問があるようで、ウインに向かってこんなことをたずねてきます。
「ねえ、ウインちゃん、どう思う? シュガりんもタバナハちゃんも、
タイミングが違うものの、提案の内容はほとんど同じ。もしかすると、彼女たちは仲間同士で、手違いでもあってたまたまどちらもが伝えにきてしまったのでしょうか。それとも、なんの相談もなく、
そういえば、トキトをこの部屋に運びたがったのは、このためだったように思えます。それぞれが提案するタイミングを見つけたかったのかもしれないと。
五人の子どもたちは、なんともいえない顔を寄せ合います。
「パルミと同じ印象を受けたよ。二人とも
とウインが静かに答えます。
「やっぱそーか」
とアスミチ。彼はすぐ続けて言います。
「エトバリルは二人も部下に
というアスミチの言葉に、カヒは首を縦にふり、同意を示します。
「エトバリルっていう人、部下にも冷たいのかな」
エトバリルに問題があるせいで裏切られるのだろうと思っているのかもしれません。そのとおりかもしれません。
カヒがあることに気がつきます。
「シュガーは甲冑ゴーレムが動くと思っていた感じだったね。わたしたち自身、まだ動かせるかどうかわからないと思っているのに」
トキトが思いつきで答えます。
「あれじゃね、魔法使いのたすけを借りて、もう一度つくりなおす」
ウインが補足の質問をします。
「つくりなおす……ニョイノカネ金属で、操縦席をもう一度つくるってこと? たしかにそれができれば絶対に動く。ただ、操縦席をつくるのに魔法が必要みたいな感じだったけど……」
アスミチが目をかがやかせます。
「もしそうだったら、もうひとり魔法使いがいて、しかも味方になってくれるってことだよね! その可能性は高いよね、うわ、うわ」
「アスっち、まだ決まりっちゅーわけじゃないからね。でもあたしも、魔法使いの現地協力者がいてくれるんならありがたいって思うよ、うん」
パルミは現地協力者という言葉が気に入っているようですね。でも、間違っていません。見知らぬ土地で生き延びるには現地協力者がいたほうがいいのはたしかなことです。
その時、トキトが思いついたように言いました。
「なあなあ、みんな。このあとノルさんまで同じ提案してきたら、どうする? 俺、笑っちゃうかも」
「ないっしょ、それはさすがにー」
パルミがトキトのジョークに手をぴこぴこと振って答えました。こんなジョークで少しだけ場の空気がやわらいだ感じになりました。
話をしていると、三度め、扉がノックされる音が室内に響きました。
部屋を包んでいたゆるい空気が一変します。
「はいはーい。ノルです。今、私の
と部屋にひょこり入ってきたのは、なんとノル本人でした。噂話をたしなめるようなことを言っていますが、本気で注意をしようとしている感じではありません。
「ほんとにノルさんが来た。なんだこりゃ、あははは」
とトキトはおどろきを
ほかのみんなも、この冗談がほんとうになってしまった現実に、とまどいとおどろきでノルを見つめるのでした。
ちょっとの
「あの、ノルさん、
ノルはくすりと笑みを浮かべながら、
「心配ないわよー。私はちょっと魔法の能力にすぐれているのでなんとなく私の噂をしていることがわかったのです。廊下の兵士には物音ひとつ聞こえていないと思うわよ。それに、この
兵士に会話を聞かれていなかったとわかり、ほっとする子どもたちでした。
「ノルさんが、魔法で眠らせたっていうことですか?」
ウインは、わずかに
「そうなのよー。さて、普通に声を出して話しても大丈夫よ。私の提案を聞いて」
そう言ってから、ノルは自分の用件を切り出しました。
「ベルサームの新兵器をかっぱらって、君たちを脱出させてあげます。今、これから」
そう言ってノルは子どもたちの反応をうかがいます。どれだけおどろいてもらえただろう、と、胸をそらしぎみに、鼻を高くしてみんなを見回しました。
――ノルさん、
ウインは心の中でノルに言いたくなっていました。もしほんとうに口に出して伝えていたら、ノルは深く
子どもたちは、まるで自分たちが予言したかのようなこの事態にとまどいを感じるほかありません。笑いたい
「わ、わけわかんねえ。なんで三人がばらばら、べつべつに同じことを俺たちに言ってくるんだろ」
と、ノルが現れたときには笑ったトキトが、提案を聞いた今は心の
「笑うっていうより、不気味に思っちゃったよ、ぼく。あ、ごめんなさい、ノルさんのことを言っているんじゃないんです」
つづけてアスミチがわびました。ほかの子たちも、二人と同じ気持ちでした。
ノルは
ノルも、少し
「トキトちゃん、アスミチちゃん、えっと。説明してもらってもいいかな? 同じ提案を、三人から? 三人ってもしかして私と、シュガーちゃんとタバナハちゃん?」
ノルの推理は、むずかしいことではなかったでしょう。三人といえば、そうなるのが当然でした。そしてノルは自分の疑問をそのまま口にのぼらせます。
「タバナハちゃんもその一人、で合ってるのね? へええ。シュガーちゃんみたいなあからさまにメイドに無理がある子はともかく……」
と言葉を
「シュガーにメイドが無理とか言いましたか、ノノレクチン」
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