第2話 戦い・巨大兵器とエトバリル
見知らぬ異世界の城でした。
その中庭に、五人の子どもたちは立っているのです。
「トモダチになろう。さもなければ死だ」
こんな言われ方をしたら、友達になるしかありません。小学六年生の少女ウインとその通学班の仲間は、友達になると伝えました。
エトバリルは、ベルサームの城でやってもらうことがあると言います。
「君たちがこれから完成させるべき
しかしここで、事故が起こるのでした。
機械式の新兵器、甲冑ゴーレムがあばれはじめたのです。
ウインたち五人を
中庭の奥に、すでにほとんど完成したロボット兵器、甲冑ゴーレムが両足を投げ出した姿勢で座っています。
六年生で通学班の班長トキトが、言います。
「サイズは、座った姿勢で六メートルくらい。でけえよな」
甲冑ゴーレムのまわりでは岩のゴーレムと、兵士たちが作業をしています。なにかの装置を甲冑ゴーレムにとりつけているようなのでした。
エトバリルは地球からきた子どもたちに「操縦装置を作ってもらいたい」と言いました。そのあとで、こんなふうにつけ加えます。
「ベルサームは機械の技術が発達していない。だが、一体の甲冑ゴーレムには、ためしに操縦装置を取りつけたのだ。それがいちばん右にある青い機体だが……」
そのとき、けたたましい金属音が響きました。
兵士の一人が走ってきて、エトバリルに報告します。
「未完成の操縦装置を外し終えていない青いヒヨク型が動いています。
青い甲冑ゴーレムが、操縦者もいないのに、のそりと立ち上がっていました。
兵士たちが
吹き飛ばされた兵士はすぐさま、ほかの兵士によって治療を受けます。
カヒがそのようすに声をあげます。
「あっ。ケガはたいしたことないみたい。あんな大きい機械にやられたのに」
ほっとしているようです。ウインは治療のようすが気になりました。
「あれ、たぶん魔法だよね? だって手のひらが光ってる」
パルミが言います。
「ウインちゃん、さっきエトバリルんが、魔法を使えばどうこうつってたよ」
「だよな。ほんとに魔法がある世界なんだな!」
答えたのはトキトでした。
ベルサームの兵士たちは、甲冑ゴーレムの暴走を止めようとしています。
どうやら兵士の中の責任者が、槍を持った兵士を下がらせたようです。代わりに腕をしきりに振って、なにかを呼び寄せています。
アスミチが目ざとく、城の中の暗がりから出てくる大きな影を見つけました。
「あっ、ふつうのゴーレムだよ! そうか、甲冑ゴーレムより少し小さいけど、ゴーレムにはゴーレムなんだ」
岩ゴーレムは五体いました。作業していたものより大型です。
通常のゴーレムがのろのろと近づきます。
が、暴走している甲冑ゴーレムのほうがはるかに強く、速い動きでした。無人の甲冑ゴーレムは、肘を使った打撃で、近づく岩ゴーレムの胴をたたき、頭を上から殴りつけます。
ゴッ。ゴガッ。ボグッ。
岩の体に攻撃がヒットしました。
ゴーレムのうち三体が、あっという間に倒されます。 一体は胴の真ん中に穴が開き、二体は頭を吹き飛ばされて。岩ゴーレムでは、相手にならないようです。小ぶりの岩ゴーレムも出てきていましたが、残り二体の大型ゴーレム、のこりの十体ほどの小型(といっても大人の
中庭の中央部、つまりウインたちがいるほうへ甲冑ゴーレムは歩いてきます。
エトバリルは兵士と通常のゴーレムを下がらせました。
「一体か。私が
マシラツラが低い声で答えます。
「私の助けなどいるまいに……だが仕事なら、しよう」
「たまにはお前の体術を兵士どもに見せておかねば
マシラツラは何も言い返しませんでした。
エトバリルは暴走ゴーレムの前に立ちます。五人の子どもたちに向かって言います。
「
甲冑ゴーレムの説明をしました。魔法にも強い兵器、それが甲冑ゴーレムだということなのでしょう。
――私たちへの説明をしたってことは、ほんとうにこのあと手伝わせるつもりなんだね。
ウインは心の中で考えました。彼女の心に住む見えない友達が、答えてきました。
――そうだね、ウインお姉ちゃん。でも、怖くても、今は生き延びることを考えてほしいよ。
――わかってる。私のポンコツロボ。
小さな声でウインは仲間たちに伝えます。
「危ないと思ったら、城の中に逃げこもう」
異世界に来たばかりでなにもわからない城ですが、人間が作ったものなら、中は安全だと考えました。少なくとも、ここで暴走した甲冑ゴーレムにつぶされてしまうよりずっとマシなはずです。
班長のトキトが、みんなに伝えます。仲間の安全を考えることと、指示を出す判断は早いのです。
「全員、自分の目を使うんだ。入口を、今のうちに見つけておいて、いざとなったらそっちにダッシュ」
仲間たちはくちぐちに「わかった」「了解」「うん」と答えてきました。
仮面の男、マシラツラがエトバリルと並んで立っています。
「暴走した甲冑ゴーレムが向かってくるぞ、エトバリル」
彼は五秒間、その甲冑ゴーレムを止める仕事をすることになっています。
「わけもない」
エトバリルは動じません。
マシラツラは破壊された岩ゴーレムに向かって走り出しました。猛烈なスピードで、トキトが「すげえっ」と声をもらします。
岩ゴーレムの腕を持ち上げ、方向を変えました。
甲冑ゴーレムに向かうマシラツラ。
六メートルもある甲冑ゴーレムが足を踏み出します。その足が着地する前に、マシラツラは
「上げた足の関節が、
そう言って、着地する前の足の関節に岩ゴーレムの腕をさしこんでしまいました。
トキトには意味がわかるようです。
「膝が伸ばせない! バランスが取れねえだろ、あれをされたら!」
どうやらトキトが見て取ったとおりでした。
巨体が転びます。
マシラツラはそのまま腕を一本取って、甲冑ゴーレムを
「関節はヒトの作りを
最後の言葉は独り言のようでした。
兵士たちはおどろいて見ているばかりです。子どもたち五人も、息を
エトバリルが歩いて甲冑ゴーレムに近づきます。
カヒがその大股の歩きを見て言います。
「わ。緊張がぜんぜんないね。余裕がある……」
アスミチも同じように見たようです。
「そうだよね。負けるなんて考えてもいない。強いんだ。あのマシラツラと、エトバリルの二人……」
エトバリルは魔法の力で宙に浮きました。
「開け」
と命じると、ハッチが開きました。誰もいない操縦室がむきだしです。
「伸びよ、ハイクロー」
エトバリルの
「
という言葉とともに、魂核――握りこぶしサイズの
甲冑ゴーレムは、ぴたりと動きを止めます。
そのまま力が抜けて、だらっと地面に体を伸ばしてしまいました。魂核を抜き出すことで停止したのです。
「お
とマシラツラが言うと、
「かもしれぬ。だが、生身で甲冑ゴーレムより強い者がこの城に少なくとも二人いることは、地球のトモダチにも理解してもらえただろう」
とエトバリルが答えました。
離れたところで様子を見ていたノノレクチンが、こっそりとつぶやきます。 メイド服を着たまま、目にかすかに緑色の光を宿らせて。
「あと二人、いるけどねー」
魔法の力か、彼女の一族の性質か、目はほんとうに緑色の光をかすかにはなっています。同じく緑に近い色の長い髪が、風で動く以上の動きでゆらゆらと揺れています。
トキトも、言葉がうまく出ないようです。
「すっげえええな……あんなでかいロボットをやっつけちまった」
ウインが答えます。
「うん。すさまじい強さだね。まわりの兵士たちも私たちと同じくらいおどろいてる」
さっきまでは表情など出していなかったベルサーム国の兵士たちのようすが違っているのでした。おどろき。それから、恐れ。ベルサームの兵士にとってもマシラツラとエトバリルは強くて恐ろしい存在なのだと、はっきりと理解できました。
こうして、六体あった甲冑ゴーレムは、残りが五体となりました。
パルミがまだちょっとおふざけの調子を残しています。
「ありゃ、ひとつ動かなくなっちゃったじゃん? あれたぶんエンジンみたいなものしょ? 残り五つの甲冑ゴーレム……あ、あたしたちの人数と同じ」
動かなくなった甲冑ゴーレムは、岩のゴーレムたちが引きずって運び出します。
城の地下に通じる入口が現れて、そこに引き入れ、また押し込んでいきました。中庭の地面の一部が板になっていて、それが下がるとスロープ(坂道)が奥まで続いているようです。
エトバリルは、ふたたび五人の地球の子どもたちに向き合います。
「やはり、わがベルサームの力だけでは操縦装置を作れない。今すぐに必要だというのに……!」
感情が出ました。あせり、というもののように見えます。
トモダチになると返事をしたウインたちに、エトバリルはすぐに次の要求をしてくるのです。
「今すぐに、大切な仕事を君たちにお願いしたい」
お願いしたいというわりに、エトバリルの口調はあいかわらず
「わざわざゲートの開口部をねじ曲げて
目を細めているのは、せめて笑顔を作っている
しかし
ウインたち五人は、ベルサームの
六年生のトキトとウイン、それから五年生のパルミは、なんとか平気をよそおっていられました。
けれど四年生になったばかりのアスミチとカヒは、おびえてしまっているようです。二人とも、あまりしゃべることができず、三人の年長組の後ろに隠れています。
トキト、ウイン、パルミの三人は、自分たちはともかく、アスミチとカヒの二人は少し休ませてやりたいと思いました。
ノノレクチンが、いいタイミングで言ってくれました。
「エトバリル様。
マシラツラがエトバリルの後ろから言葉を
「体調が
と言うと、エトバリルはうるさそうに片手をふり、
「言わずともわかっておる。メイドたち、子どもたちを休ませてやれ。マシラツラ、もうトモダチになったのだ、お前が警戒して
と、メイドとマシラツラに指示しました。
エトバリルがセリフを言い終えるやいなや、マシラツラは飛び上がり、外壁を小走りにかけ上がってどこかへ姿を消しました。さっきからエトバリルをちくちく言葉で攻撃していたのは、まるでうるさがれるのが目的だったかのようでした。
パルミが
「ひえーっ。サルのお面をしてるだけあるね。マシラツラ、サルの動きそのもの!」
さらにトキトがこんなことを言いました。
「俺、あいつと勝負してえ!」
「やめてよ、なんかトキト変だよ。落ち着いて、まずは安全のことを考えようよ」
とウインがトキトの服のそでを手でひっぱり、トキトのやけに挑戦的な言葉をおさえようとしました。
「あ、ごめん。ちらっとそう思っただけで、本気じゃないからさ。俺も、なんか、わけわかんなくなってるかもだ」
パルミがトキトをからかいます。
「きしし、トキトっちもおサルみたいに壁を登ってマシラツラにサルのお面をもらってきたら? 予備くらい持ってるっしょ」
ウインがパルミをたしなめます。
「パルミも! 今は冗談言ってる場合じゃないでしょ」
メイド三人が小テーブル、トレー、カップ、水差しを用意してくれました。
その中の一人は身長がきわだって低い女性でした。六年生のトキトやウインよりも
「シュガーだよ。お水、どうぞ」
ウインたちには親しみやすく感じられる容姿と声でした。けれど、なぜだか年下とはまったく思いません。
「あ、ありがとう、シュガーさん」
と、カヒもようやく異世界の人に口をきくことができたようでした。
お給仕をしてもらってわかったのですが、ノノレクチンとシュガーの二人は、はっきり言うと、あまりメイドっぽくありません。動くとそれがわかります。ノノレクチンはお姉さんタイプという感じです。シュガーは、見た目は小学生、中身は大人タイプとでも言うべきでしょうか。二人ともタイプが違うものの、美人です。
ウインは心の中で思います。
――ちがうタイプの美人だよね。ノノレクチンさんとシュガーさん。でも、なんというか、自由というか、なんとなくいい加減にメイドをやっている
三人目の、タバナハという名のメイドは、ウインたちが想像する「十代の若いメイド」というイメージに近い感じがします。
タバナハは、世話好きで、おしゃべりもそこそこで、ひかえめなたたずまいで給仕をしてくれました。
木陰で休んでいると、声がしました。
「トモダチ。落ち着いたかね? ベルサームの水が体に合うといいのだが」
よく通る低い声で、いい声なのですが、ウインは寒気が走った気がしました。
エトバリルが近くに立っていました。
近くで見ると、
いちばん目立つのは胸当てで、アルマジロの皮をまるで生きているみたいに
視線に気づいたエトバリルが、表面上は親密さを出して言いました。
「ああ、私の装備が気になるかね。地球でもなかなか類を見ないだろう? こちらの世界でも、人間でこのような品を装身具にしている者はそういない。これらは生きている装身具だからな」
「生きている……?」
よく意味が飲みこめないウインたちにエトバリルがさらに言いました。
いかにもすごい秘密を言うぞ、というように両手を広げて。
「なにを隠そう、私は君たちのようなヒトではないからね。私は、エルフなのだ……!」
目を大きく開き、口を耳まで
――エルフ。
その言葉は、五人の子どもたちよりも、べつの約一名をひどくおどろかせています。
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