第2話 勇気を出して

一ノ瀬視点


−入学日−

HRが終わって帰宅している。母親が近くのカフェで待っていてあげると、言ってくれたが、クラスはどうだっただの、友達はできたかだの、色々聞かれて面倒だろうと思い、先に帰っていいよ、と言っておいた。


「…自己紹介しっかりできてたかな。はぁ…、それに…」


手には入学祝いで買ってもらったスマホが握られている。一応スマホにはRINEというメールアプリが入ってる。開いて確認してみるも、そこに写ったのは家族の名前だけ。中学校はスマホ持ち込み禁止だったので、スマホがなく、クラスグループに入ってなくても、仲間はずれに思うことはあまり無かった。しかし、クラスのみんなが学校にスマホを持ってきている状況で、連絡先に家族の名前しかないのは流石に悲しい。


皆んながRINEを交換している中、話しかけようとしたものの、声がほとんどでず。振り向いてすらもらえなかった。それで、居た堪れなくなってしまい、逃げ出してしまったのだ。


そして、今に至る。


「クラスグループぐらい入れて貰えばよかったな…」


中学のときから変わってない自分にがっかりした。まだ涼しい風が頬にあたり目を瞑る。春風に叱られているような感覚になった。「ふぅ。」と深くため息をつく。


1人で歩いてるせいだろうか、朝よりも道のりが長く感じる。ブレザーのポケットに手を突っ込み、下を向きながら帰る。


家ではお母さんが昼ごはんを用意してくれていた。用意といっても、通学路にあるパン屋で買ったサンドウィッチだ、学校説明会で初めて学校に行って、見かけた時から気になっていたパン屋だったので、正直嬉しい。


2人分のお茶を持ち、台所から出てきたお母さんはテーブルに向かいながら話しかけてきた。


「学校どうだった?友達できた?」


あまりその話題は出してほしく無かったので、「うん、うん」と適当にながした。話題を逸らしたく、夜ご飯は何かと聞くけれど、すぐに起動修正されてしまう。サンドウィッチを食べ終え、トイレに行きたいと嘘をつき、リビングを出て自室に戻る。


部屋に入り、しわがつかないよう制服を脱ぎハンガーにかける。下着だけだと寒いのでベッドの上に行き、布団にくるまり近くにあった一番好きな恋愛漫画を手に取り、パラパラとめくる。


「私もこの漫画のヒロインぐらい勇気があればな」と思いつつ、疲れてしまったのかそのまま夕方まで眠ってしまった。


−次の日−


本当は私はそんなに頭は良くなく、入試で偶然いい点をとってしまい、一番上の特進コースに繰り上げられたのだ。なので、正直私にとって中学範囲の復習テストは辛い時間だった、全くできなかったわけではないが、よくできたとは絶対に言えない。


今日こそはクラスの誰かとRINEを交換してクラスグループに入れて貰おうと家では意気込んでいたが、いざ学校に着くとすでにクラス内でグループができていて話しかけられなかった。(仲良く話してるのに邪魔しちゃ悪いしね、うん。)


そうこうしているうちにもう帰る時間になってしまった。元気な女子たちのグループはカラオケに行こうと話しながらすぐに教室出て行った。数分もすると教室からは誰もいなくなっていた、数週間経った頃に後からクラスグループに入るとなると、忘れられていたのだろうと、クラス中からかわいそうな目で見られることは想像がつく、なので早く入りたかったが勇気が出ない。


1人残った教室でスマホを見ていると、教室のドアが開いた音がした。見てみると隣の席の如月君だった。近づいてきたので、話しかけられるのかと思い期待していると、後ろを通り過ぎ、自分の机の中をのぞいていた。なに変な期待をしているのかと、恥ずかしくなり、本を持った彼が教室から出て行こうとするのを目で追っていた。


「あ、あの、…連絡先交換してくれませんか?」


窓から入りこむ風に背中を押され、席を立ち、気づくとこう口走っていた。


一瞬自分でもなにを言っているか分からなくなった。

頭の中が真っ白だ。


顔がとても赤くなっている感覚があった。冷たい風のせいにしたかった。


数秒間の沈黙の後、正気を取りもどした私は、自分がなにを言ったか理解した。必死でどうにかしようと思い、


「あ!全然嫌だったら交換しなくても、気にしn…」


「いいよ」


私があたふたしていると、彼は一言、いいよと答えてくれた。きっと間抜けな顔をしていたのだろう、彼は少し笑っていた。教室に誰もいないからと、マスクを外したのが間違いだった。


そのあとのことはあまり記憶にない、如月君とRINEを交換し、彼が帰ったあとは魂が抜けたかのように椅子に座っていた。そのまま風に身を任せるかのように教室を出て、校門を通った、まだ心臓がドキドキしている。スマホをじっと見ていると、今でも信じられないがそこには家族以外に如月君の名前があった、初めてのクラスメイトの連絡先、しかも男子だ。


正直ニヤニヤが止まらまい、変な笑い声が出ないよう気をつけながら帰る。昨日よりも涼しいはずだが、気のせいか少し暖かく感じる。頑張って自転車を漕いでるせいだろうか。


「あ、クラスグループ入れてっていうの忘れた…。」

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春夜の蒼月 たこぼう @takobou

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