第11話

 そしてやってきた体力測定。

 周囲はどんよりとした雰囲気に包まれているが、一部は元気一杯そうに見えた。まぁ俺は前者だが。


「はぁ……負け戦に挑むってのは悲しいもんだな」


 一晩考えた結果、俺はここで負けるのが吉だという結論に至った。

 理由は多々ある。勝てる種目はあるだろうが、おそらく大半が負ける。ズルをしようにもバレた時はおしまいだ。そして、俺が負けたとて朝凪さんに近づけまいと妖精が動くだろうと考えたからである。


:つまんねェーー!

:諦めてんね

:合理を求めて冒険を捨てるな

:そんなんで朝凪ちゃんが喜ぶと思うか?

:ざまぁしてくれ、必要だろ

:そうかそうか君は(以下略)

:それでも男かぁ?

:恥を知れ!!

:お前ん家の洗濯機ぶちぶちにしてやるぞ

:↑どんな脅しだよ


「あーうるさいうるさい。何もしようとしない外野は黙ってろ」


 俺なりに朝凪さんのことを考えて出した結論だ。それで全て丸く収まるなら構わない。


 なんやかんやで始まった体力測定。最初は体育館で種目を消化するらしく、握力、長座体前屈、上体起こしをやるとのこと。

 長座体前屈なら勝てそうだが、その他二つの種目は無理そうだ。


「んじゃ右手左手、二回ずつやれよー」


 先生に言われた通り、測定器で握力を測ってゆく。俺は右手が35キロ、左手が32キロという結果となった。

 中学とほぼ変わってない……というか、なんなら少し下がったような気がする。


 対して轟くんは右手が54キロ、左手が50キロという化け物じみた結果となっていた。


 彼が言っていたハンデは、長座体前屈以外の俺の測定結果×1.5で勝負していいというものだ。だが今回はそれでも負けているな。


:普通……

:つまんないぞ!

:かなーたマジか

:俺たち協力するからズルしようぜ〜

:奏多頑張れい

:もうこないからねー


「負け戦だっつってんだろ。まぁ……相手がズルしてくるってわかってたら面白くなってたかもだけどな」


 その後も上体起こしや長座体前屈を行なったのだが、どちらも負けてしまった。

 長座体前屈は勝てたと思っていたんだがなぁ。それに、俺の上体起こしの回数の結果が体感より少なかったような気がするけど……。


 言い訳に過ぎないなと思いながら、次は外での種目なので皆グラウンドへ向かう。

 始まるまで少し時間があるので、途中で少し抜け出してウォータークーラーで水分補給を済ませる。


「奏っちやっほ〜。おっつぅ」

「あ、夜滝さん。お疲れ」


 ひょこっと現れたのは夜滝さんだった。

 どうやら女子の方も終わっていたらしい。


「クソだるいね〜。シャトランは別日にやるらしいし、地獄が先延ばしされててガン萎え〜」

「まぁ好きなタイミングで離脱していいし、持久走よりはマシだよな」

「それな〜」


 軽い雑談を挟んだ後、夜滝さんは再び声色を変えずにこんなことを言い放ってきた。


「ねぇ奏っち。轟さ、ズルしてるよ〜」

「えっ」


:な、何ィーーッ!?

:それは本当です?

:二窓できないからわからへんねん……

:鳩コメ誰か寄こせや

:ってことは?

:そろそろ狩るか……♧

:かなーたの逆襲きちゃ?

:解放しようぜ!!


「奏っちの握力計のネジが緩んでたし、なんらかの改造がされてたと思う。上体起こしのペアの男子はさっきの放課に下っ端Aに脅されてたから結果より少ない報告をされたと思う。長座体前屈の時の轟のペアは下っ端Bだったし、盛った可能性大だよ〜」

「す、すごいな夜滝さん……いつの間にそんなことを……」


 探偵みたいなことをしていたらしく、つらつらと俺に報告をしてくる。

 全力で測定をしていたし、全く気がつかなかった。


「奏っちさ、やろうと思えばできたでしょ、

「……なんでそう思ったんだ?」

「奏っちはさぁ、あたしとおんなじ雰囲気がするんだよね〜。参謀っていうの? 脳みそちょ〜回転させて裏で手回しするタイプ」

「うーん……まぁ、中学生はそんな感じだった気がする」

「でも今は友達を思い合理さを求め、それを手放したってか〜」

「…………」


 ケラケラと笑っているが、どこか怒りが孕んでいるようにも聞こえる口調だ。幼馴染である朝凪さんを思ってのことだからだろう。

 最初から戦うことを諦めている俺はさぞムカついただろうな。


「奏っちが萌羽のことをちゃ〜んと考えてくれてるのは嬉しいよ。けどね、約束を破ったら許さないから」

「あ――」


 ――最高の青春ってやつを味あわせてあげてほしい。


 つい昨日夜滝さんから言われた言葉が脳内で響く。

 ただ朝凪さんに被害が及ばないように必死になっていた。高校生の遠足だって青春の醍醐味だ。それが頭の中からすっかり抜け落ちていた。


「……ごめん」

「謝んなよ〜。悪いのはアッチだしさ。それに、あたしん中では奏っちの好感度上がってるから気にしないで〜」

「そ、そうか」


:奏多って中学の時どんな感じだったの?

:最近きたからわからんな

:中学の時は……一言でいうなら恐怖

:圧かけて言葉でメンタルゴリゴリ削る奴

:なんで知ってんのってことがたらふくある

:目的のためならなんだってする系

:え、怖……

:考えられへんなww


 ええい、うるさいぞコメント欄。俺の黒歴史を掘り返そうとするな古参勢。


「ま〜なんというか、奏っちには期待してるってことだよ。あたしの友達としてさ」

「そっか……。ありがとう」

「にひひ、頑張れよ。奏っちがどんなに黒に染まろうが、あたしはずっと友達でいるって約束するからね〜」

「そこまで黒くなるつもりはない」


 ひらひらと手を振ってこの場を立ち去る夜滝さん。

 わざわざ調べ上げてくれて伝えてくれた。背中を押してくれたって捉えてもいいんだろう。期待していると言われたし、期待に応えなければ。


「あー……その、なんだ」


:うんうん^^

:何カナ?

:言うことあるよねぇ(ニチャァ)

:態度で示そうよ

:ワイらに何か伝えることあるん??

:目には目を、歯に歯を……


 リスナーのことが見えはしないが、ニチャニチャしてる笑みがよく見える。

 はぁ、とため息を吐いた後、こう言い放った。


「さっきは適当にあしらって悪かった。力を貸して欲しい。――今からアイツをボコボコにする」


:ふ〜〜ん?

:高くつくぞ♡

:ったく仕方のねぇ人間だ

:過去は消えない。だからお前の未来に賭ける

:退屈させてくれるなよ?

:貴殿に力を貸そう……

:妖精の怖さってのを見せてやりますかー

:今回だけだからねっ!

:よっしゃあ! 勝つぞーー!!


 轟はズルをしている。

 ならばこちらもズルを……いいや、を使わせてもらうぞ。


「ありがとな、お前ら。さて、そんじゃあこっからは俺の……いいや――のターンだ!」

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どうやら俺のラブコメは生配信されているらしい 〜美少女救ったらラブコメ始まったんだが、コメント欄がうるさくてかなわん〜 海夏世もみじ @Fut1

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