第10話
朝凪さんの幼馴染である夜滝さんと知り合いになってから翌日。
クラスメイトから目をつけられているため、なるべく目立たないようにコソコソと教室に入る。
なんとかバレずに座ることができて安堵したのだが、束の間の休息は突然終わりを告げた。
「あ、奏っちおっは〜。昨日は楽しかったよ〜〜」
「「「「「はァ??」」」」」
「終わった」
夜滝さんの気さくな挨拶が俺に飛んできたのだが、クラスメイトの殺気もプラスされるアンハッピーセットである。
夜滝さんも顔がめちゃくちゃ整っているし、すでに何回も告白されているらしい。だが、告白が成功した人がいないだけではなく、仲良くなった人もまだいないと言われていた。
そう、今この瞬間まではいなかった。俺という存在が現れるまでは。
「いんや〜、クラスのやつらも何睨んでんのって感じだよね〜。マジでダサいと思わない?」
「いや……コメントは控えておこう。そろそろ視線で体に穴があきそうだ」
「ウケる〜」
:このギャル強ぇ……!
:クラスメイトの殺意マシマシだな
:#強く生きろ奏多
:萌羽ちゃんと須美ちゃんと仲良い時点で十分……いんや、まだ足りねぇぞォ!!
:じゃあ……#弱り散らかして死ね奏多
:↑辛辣すぎるハッシュタグww
:ただの暴言じゃねぇか!
:時として言葉のナイフで人は死ぬんだぞ
:でぇじょぶ、俺たち全員が死ぬ気でスパチャしたら生き返れる(多分)
:奏民は配信主に容赦がないのが特徴です
クラスメイトからもリスナーからも殺されそうになっており、夜滝さんの優しさが心に染み渡る。
「あ! 冴島くんと須美がおしゃべりしてる! おはよー!!」
「萌羽おっは〜」
「朝凪さんおはよう」
雑談をしていると、元気いっぱいの挨拶が響いてきた。
案の定、それは朝凪さんである。こちらに向かって駆け寄り、朝凪さんが夜滝さんに抱きつく姿を見て脳が回復する音がした。
「あ〜、明日めんどいなぁ〜。サボりたい〜」
「須美どうしたの? 明日って何かあったっけ?」
「あぁ、そういえば体力測定があったな」
「そ〜〜」
みんな大嫌いな体力測定。特にシャトルランか持久走が生徒のヘイトを集めているだろう。
まぁ俺はそこそこ動ける陰キャなので、そこまで苦には感じていない。
:奏多のくせに余裕そうやな
:負け犬の吠え面が今から楽しみだぜ
:俺は応援するよ
:朝凪ちゃんにかっこいいとこ見せたれ
:「この体力測定終わったら告白するんだ」
:体力測定で死亡フラグを立てるな
通常ならば特に何もなく始まり、終わるだろう。だが、今の俺には何万もの妖精が憑いている。
それが意味することは――面倒事が舞い込むということだ。
「おい冴島ァ、ちょっとツラ貸せよ」
「……ああ、轟くんか」
山のうな筋骨隆々な肉体を持つ彼こと
まぁ狙いは朝凪さんなのだろうが、一体全体今度は何を仕掛けてくるつもりなのだろうか。
「ちょっとさぁ、奏っちは今あたしたちと喋ったんだけど〜」
「そ、そうです! 冴島くんとおしゃべりの途中でしたよっ!!」
「いいよ二人とも。俺も話したいと思ってたから」
早かれ遅かれ、くまさんパンツの件でいつかは絡まれると思っていた。その件を今回で解消できるとなれば、面倒だがちゃちゃっと終わらせたいのだ。
俺は轟くんについて行き、教室の外に出る。
「……で? 何の話がしたくて呼んだんだ?」
「明日の体力測定はもちろん知ってるよなァ。それと、来週の遠足についても」
「あぁ、知ってるぞ。それがどうした?」
「遠足の班決めを賭けてオレと勝負しやがれ」
「成る程な」
遠足で行動するにあたって、一グループ三人というなかなか少数に分けられる。このまま行けば、俺、朝凪さん、夜滝さんとグループが決まってしまう、とコイツは考えたのだろう。
だが、まだ決めているわけでもないし、班決めを賭けて勝負と言っても轟くんが朝凪さんらに入っていいと言われる可能性も少ないだろう。
それとも何か、入らせてもらえる秘策などがあるのだろうか?
そんなことを考えた矢先、轟くんがスマホの画面を俺に向けてくる。そこには、プール掃除をしている俺と朝凪さんが写っていた。
:え
:あっ……
:盗撮されとるやんけ!
:卑劣な……!
:脅しですか
:バッチリ写っとるw
:こ〜れは言い逃れできんな
「昨日、たまたま見かけたんだよなァ……。勝負を引き受けなかったらわかってるよなぁオイ」
「先生にチクるっていう魂胆か」
この写真には、轟くんにとって絶大な価値がある。俺を勝負の土俵に無理やり上げるという価値と、朝凪さんの班に入るための脅しの材料としての価値。
俺としては入学早々問題児扱いされるのは別に構わない。だが、優等生である朝凪さんはよくないはずだ。しかも、昼メシスポットを失うのも避けたい。
「はぁ……わかった。勝負を引き受ける」
「ハッ! 言質は取ったぜェ……。だが、オレも鬼じゃあねぇ。ハンデはくれてやるぜ」
「轟くんは優しいねぇ。明日がとても楽しみだよ」
「その余裕さがいつまで続くか見ものだなァ」
前回とは違って機嫌が良い背中を見せつけながら、彼は教室へと戻っていった。
体力には自信があるし、勝てる種目もあるにはあるだろう。だが、あの筋肉ダルマ相手となるとやはり自信がなくなりそうだ。
:大ピンチ到来じゃん
:お前勝てるん……?
:奏民古参勢だけど、普通にいい勝負しそう
:ヒョロイけど結構やるよ、奏多は
:奏民古参勢ほんとかぁ?
:明日が楽しみやでw
リスナーどもは娯楽としてしか見てて、協力は仰げなさそうだな。それと、朝凪さんのガチファンも無理だろう。
轟という存在は朝凪さんファンにとっては良くないだろうが、ここで邪魔な俺を朝凪さんと引き剥がした後にどうにかすればいい話だし。
(さて……まぁ、なるようになれだな)
ケ・セラ・セラ的思考をしながら、俺も教室へと戻った。
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