第3話 ゴーストハンターと約束
だが、はっきりと理解したことはある。僕は今、まさに幽霊に連れて行かれかけて、あのスナイパーに助けられたのだ。
あの人に話を聞きたい。お礼を言いたい。
その一心で、ビルから降りてスナイパーを探した。途中、お婆ちゃんに「夢遊病みたいにさまよっていたけれど、大丈夫?」と声をかけられた。「大丈夫」と答えた。
スナイパーの特徴を説明しながら、近くにいる人たちに聞いて回る。すると、目撃情報が手に入った。「ああ、確かにいたよ」とお兄さんは続ける。
「君がここを歩いてこなかったかって聞かれたよ。そこのビルに登ったって教えたさ。ただ、少ししてから、またビルを降りてきてね。会わなかったのかい? それなら、山の方に行ったから、そっちに行けば会えると思うよ」
山の方。それを聞いて、お礼を言って山の方へと向かった。
山に着いたらとにかく山道を登った。ちょっと疲れもあったけれど、頑張って。
どこまで登ったんだろう。そう思いながら登っていると、やがてお墓が並んでいるところに辿り着いた。
そこに、黒くて長いバッグを背負った、黒い服を着た男の人がいた。間違いない。助けてくれたスナイパーだ。どうやら、お墓参りをしているようだ。
その人に近付いていく。途中で彼がお参りしている墓が見えた。それを見て、「あ」と思わず声を上げる。
推名春美。小学校に通っていた頃の友達のお墓だった。毎年お参りに行くね、と約束して、段々行かなくなって、それっきりになってしまった友達のお墓。
「彼女は、どうやら寂しかったみたいだ」
スナイパーは、僕の方を見て言った。今なら、何のことか分かる気がした。
毎年お参りに行くね。この約束を僕が忘れてしまって、寂しい思いをさせてしまったから、推名さんは幽霊になって僕を連れて行くことに決めたんだと。
「ねぇ、空を飛ぼうよ。君と飛ぶの、夢だったんだ」
ああ、そうだ。そのことも思い出した。二人で、具体的には飛行機に乗ってどこかへ行こうと話していた時間があった。
思えば、幽霊の時点で推名さんの面影はあった。右眉の上にほくろがあった。どうして、今まで気付かなかったのだろう。
スナイパーは続ける。
「なぜ、保健室の先生に本当のことを話さなかったんだい?」
「……もしかしてあの人、あなたの仲間か何かですか?」
「そうだよ。僕らは、君のように幽霊の被害に遭いそうな人を助ける仕事をしているんだ」
それを聞いて、どこか納得がいった。幽霊を信じている先生と、おそらく幽霊を撃ったスナイパーが、後門の傍で会話をしていた理由。あれは、仲間同士で情報を交換していたんだ。きっと。
それにしても、学校にまで入り込めるなんて、一体どんな人たちなんだろう。
「あの時は、その。幽霊のことを信じたくなかったから」
「そうか。今はどうだい?」
「信じる。だから、推名さんにごめんなさいをしたいんだ。してもいい?」
「いいよ」
僕は墓の前に立った。そして、お参りするときのように手を合わせて、ごめんねと祈った。返事はなかった。
「次からは、約束したことはしっかりと守るんだよ? 後、下手な約束はしないこと。私と約束してくれるかい?」
そう言ってくれたスナイパーに、僕は「分かった」と約束して、家に帰った。今日は、夢は見なかった。
ゴーストハンターと約束 たての おさむ @tateno_101
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます