1.密林地帯の空き家
「うっへぇ~~~だりぃ~~~( ꒪⌓︎꒪)」
目の前にはペンキの剥げた二階建て。
庭の雑草は伸び放題で最早ジャングル。つる性の植物がベランダや傾き掛けたガレージの支柱やらに触手みたいに巻き付いて、翠の顎の中に飲み込もうとしている。
錆びた門扉を開ければヤブ蚊や蜘蛛の巣の熱烈歓迎。最高気温35.3℃の猛暑の中、クッッッソ喧しい蝉時雨の下で、俺は気楽に「バイト」を引き受けた事を全力で後悔した。
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「お前、どうせ暇ぶっこいてんだろ?ちょっとバイトしてくんね?」
冷房が碌に効いてない学食で、俺はサークルの先輩──岡田さんに拝まれた。何かと話題の「闇バイト」かと身構えてしまったが、内容を聴いて思わず拍子抜けしまった。
その内容は以下の通り。
・空き家の掃除と換気、住み込みで留守番。
・期間は旧盆前後の五日間(8/13-8/17)。
・報酬はバイト完了後に現金支払い。
・日給六千円。庭の清掃やゴミ出し等もやってくれた場合は別途ボーナス支給。
・電気、ガス、水道代は家主持ち。
・食事や日用品の購入は自前。
──要は、五日間ボロ屋で過ごせば三万円の収入になると言う事だ。食費や必要経費を差っ引いてもそこそこ美味しい話だろう。貧乏学生と言えど夏場は何かと物入りだ。
俺が二つ返事で引き受けたのを確認すると、先輩は空き家の持ち主にLINEした。特徴のある呼び出し音が数回、繋がった
年齢不詳の美魔女みたいな
「──暑い時に御免なさい。岡田君に紹介してもらって本当に助かるわ」
俺が管理を引き受けた家は、元々家主さん母娘が暮らしていた。介護が必要な母親が施設に入り家主さんも傍のアパートへ移った後、隣に住んでる岡田先輩と二人で十日に一度の割合で家の換気と掃除、庭の手入れなんかをしていたそうだ。
ところが今回、家主さんの母親が暑さで体調を崩し、尚且つ先輩も実家の怖いオカンから非常招集(身内の不幸)を掛けられた。
そこで先輩は、サークルの中でも一番暇そうな俺に目を付けたんだそうな。悪かったな非リア充でよ!
「それで、ちょっと……言い難いんだけど、ウチは面倒な仕来りが多いの。父方の縛りでね」
言い辛いのか、電話の向こうで少し口篭る家主さん。ひょっとして、ヤバいの引いちまったか俺?
「と言っても、ネットの怪談みたいなおどろおどろしいものじゃないから安心して」
ドン引きしている俺の内心を見透かす様に、家主さんが言葉を紡いだ。意外とお茶目なオバさんだな、この人。
オカ板あるあるの「お墓から聖火ならぬ盆提灯リレーを完遂」とか「お盆期間中、休憩無しのお茶入れ耐久レース」みたいな、しくったらバドエン一直線の代物では無く、あくまで常識の範囲内の仕来りらしい。
あくまで、家主さんの話を信じるならばだが。
「詳しい事は岡田君に聞いて頂戴。詳細をメモしたノートも彼に渡しているから」
本当は直接会ってお願いしたかったんだけど、暑さで母の体調が悪くて動けないの。
申し訳なさそうにそう言った後、家主さんはノートの使い方とか何か分からない事があった時の連絡先とかを親切に教えてくれた。
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で、現在。
先輩から押し付けられた分厚い大学ノートを片手に、俺は密林地帯となっている空き家の前に佇んでいた。どうやらコイツは、この家で「快適に」過ごす為のトリセツと言う事らしい。
木陰を見付けると、俺はその下で早速ノートを開いて見た。時折過ぎる涼風が心地好い。
最初の頁には「目次」、五頁目からは「居間」「台所」「トイレ」等の注意事項が書かれている。
更に読み進めると、ゴミ収集日の日付け、役所や近所の病院、スーパー等の電話番号や営業時間なんかが書かれている。家主さんは几帳面な性格なんだろうな。
そしてノートの後ろの方に、問題の冠婚葬祭の項目が記されていた。
ざっと流し読みをして見たが、書かれているのはごく一般的な──13日の夜に迎え火を焚いて盆提灯を飾るとか、16日の夜に送り火を焚くとか──程度のものだった。
大袈裟にノートに書くレベルの話じゃねぇな、ググって見れば大体判るじゃん。
そう思ってノートを閉じようとした時だった。
【
ノートの一番最後の頁に記されていた、赤ペンでやや乱暴な筆跡で書き残された一文が、やけに目に付いた。
規則の多い家 ちょび@なろうから出向中 @gyougetsu_inn_26
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