第7話 スリット深くない

「あねさん、例の物用意していますか?」


混乱している私をよそにムツは先生にたずねた。


あっさり、私をシンとか言っていたけど、どうするつもりなの?


「あぁ、持ってきてるよ」


先生がとりだしたのは衣料量販店の紙袋。


ムツが頼んでいたの。わざわざ先生に?


その紙袋を、


「ほい」


と私にわたされた…… 訝しみながらうけとる。


「これ、私の舞台衣装!」


渡されたのは踊り子衣装。


私はひろげて確認。


上半身は少しだけ変わっている。どこがとは言わないけど……下半身は別物。


ただのロングスカートだったのに……


「ねぇ、スリット、深くなってない?」


こんなの着るとみえ……みえてもいいものだけど、ふとももまで見えるでしょ!


私の怒りにムツはニヤリと笑う。


こいつのたくらみか!


「怒るなって、必要な事」


しかし、ムツより辛辣なのは先生。


「スリットよりも胸盛りすぎてない?」


…………


「…………それは思った………」


誤爆するムツ。


◯@%☓☓%○△□☓!!!!!!!


「 胸までちいたんだって!!」


私も怒りのあまり暴発した。

腕をグルグル回し、ムツに飛びかかる私。


「そ、そんな事は言ってない!」


ムツが涙目でくちにする。

そんな事で怒りはおさまらない私。


「まぁ、盛りすぎると踊りにくいから、軽くなってよかったじゃん」


矛先がズレた先生の一言が油をそそぐ。


私の怒りはおさまらない、先生は自分はあるからって!!


「○%△□@☓☓%◯@☓☓!!」


…………会話及第……


「悪かった」


ムツが 頭をさげる。こちらも悪かったし、しょうがないよね。


「私も怒ってごめん」


ムツの頭をたたきまくったし……


「誰にだってコンプレックスがある、ふれたらダメなんだよ」


いや、最初は先生……あとでとっちめる!


話題転換のために私がたずねてみた。


「けど誰が、踊り子ていい出したの?」


でも、バーで踊り子はファンタジー作品でもみるから、おかしくないか。


「男性客を意識してな」


ムツの言葉に力がぬける。


「彼女に連れられたとか、もしくは娘にねだられた父親とかな」


そもそも、女性客はモデル目当てにくる。

だから、男性客を意識して、あぁなったわけか。


「昭和のくノ一とかとかわらんな」


たしか昔の時代劇色っぽいくノ一がでてくる。


ムツたちの役も、何か意味あるの?


「じゃあサムライは?」


今までで気配をおさえていた志村が答える。


「これ時前す」


なんで、向こうが用意するのがふつうなんじゃ??

ムツも苦笑いしてる。


「お前たち適当に背景で、闘えって」


ムツが経緯を教えてくれると、要約すると、背景は浮かないような衣装、武器は用意しろと雑すぎるあつかい、


「でもゲームしないから思い浮かなくてな……FFのジョブのサムライみてな……それでいいやと」


ムツの説明に納得。


「他になかったのかい?」


先生が呆れかえってる。

その気持ちはわかる。


他の冒険者とかありそう。


「衣装さんに一から作ってもらうのも、すぐにできるのが侍か……御当地戦隊・ヤツハシンジャーぐらいで……」


なるほど……バイクのヘルメットを改造した頭と全身タイツ、ゴテゴテの武器……ヘルメットに八つ橋が黄金に輝いた。


これはサムライになる……普段、こんなことやってるの? ムツと志村って……言葉がでない沈黙。


「カッコいいけど、違うよな」


ムツあんたのセンスって……志村は恥ずかしそう。


「まぁ。ちいたん、これからは別のやり方をやってみようか」


また、提案をムツは口にする。

どうも、最初から最後までふりまわされてしまう。


こんな雑ならやり返したくなるか、苦笑がもれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私は踊る そして、舞台は暗転す 七月七日(なつきネコ) @natukineko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ