第6話 パパ活、終わりました


 あれから一週間、私はパパのところにはいかなかった。


 これ以上迷惑はかけられない。

 どうせパパは私の名前ぐらいしか知らないんだ。

 電話番号もLIMEも住所も、パパは何も知らないのだから、私がいなくなったとしてもすぐに忘れるだろう。


 なんだか、パパと出会う前よりも、もっとずっと寒くなったように感じる。

 それだけパパの隣が温かくて、心地良くて、大切ない場所だったのだ。


 再び居場所を失った私は、また、あの場所に戻って来た。


 たくさんの女性が路上に立つ、パパ活スポット。

 もう誰でも良い。

 私を一人にしないでくれたら、誰でも。

 ひと時の愛情でも──。


「君見ない子だね。いくら?」

 声がかかって顔を上げると、年配のサラリーマンがにこにこと私を見下ろしていた。

 あぁ、この人が私の初めてになるのか。

 誰でも良い。ひと時でも愛してくれるなら。

 だけど──本当は、大好きな人に、愛されたかった。


 ぐっと出かかった本音を飲み込んで、私が男に貼り付けた笑顔で口を開いた、刹那──。

「この子はダメです。俺との約束があるんでね」

 聞きなれた穏やかな、だけど強さを含んだ声が私の言葉を遮った。


「っ……なん、で……」

 そこに立っていたのは、いつもきちんとセットしている髪もそのままにしたパパ──璃央さんだった。


「はぁ……まったく、君って子は……」

 去っていく男を横目に、大きくため息をつくパパ。


「いきなり来なくなるから、心配した。連絡先も知らないし……」

「何でここに……」

 思ってもみなかったことに、頭が働かない。


「まいかちゃんが来なくなって、心配で、毎日ここを通って探してたんだよ。ここにいないに越したことはないけど、もしまたここに戻ってきて他の男になんて買われたなんて事になったら、たまったもんじゃない」

「何で……私は璃央さんにとって、ただの高校生で、迷惑な子供で、だからそういう対象に見てくれなくて──」

「確かにまいかちゃんはまだ高校生で、今俺が何かするなんてことはない」

「っ……」


 やっぱり。

 本人の口から面と向かって聞くと堪えるものがある。

 私は目に浮かぶ涙がこぼれないように、下瞼にぐっと力を籠める。


「……いや、こんな日々が続くと信じ切っていた俺が駄目だった。ごめん」

 そう言うと、璃央さんは、私をまっすぐに見つめて言った。


「俺は、まいかちゃんが好きだよ」

「っ!!」

「本当は、高校を卒業するのを待つつもりだった。だから──、もしまいかちゃんが嫌じゃなかったら、俺に、彼氏の座を予約させてもらえないかな?」


 愛やら恋やらはすぐに変わっていく不確かなものだ。

 そう思っていたのに、求めてしまったのはきっと──。


「……私も、パパが好き」

 やっとのことで紡ぎ出した言葉にパパが苦笑いして私の頬に触れ、その唇を私の耳元へと寄せてそっと囁く。

「パパじゃないでしょ?」

 その熱が、全身を駆け巡る。


「……璃央、さん」

 ためらいながらも名を呼ぶ私に、璃央さんは満足そうに笑って私の頭を撫でた。


「それじゃ、早速ご両親に挨拶しとかないとな。『娘さんを予約させてください』って」

「ふはっ、何それ」

「少しでも俺の本気をまいかちゃんに知っておいてもらいたいからね」


 そう言った璃央さんの目に、ぎらりとした強い光が見えた。


「逃がさないから、覚悟してね。目標、達成させるんでしょ?」

「~~~~っ、も、もちろん!! いつかお風呂よりもご飯よりも私を選んでもらうんだからっ!!」


 こうして半年間の私のパパ活は、強制終了を迎えた。

 

 数年後、私の目標が容易く達成されたことは、言うまでもない。



END




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パパ活、始めました 景華 @kagehana126

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