第5話 Side璃央
「んぅ……パパぁ」
「……」
遊園地から帰る途中で眠ってしまった女子高生をソファへ横たわらせている俺は、断じてやましいことはしていない。
してはいないが、その無防備な姿に何も思わないほど仏のような人間ではない。
ましてこんな甘えたように寝言で呼ばれてしまえば、邪念を振り払うにも苦労する。
「まいかちゃん可愛いなー。ぐっすりじゃん」
「帰れケダモノ」
家が近いことから車に乗せて一緒に帰って来た祐介を睨んで一蹴すると、俺はブランケットを取り出して無防備に放り投げだされた白い足を隠すように彼女に被せた。
「もう合コン紛いのことに俺を誘うなよ」
「えー。だって璃央が来るって言ったら皆食いつき良いんだよー」
「俺を餌にするな。ったく……知ってたら行かなかったのに」
そもそもは遊園地のチケットの割引券をたくさんもらって複数で行くから、俺も誰か誘って来いという話だったのだ。
そして行ってみれば、いつも俺にべたべたと付きまとってくる会社の女性陣が集まっていたのだから、嫌でもその目的に気づく。
「でも、付き合ってないんだろ? まいかちゃんと」
「ないよ」
「マジでどういう関係? JKとなんて」
「お前には関係ない」
彼女がパパ活(パパを推す活動)してるだなんて、言えるはずはない。
まいかちゃんと出会って半年。
夕飯はうちで食べて帰ることが今では当たり前になってきた。
最初は夕飯までうちにいて親御さんは大丈夫なのかと心配したものだが、お金だけ渡されて夕飯は一人で食べることが多いという彼女に、最近では2人分の食事を作るのが当たり前だと思うようになってきている。
まんまと彼女のペースに乗せられているようで我ながら呆れてしまうほどだが、それでも彼女と過ごす日々が、現実世界に興味の薄かった俺の中で大きな楽しみになっているのは確かだろう。
「なぁ璃央さ。お前、こんな可愛い子が毎日来て、本当に何もないのか?」
「あるわけないだろ。相手は高校生だ」
そう、今は何も、あってはいけない。
何かあっては、彼女のこれからに影響が出てしまう。
「ちゃんと待つつもりだよ」
待って、何のしがらみもなくなったら、ちゃんと筋を通すつもりだ。
そもそも、まいかちゃんは俺のことをどう思っているのかもわかっていないんだ。
嫌われているわけではないと思うけれど、確かではない。
どうせ毎日うちに来るんだ。
少しずつ、距離を縮めていければ……。
この時の俺は、愚かにもこれからもそんな日々が続くのだと信じていた。
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