第4話 パパ活、遊園地デートします
『職場で誘われて、俺も誰か連れて来いって言われたんだけど、一緒に行かない? 遊園地』
璃央さんに誘われたのが、三日前。
そして今、私は璃央さんに連れられて、遊園地に来ている。のだが──。
「高橋さんの私服姿カッコいいですねっ」
「高橋さんと遊園地なんて嬉しいですぅ」
「高橋さん、あれ乗りましょ!!」
「……」
璃央さんを取り囲むのは、璃央さんの会社の女性陣。
私はぽつんとその後ろでその様子を、璃央さんの同僚男性のお二人と眺める。
「璃央連れてきたのは失敗だったか……」
「全部持っていかれたな……」
しんみりしている男性陣。
特に主催らしい祐介さんはものすごくじめじめしている。
きっと璃央さんに誰か連れてこいと言ったのも、璃央さんには自分の連れと遊園地を楽しんでもらって、自分たちは璃央さんで釣った女性陣と楽しもうっていう魂胆だったのだろう。
お姉さま方が委縮するような美女だったらよかったのだろうけれど、璃央さんが連れてきたのはこんな高校生。
抑止力になんてなりやしない。
「璃央さん、モテるんですね」
「あいつは昔からモテるのよ。でも俺、小学校からずっと一緒だけどさ、あいつ、モテても女に興味がないというか、家に籠って漫画やアニメに没頭してるほうが好きな奴だから、浮いた話の一つも聞いたことないんだよな」
「根っからの陰キャ!?」
だけど、そうか。
やっぱりモテるんだよね。
璃央さんはカッコいい。
大人で、かっこよくて、優しくて……、こんな高校生のお子様なんかより、あぁいう美女の方が隣を歩くにふさわしいのかもしれない。
「……絵になりますよね、美男美女って」
「まいかちゃん……」
ぽつりとつぶやいた言葉に、祐介さんが眉を顰めた。
そして──。
「わぁぁっ、まいかちゃん大丈夫か!!」
大きく声を上げた。
「!! まいかちゃん!? どうした!?」
すぐにそれに気づいて、少し前を歩いていた璃央さんが駆け寄る。
「璃央!! まいかちゃん、人酔いしたみたいなんだ。介抱──」
「俺がする!!」
そう言って私の肩を強く抱いた璃央さんに、私は思わず身体を固くさせた。
「大丈夫? まいかちゃん。ごめんな、ほったらかしになって……。祐介、彼女のことは俺が見てるから、皆と行ってきてくれ」
「おっけ。んじゃ、合流するとき連絡して」
そう言って祐介さんは、私に一度だけウインクしてから、ぶーぶーと不満を口にする女性陣を連れて行ってしまった。
……気を遣わせてしまった。
「大丈夫だよ」
そう言って私の手を握ってくれる璃央さんに、私はその手をぎゅっと握り返した。
こういうことが自然にできる璃央さんは、やっぱり経験豊富な大人なんだなと感じて、嬉しい反面少しばかり遠く感じる。
「ごめんな。誘っといて、なかなか抜け出せなくて」
「ううん。璃央さん、ちらちら振り返って気にしててくれたでしょ? だから大丈夫だよ。それよりも祐介さんに気を遣わせちゃって……」
「あいつなら大丈夫だよ。これであいつにとっての予定通りになるんだから」
やっぱり璃央さんも気づいていたのか。
「それよりさ、もしまいかちゃんが大丈夫なら、俺と二人で回らない? あっちでアニメコラボのアトラクションやってるみたいなんだ」
少しだけ子供っぽく笑った璃央さんに、私は硬くしていた表情をやわらげて、「行く!!」と彼の腕に飛びついたのだった。
あぁもう、本当、ちょろい。
***
「ん……」
何だか話し声が聞こえる。
ふかふかとしたその感触と誰かの話し声に、私の意識がうっすらと浮上する。
あのあと璃央さんと楽しみすぎて、車の中で疲れて寝てしまったみたいだ。
きっとここは、璃央さんの家のソファの上。
「なぁ璃央。お前、こんな可愛い子が毎日来て、本当に何もないのか?」
「あるわけないだろ。相手は高校生だ」
「っ……」
璃央さんの言葉が胸に刺さり、息が詰まる。
あぁ、そうだ。
私は、ただの迷惑な押しかけ女子高生だ。
少しばかり優しくしてもらっているからって、何を勘違いしているんだろう。
私と璃央さんは、家族でも、パパでも、友人でも、ましてや恋人でもない。
ただの、赤の他人だ。
そこで目を開けるのも憚られた私は、それからしばらくの間、頭の中で読経しながら璃央さん達の会話をシャットアウトし続けたのだった。
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