祠を壊す爺さん

林きつね

祠を壊す爺さん

 高校の頃、地元に変な人がいたんです。有名? だったんでしょうか。少なくとも俺とその友達何人かの間では話題になりました。

 でももしかしたら、俺だからあの人を見ることになったのかもしれませんけど。


 ああ、えっとその人っていうのがまあだいたい60歳ぐらいのおじいさんで、顔のほっぺたの所にでっかいシミがあって腰が曲がってて、なんかそういう印象の人でした。

 で、杖をつきながら歩いてるんですけど、急にその杖を振り下ろし始めるんですよ。

 何もないところにめちゃくちゃその杖を振り下ろすんです。で、大きな声で。


「この祠は壊れとらんじゃないか! この祠は壊れとらんじゃないか!」


 って叫びながら。

 そしてしばらくするとまた普通に歩き始めるんです。祠が壊れたんでしょうかね。

 でまあ、俺その爺さんに一回話しかけられたことがありまして。会話はしてませんよ? もちろん。そもそも会話なんて出来ないでしょうから。

 俺が普通に一人で歩いて帰ってたら急に「おい!」って言われて、振り返るとその爺さんがいたんです。

 もう怖くって。でも俺も高校生ですからね、そんな近所のやばいジジイに舐められたくもなかったので「なんだよ爺さん」って、普段はそんな喋り方じゃないのにちょっとオラついた感じで言ったんですよ。

 そしたらその爺さん、杖の先端を俺の方に向けて叫ぶんです。


「後ろ! お前の後ろのその祠! まだ壊してないんだろう! 壊さんといかんじゃあないか!」


 って叫んだかと思ったら、そのまま杖を振り上げて襲いかかってきたんですよ。

 で、まあ俺は逃げました。うわあああ!!って叫びながら。さっきちょっとオラついたのなんだったんだって具合に。

 後ろは振り返りませんでしたけど、その爺さんの声はずっと聞こえてましたから、多分壊してたんじゃないですかね、祠を。

 もう家に帰って一人でブルブル震えてましたよ。親とか警察にも相談しなかったのは、なんて言うんですかね、一応のプライドだったのかもしれません。


 で、次の日クラスで友達にはその話をしたんですよ。そしたらみんな面白がっちゃって、「あの爺さんに復讐しよう!」みたいなノリになったんですよ。

 でもまあなんというか、二軍の集まりとかそういう連中だったので、俺らがその爺さんにやったことはただ後をつけるだけだったんです。

 放課後みんなで手分けしてその爺さんを探して、一人が見つけた!って言ったのでそのまま5人ぐらいでゾロゾロと爺さんが歩いてる後ろをついていったんです。電柱とかに隠れながら。

 それでまあ、30分ぐらい爺さんを尾行して確か3回ぐらいですかね。そうやって爺さんが祠を壊そうとしてたのは。

 しばらく歩いて、見えない祠を見つけてそれに杖を振り下ろす。ただそれだけだったので飽きたのか、二人は帰っちゃったんです。

 で、俺ともう2人とでしばらく尾行を続けてたら、なんか山の中に入っていったんですよ。

 近所の山です。小学生の時とかによく遊んでた。

 それでね、爺さん、山の中をしばらく歩いて、祠の前にたどり着いたんです。


「なんだあれ?」


 って友達二人は言ってました。なんせその祠、ボロボロでしたから。でも俺だけはそれが祠だとわかったんですよ。

 そんで爺さん、祠の前にいくとそのまま崩れ落ちてわんわん泣き出したんです。せっかくの本物の祠なのに、壊そうともせずそれに縋るように崩れ落ちて、そのまま泣き始めたんです。

 さすがに怖くなっちゃって、俺たちはそのままゆっくり山から出て家に帰りました。

 まあこういう話なんですけど……。


 ……ここからはまあ事実というよりかはだいぶ俺の推測も混じっちゃうんですけど、あの爺さんが泣き崩れてた祠、俺知ってるんです。

 知ってるというか、まあ、その祠俺が小学校の時はすごく綺麗だったんですよ。で、まあ小学生って馬鹿じゃないですか。

 遊びの一貫で、その祠、壊したんです。石をぶつけてみたり、その辺に落ちてた太い木の枝で殴りつけたり、蹴ってみたり。

 まあ、ボロボロに壊しました。まあそれだけの思い出で、その爺さんを尾行した日までそのことを忘れてるぐらいだったんですけど、思ったんですよ。

 あの祠、本当に壊しちゃだめなものだったんじゃないかなって。 いや、もちろんどんな祠も壊しちゃダメなんですけど。そういうのじゃなくて、壊したらなにかしらの説明できないような報復があるような。

 小学校の時の俺ね、お守りを持ってたんですよ。

 一緒に住んでたばあちゃんが信心深い人で。俺いつもお守りを持たされてたんです。

 これはとっても強いものだから、お前を守ってくれるから、肌身離さず持っておくんだよって。

 その祠を壊してる時も持ってましたよ。

 だからまあ、さっきも言ったように俺の推測でしかないんですけど、あの爺さん、八つ当たりされてるんじゃないですかね?

 あの祠の中にいた、そういうやばいなにかに。

 祠を壊した張本人である俺が、なんかそういう強い力で守られていたから、たまたまあの爺さんが取り憑かれてるんじゃないかなって……。そう思うんです。

 ……どうです? 面白い話だったでしょ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

祠を壊す爺さん 林きつね @kitanaimtona

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ