第6話

 ……


「え、っと」


 俺はまず何と答えればいいのかがわからなかった。

 言われてみればその通りとワンテンポ遅れてそう思ったし、そもそも俺が、彼女に指摘されて初めて気づくような事実をなぜ彼女は知っているのかという事に対して疑問に思う。

 いや、それ以前に「そもそも」として俺は彼女からそういった「謎」の答えを教えてもらえるのかもという期待をしていたはずだ。

 四人の変化、あるいはあの輪廻を抜け出したことによって生まれた変化。

 そしてその変化とは、どうやら俺自身にも意識的にも無意識的にも訪れているようだった。


「ラーメン? いや、でも。俺はこのラーメンも好き、だぞ?」

「侑くんの考えている事――ううん、どうしてそうなったのかを当ててあげるね? 多分だけど、好きなものを食べることとかに頭を使ってこなかったから、じゃない?」

「……どう、だろうな」


 一応この時点で彼女が、あるいは彼女達があの輪廻に対して意識的であることは確定していると思っても間違いないだろう。

 しかし、そのような振る舞いは今までしてこなかったはずだ。

 ……いや、そもそも俺は何度か彼女達に「それ」をしてきているのだ。

 つまるところ、その輪廻の知識を彼女達に教えることによって輪廻から抜け出そうという作戦。

 しかしながらそれらは途中まで上手くいくように見えても結局は最期で失敗することになっていたし、だからあまり意味がないんだろうなとも思っていたのだ。


「なあ、まこと? 実際のところ――というか、単刀直入に聞くけど、さ」

「その前に」


 と、彼女はいつの間にか店員から貰っていた器に自身のラーメン特盛のいくらかを移し終えていて、そしてそれを俺の前に持ってきていた。


「はい、それ。ラーメンは温かいうちに食べるのが花だよ。正確に言うと、伸びないうちに食べるのが一番と言うべき、かな?」

「いやまあ、それはそうなんだろうけど」

「だから、侑くん。まずはあなたの大好きなラーメンを食べてさ、それでいろいろと昔のことについて思い出すことから始めようよ」

「……」


 忘れていた。

 というか、忘れていたつもりはなかった。

 過去の事を、それでも確かにその通りなのかもしれない。

 事実として俺がこれまでの輪廻でその過去の記憶が重要になったことはなかった。

 いや、その輪廻から抜け出そうにも抜け出せなかった俺がそれを言うのは滑稽なのかもしれないけれども、だけど最低限輪廻を回すだけの知識は限られていた。

 そして、いつの間にか俺は「不要」な記憶を忘れていた、のかもしれない。

 それこそ、例えば自分が好きなラーメンの事とか。

 そんなの、考える必要性もなかったからだ。


 だから。


「うん、そうだな。とりあえず、まずはこれを食べよっか」

「だよ。侑くんはいっぱい頑張ったんだから、それに見合うだけのご褒美をもらわなくてはならないんだよ」

「……」

「語りたいことは多いけど、まずは、ね?」


 いただきます。


 俺達は手を合わせ、それから静かにラーメンをすすり始めた。


 

 なるほど、そのラーメンは確かに俺の好物の味がした。

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タイムリープが終わったけど、全周回分の好感度がヒロインにインプットされました カラスバ @nodoguro

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