第3話 いんすた談義~三隅藍の場合~
自習で教師の目がないのをいいことに、教室の友人たちはだらけきっていた。根が真面目で融通がきかない藍と違い、凪沙も容子もスマホをいじることに忙しい。
「……やっぱいいわあ。常連のAさん」
ほうとため息交じりに呟いたのは、クラス委員でもある容子だった。
「ど、どうしたの容子さん」
「目つきがかなりやばいぞ」
「だって見てよこれ、えぐいぐらいかっこよくありませんこと?」
スマホを印籠のように差し出してきた。どうやらインスタグラムを見ていたようだ。
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どうも、『ブルーム』の店長小林です。
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アカウントは神戸の美容室だし、投稿内容はバリバリお店の宣伝である。
「……えーっと、つまりこのカットモデルの人がかっこいいってこと?」
「そう。お客らしいんだけど、常連Aさんタグで検索すると、かなり良いご面相なのがわかるのよ」
「……委員長。キミの面食いは知ってたつもりだけど、ついに素人まで手を出すようになたか……」
凪沙が呆れて言うのもわかる。彼女のスマホには日本のアイドルにとどまらず、アジアやアメリカ、ヨーロッパのありとあらゆるイケメンがフォローされているとは聞いていたが、まさか完全な一般人まで守備範囲とは思わなかった。
「別に意識してやってるわけじゃないよ。たまたま目に入ったからフォローしただけで」
「まあでも、確かにかっこいいわ。今は違っても、元モデルとかかもね。絶対素人じゃないよ」
「かなあ? 意外とこういう野生のプロが、市井に埋もれてたりするんだよ」
凪沙と容子が、『常連Aさん』を肴に盛り上がっている。でも、正直藍にはピンとこなかった。
そう。藍の好みで言うなら、もうちょっと優しそうな人がいい。たとえば鴨井心晴のような──。
「……みすみん?」
「な、なんでもない」
藍は赤くなった顔をごまかすため、自分のインスタグラムを開いた。
『Cafe BOW』のアカウントが更新してあった。先日心晴や汰久と一緒に行った写真も掲載されていた。フンフンもカイザーも、可愛く写っている。
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marimo_nico 可愛いワンチャンですね!
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おや。見知らぬ方から、お褒めのコメントがついていた。
真っ赤なトマトのアイコンに惹かれてプロフィールを見に行ったら、神戸在住の『まりも』さんという方らしい。時々おいしそうなプランター野菜の写真が投稿されていた。
今はお腹に赤ちゃんがいて、つわりが大変らしい。
こちらも常連Aさんと同じ神戸か。
なんとなくご縁を感じた藍は、西の方角に向かってぺこりと頭を下げたのだった。
おいしいベランダ。文庫未掲載SS集 竹岡葉月 @tapiokaazuki
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