第3話 いんすた談義~三隅藍の場合~

 自習で教師の目がないのをいいことに、教室の友人たちはだらけきっていた。根が真面目で融通がきかない藍と違い、凪沙も容子もスマホをいじることに忙しい。


「……やっぱいいわあ。常連のAさん」


 ほうとため息交じりに呟いたのは、クラス委員でもある容子だった。


「ど、どうしたの容子さん」

「目つきがかなりやばいぞ」

「だって見てよこれ、えぐいぐらいかっこよくありませんこと?」


 スマホを印籠のように差し出してきた。どうやらインスタグラムを見ていたようだ。


  ***


 どうも、『ブルーム』の店長小林です。

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***


 アカウントは神戸の美容室だし、投稿内容はバリバリお店の宣伝である。


「……えーっと、つまりこのカットモデルの人がかっこいいってこと?」

「そう。お客らしいんだけど、常連Aさんタグで検索すると、かなり良いご面相なのがわかるのよ」

「……委員長。キミの面食いは知ってたつもりだけど、ついに素人まで手を出すようになたか……」


 凪沙が呆れて言うのもわかる。彼女のスマホには日本のアイドルにとどまらず、アジアやアメリカ、ヨーロッパのありとあらゆるイケメンがフォローされているとは聞いていたが、まさか完全な一般人まで守備範囲とは思わなかった。


「別に意識してやってるわけじゃないよ。たまたま目に入ったからフォローしただけで」

「まあでも、確かにかっこいいわ。今は違っても、元モデルとかかもね。絶対素人じゃないよ」

「かなあ? 意外とこういう野生のプロが、市井に埋もれてたりするんだよ」


 凪沙と容子が、『常連Aさん』を肴に盛り上がっている。でも、正直藍にはピンとこなかった。

 そう。藍の好みで言うなら、もうちょっと優しそうな人がいい。たとえば鴨井心晴のような──。


「……みすみん?」

「な、なんでもない」


 藍は赤くなった顔をごまかすため、自分のインスタグラムを開いた。

『Cafe BOW』のアカウントが更新してあった。先日心晴や汰久と一緒に行った写真も掲載されていた。フンフンもカイザーも、可愛く写っている。


  ***


 marimo_nico 可愛いワンチャンですね! 


***


 おや。見知らぬ方から、お褒めのコメントがついていた。

 真っ赤なトマトのアイコンに惹かれてプロフィールを見に行ったら、神戸在住の『まりも』さんという方らしい。時々おいしそうなプランター野菜の写真が投稿されていた。

 今はお腹に赤ちゃんがいて、つわりが大変らしい。

 こちらも常連Aさんと同じ神戸か。

 なんとなくご縁を感じた藍は、西の方角に向かってぺこりと頭を下げたのだった。

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おいしいベランダ。文庫未掲載SS集 竹岡葉月 @tapiokaazuki

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