第63話
「我々は歴史研究会だ。重要なのは、戦略だと思わないか?」
「はあ、そうですかね。」
スタートのゲートをくぐったところで高須部長がそう言い出した。
しかし、考えてみれば多勢に無勢であるから、なんとかゴールにたどり着くためには、高い身体性か、もしくは頭脳戦で勝利する以外にはなさそうだった。
しかし、戦略性をどこで発揮するんだ……?
「周辺の地形を見極めろ、戦略の基本だぞ。」
「そうですね。障害物ばかりに見えますが。」
「障害物があるからこそ、輝く場所もあるのだ、みろ、あの上を。」
「ああ、見張り台、ですか?」
高須部長が指差す先には、確かに上から俯瞰できるであろう見張り台が据え付けられていた。
そうか、身体のゲームから戦略のゲームへ引きずり込むということか。
「私があそこで君に指示を出す。君はイヤホンで指示を聞いて敵を叩く。」
「叩くって。」
「歴史研究会の底力を見せてやろうじゃないか。」
スマホにイヤホンを接続し、高須部長との会話ができることを確認した。
「よし、私には装備は不要だ。君に預ける。」
「でも、部長。」
「いずれにしても、私が襲撃されれば防衛は不可能だ。そういう事態にならない努力をするまでだ。」
高須部長、ここに来てめちゃくちゃ格好いい……。
「わかりました。勝利の栄光を、部長に。」
「みんなの命を、私にくれ。」
そして、部長が見張り台にのぼり、ぼくは身をかがめて移動を始めた。
障害物のせいで、視界は悪い。
闇雲に動き回れば、出会い頭の勝負になっているだろう。
「君から見て右手のドラム缶に敵兵。周囲に敵影なし。そうだな、その裏に回ろう。左の障害物ごしに移動してくれ。」
「コピー。」
ぼくは指示どおりに障害物を盾にして移動する。相手の視線が読めないので緊張する。
「気取られてませんか。」
「大丈夫だ、相手は移動していない。狙撃できるか?」
「命中率に不安がありますね。」
「そうすれば、前進しかないな。そのまま、ドラム缶の後ろにある段ボールの山まで移動しろ。」
「コピー。」
忍び足で段ボールの後ろまで移動した。相手が……見える。
「そこからは強襲しかないな。」
「コピー。」
コルク銃に弾丸を装填する。
相手の動きを見極める。移動するなよ。
「ジェロニモーー!」
ぼくは飛び出した。相手はおどろいて武器を取り落とす。
チャンスだ!
コルク弾は、相手にヒット。
「やったぞ!戦果だな!後輩くん。」
「やりましたね。」
「喜んでる場合か!場所を知られる前に移動するんだ。」
「コマンダー、厳しすぎませんかね。」
ぼくは移動しながら、部長に苦言を呈する。部長はニヤリと笑っているようだ。ここからでも見える。
「当たり前だ。敵は残り2。遊んでたら死ぬぞ。」
「死にはしませんけどね……。」
「いいから、移動しろ。4時方向。敵は12時だ。あと、離れてるが9時。」
「はいはい。」
ぼくは再び遮蔽を利用して移動する。相手の位置はぼくからは分からない。
「む、12時の敵が接近。」
「場所を
「やってみろ……と言いたいところだが、私には手持ち武器が無い。地形を利用するか。」
「そうなりますね。」
ぼくは辺りを見回す。バケツが置いてあるのが見えた。
「あのバケツ、使えませんか。」
「紐があればな、もしくは銃弾を使うか。」
「それは、まあ、できるだけやってみます。」
ぼくは銃に弾丸を装填した。バケツを狙って。撃つ。
コン!ガランガラン!!
小気味いい音がして、バケツが地面に落ちた。これに食いついてくれれば。
敵は、バケツの落ちたほうへ移動している。
これで、後ろから……!
バシ!
コルク弾が命中した。
「ヒット!」
撃たれた敵は手をあげると、フィールドから出ていった。
よしよし。
と思って見ると、どうも移動してきていた敵がすでに目の前に迫っている!!
「今撃ったばっかだから、すぐに撃てないだろ!!くらいな!!」
なんか、すごい勢いで迫ってくる!
相手もコルク銃だから、距離を詰めないといけないのか。
このままだと……!!
バシッ!!
コルク弾が音を立てて、命中した。
相手が呆然として見ている。
「銃が1丁だと思ったのが敗因ですね。」
「な、なあ、二丁持ち!ズルいぞ!」
「戦略ですよ!やりましたよ!敵兵を撃滅!」
「やったな!!後輩くん!!!大手を振ってゴールしてやろう!!」
敵をすべて排除したぼくと高須部長は、大喜びで手をつないでゴールをくぐった。
達成感が高揚を生み出す。
高須部長の戦略への転換。これがなかったら、ぼくたちは勝利できなかっただろう。
「ご、ゴール!すごいなお嬢ちゃんたち。今日初めてのクリアだぜ。」
「こんなんクリアできるわけねえだろ!」
「できねえから商売になるんだよ!しかし、クリアしたら仕方ねえ、持っていきな、景品だ。」
そして、おじさんから差し出された景品は、
キャラメルだった。
「こういうところも射的準拠なのかよ!!」
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