第62話

「後輩くん!ま、待ったか?」


 藍地に朝顔が染め抜かれた浴衣を着た高須部長が待ち合わせ場所である校門へやってきた。


「いいえ、ぼくも今来たところです。」

「そ、そうか、良かった。どうかな。浴衣なんて、普段は絶対に着ないんだが。」

「とっても綺麗で、似合ってますよ。」


 実際、高須部長は美しくていらっしゃるので、何を着たとしても似合うだろうと思うが、

 日本のものである浴衣と高須部長の黒髪というのはなんとも匂い立つものがあって、ぼくの心は千々に乱れる。


「よし、じゃあ行こうじゃないか。夏祭りというのも、歴史の一環だぞ、後輩くん。」

「そうですね、そんなに急がなくてもお祭りは逃げませんよ。」


 早くはやくと急くように、ぼくの手を引っ張る高須部長とぼくは、神社の方へ歩き出した。


 ------


「まずは神様をお参りするんだぞ、後輩くん!」

「そうですね、お祭りの基本ですね。」


 なんか、めちゃくちゃ元気な高須部長と神社のお参りをしている。

 手水舎で手を清め、本殿の前へと突き進むぼくと高須部長。


「二礼二拍手一礼ですよ、部長。」

「なるほどな、そう書いてあるが、このガラガラはいつ鳴らすんだ。」

「え、なんか、全然鳴らすタイミング無いですね。」

「もう、鳴らしちゃおう、ガラガラ。」

「あ、二礼もしてないのに!」

「いいんだ、神だのみなんかしてる場合じゃない。人が切り拓いて行かなければならないのだよ、未来は。」

「神社の存在意義全否定しないでください。」

「べつにしてないが?」

「そうでしょうか……。」

「神社が無いとお祭りがなくなるからな。」

「お祭り第一主義……。」


 その後、まあ良いじゃないかと言って、何枚かのコインを賽銭箱に投げ入れている高須部長。

 ぼくも、何枚か入れておいた。


「よし、儀式も済んだことだし、行こうじゃないか。」

「儀式って。」

「いいから!早くしないと!」


 大騒ぎだ。

 楽しそうな様子の高須部長にぼくもなんとなく笑顔になってしまう。


「じゃあ、行きましょう。」


 おまつりの本体といえる、屋台たちの方へ向かって歩き始める。


 ------


「これは……射的のはずだよな。」


 ぼくたちの前にあるのは、どう考えたとしてもバトルフィールドにしか見えない障害物と、砦的な構築物。

 よし、最大限、譲歩したとしても、これは射的などではない。


「高須部長、射的は、景品にコルクの弾丸を当てたりするものであって、すばやく動いている敵兵を狙うものではありません。」

「そうだよな。」

「よう、お嬢ちゃんたち、やるのかい、『アルティメット射的・マジノライン』を!」

「「アルティメット射的・マジノライン!?」」


 ど、どういうことだ。一介の街にあらわれていい代物じゃないぞ……。


「この、ド級の要塞を舞台に、敵軍を撃滅してくれ!」

「て、敵軍を撃滅!?」

「どういうものなんだ、この、アルティメット射的っていうのは。」

「お嬢ちゃん、それを今から説明しようってのよ。」


 ゴクリ……。

 緊張感がぼくと高須部長に走る。とんでもねえものに出会ってしまったぜ、今年の夏祭りはよ。


「お嬢ちゃんたちには、このスタートから入って、マジノラインのゴールを目指してもらうことになる。」

「まさかの移動必須競技。」


 射的って、最悪、左右に少し動くくらいだろ。スタートから入ってゴールまで進ませることありうる……?


「途中、要塞を防衛しているヤツらと出くわすことがあるが……。」

「射的で、要塞を防衛してるってことありうる……?」

「アルティメット射的だからな。」

「それ言えば良いってわけじゃありませんからね。」

「敵兵には、鉛玉を食らわせてやりな。」


 そう言って店主は、皿に載った弾丸をこちらにぐいと見せてきた。

 鉛玉なんかじゃない、どう見てもコルク弾だ。


「これはコルク弾なんかい!」

「当たり前だろ?射的なんだから。」

「そこだけ開き直られても。」

「とにかく相手に撃たれないようにしながらゴールへ進んでくれ。」

「シンプルなルールだな。」

「やっていくかい?」


 ここまで聞いておいてなんだが、人手はかかっているし、なんか大変なことになりそうだな……。


「1回500円だよ。」

「異様に安い!?」

「やろう、後輩くん!!」

「なんか、部長もめっちゃ乗り気だ!?」

「よし、じゃあ、これを持って。」


 なんかものすごい見覚えのあるコルク銃を持たされて、ぼくと高須部長はスタートに押し込められてしまった。


「……なんですかね、これ。」

「ものすごい面白そうじゃないか。マジノ線だぞ、後輩くん!大要塞じゃないか。」

「そ、そうですかね。」

「歴史研究会の実力を見せてやろうじゃないか!」


 歴史研究会関係あるかあ?だって、普段、地学準備室に閉じこもってシミュレーション・ゲームやってるから、身体を動かすのとは全く縁遠い気がするですけど。

 そうは言っても、とにかくやってやらにゃなるめえな。

 横で張り切ってる高須部長のためにも、無様な真似を晒すわけにも行かなくなった。


「じゃあ……とりあえず頑張るだけ頑張ってみましょうか。」

「そうこなくちゃな!歴史研究会!ファイ・オー!」

「オー!」


 そんな掛け声、今までなかったでしょ。




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