超絶美少女のお嬢様がモテるためにヤンデレを目指しはじめましたが、止めるのが大変です。
妄想 殿下
少年は荒野を目指す、お嬢様はヤンデレを目指す
けだるげな雰囲気を演出しつつある昼下がり、お弁当を食べ終えたその少女はすこし眠たげな目をしている。
しかし、口を開けば、はっきりと通る声でこうのたまったのだった。
「わたくし、もうバンバンと異性にモテるために、ヤンデレになろうと思っておるのじゃ。」
「はあ、ヤンデレですか……すみませんが、おひいさま。おひいさまは、ヤンデレというものが何なのか、ご存知なのですか?」
「何を申しておる、わたくし自身が言い出したのだ、知らないわけがなかろう。あの、病気がちなやつじゃろ。」
すべてを知っていそうな口調で、何につけても断定で話す少女の珍しく明後日の方向へ飛んでいったその知識をどうしたものかと悩んだ。
おひいさまは、どうだ?合っているだろうという顔でそわそわとワタシの顔を見ている。
「それは、病弱少女というヤツですね。2000年代初頭に流行したエロゲヒロインの属性です。」
「ん?いずれにしても病んでいるではないか、間違いではなかろ?」
「全然違いますよ。病み方が違うんです。ヤンデレというのは本当に健康を害しているわけじゃないんです。」
「しかし、ヤンデレは重いと言うではないか。それほど重いなら、まあやはり医者にかかるのがいいだろうが。」
「いや、だから、病気の重さじゃないんですよ。ヤンデレが重いのは、想いの方!病状じゃありません。」
「なんだ、想いだの重いだの……。なんだ、言葉遊びか、なるほど、そういうユーモアというのが大切ということだな。ヤンデレには。」
「いえ、なんでここまで言って通じてないのか、ワタシは本当に驚いていますよ。そもそも、健康が服着て歩いているおひいさまのような方が病気も何もするはずが無いでしょう。」
「なに、詐病じゃ。」
「言い切った!ウソっこだって言い切った!それでモテようってどういう腹なんですか!無理ですよ。」
「そなたは知らんかもしれんがな、これでも詐病は得意での、よく屋敷の大人たちを騙しておったのじゃ。」
「いや、知ってますよ。おひいさまが仮病を使うたびに何が起こっていたかお知らせしましょうか?『おひいさまが来てほしいみたいでね、また仮病なの。お土産も持たせてあげるから、来てくれる?』ってワタシが呼ばれていたんですよ?」
「なんと、そなたがわたくしの愛するかもめの玉子を携えて屋敷に来ていたのは、見抜かれておったからなのか。」
「毎度、アンテナショップにかもめの玉子を調達に行っていた運転手の佐藤さんの苦労も考えてあげてくださいよ。」
「何を言う、かもめの玉子くらい、今どきどこでも……すまん、アレはどこでも買えないか。」
「ともかく、バレバレの仮病でヤンデレも何もあったもんじゃないということですよ。第一、ヤンデレは身体的な病気ではないってなんで通じてないんですか。」
「では、何が病んでおるのじゃ。」
「え、あえて言えば、心ですかね。」
「心が病むようなことではモテている場合じゃないんじゃないのか。」
「なんでそこに気づくのが遅いのかがワタシは気になる。」
「しかし、モテるのだろ?」
「創作の中の話しだとワタシは思いますけどねえ。第一、モテてるのはヤンデレに囲まれた主人公の方であって、決してヤンデレと化したヒロインがモテてるという感じではないと思いましたが。」
「なんと、ヤンデレがモテるのは間違いであったか。」
「最初からそう申し上げていたつもりですが。」
「して、なぜヤンデレに囲まれた主人公なるものはモテるのじゃ?そちらの謎を解き明かすことで、わたくしもモテ道を爆進することが可能なのではないか?」
「いや、別にそれは、色々と理由があるかと思いますがねえ。」
難しいものなのだなと、おひいさまは腕を組んで考え込んでしまわれた。
私は、食後のお茶をいただく。夏も過ぎ、秋が深まってきた今となっては、この庭園スペースも昼食向きではないかもしれないな。
「その、ヤンデレな、そなたはどうだ?好きか?」
「いえ、別に……ヤンデレだから好きってことはワタシにかぎっては無いですけどね。」
「も、もう!いい加減にしてよ!いっくんってどういう女の子が好きなの!?頑張ってそういう子になるからあ!」
「おひいさま……。雛奈ちゃん、なんか勘違いしてるみたいだけど、ワタシは雛奈ちゃんが好きだからずっと一緒にいるんだからね?そのままの雛奈ちゃんでいいから。」
「じゃあ、またかもめの玉子持ってきてくれる?」
ホワイトチョコに包まれた甘く広がる恋の味が、おひいさまの心を掴んでやまないようだった。
「かもめの玉子食べたいだけじゃないの。」
超絶美少女のお嬢様がモテるためにヤンデレを目指しはじめましたが、止めるのが大変です。 妄想 殿下 @zepherfalcon
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