第61話

「おかえりなさい。」


 コテージに戻ると、園山さんがぼくたちのことを待っていた。


「ただいま!」


 吉田さんが元気に返事をすると、「じゃあ、私はこれで。」と言って部屋に戻っていった。

 そう、ぼくたちはまたもフッた側とフラレた側、二人揃って歩いて戻ってきたのだ。

 そういうもんなんだ、とぼくは思うことにした。だって、仲が悪くなったわけじゃないんだから。


「少し、歩きますか?」

「そうしよっか。」


 ぼくたちはゆっくりと道を歩く。


「その……。」


 その一言を言った園山さんが、言い淀む。

 珍しいな、とぼくは思った。なんでもぼくには言ってくれる園山さんが、ぼくにも渋ることがあるなんて。

 ぼくはその後を引き受けるつもりで口を開く。


「今回は、ちゃんとついてこないで待っていられたじゃない。」

「もう。」


 園山さんが不満そうな顔をして、頬を膨らませている。

 いつも綺麗な園山さんだけど、可愛い、と思った。


「美優は、お友達ですから。」

「そう。」

「大切な、それこそ、今までいなかった友達。ううん、友達でもあったし、それから。」


 とそこまで言って止まる。

 園山さんをみると、かぶりを振っていた。


「あとは、秘密。」

「気になるな……。」


 深入りしてはいけない領域というものもあるんだろう。

 なんとなく、不思議な気持ちをいだきながら二人で夜道を歩いた。

 星が出ている。

 というか、星くらいしかもはや見るものがない。


「明日で、もう終わりですね。」

「そうだね、なんか、今回はアルバイトというより、カヤック漕ぎに来たような気がしてるよ。」

「そうですね。楽しかったです。」

「もう、あんな危ないことはやめてよね……。」


 ぼくはあの暴走特急園山号を止めるのがもはや他にいないという状況に頭を痛めていた。

 そう言ったぼくの目を、園山さんの瞳がじっと見つめている。

 いつ以来か。


「……お断りします。」


 そう言うと。

 ぼくは思っていた。


 --------


「じゃあ、風香ちゃんも、美優ちゃんも、また来てね。」

「はい、美智夏さん。ありがとうございました。」

「……ありがとう。」


 美智夏さんに見送られて、僕たちは帰りの列車に乗り込んでいた。

 前回ほどではないにしろ、しっかり働いた分、それなりに稼げた、と思う。

 なんにせよ、しばらくはお金の心配をせずにすみそう。


 帰りの列車では、また来たときのような感じで話をしながら移動した。

 吉田さんの笑顔を見るたびに、ちくりと胸が痛む。


 でも、この痛みも含めて、ぼくは決断したのだ。



 決断したのだから、横からポッキーをぐいぐいと押し付けてくるのはやめなさい、園山さん。

 食べる、食べるから。あと、園山さんも食べすぎだから。晩ごはん食べられなくなっちゃうでしょ。


「列車で食べるポッキーって美味しいわよね。」

「わかります!みんなで行く旅行って初めてだったんですけど、すごく楽しくなっちゃうから、食べすぎちゃいますね。」

「でも、それで晩ごはん食べられなくなったら困るでしょ。」

「電車が揺れてるから大丈夫。」

「揺れてるとなんかあるんですか?」

「お腹が自動的に動く。」

「なにその普段、止まってるみたいな言い方。」

「それでお腹がすくんですね。」

「いや、そんなことないだろ。」

「お腹がすくということは、実質食べたことにはカウントされないのよ。」

「なるほど!食べ放題ということですね。」

「現実から目をそむけてるだけだよ!?」

「見えているわ。ほら、あの川を見て、綺麗よ。」

「ぼくの目をそらして、川を見ている隙に食べてない?」

「モゴモゴモゴ(そんなことないわよ)」

「食べてるーー!?」


 そんなことをしていたら、ぼくたちの街はもう目前だった。


「晩ごはんはいらないわ、お茶でも飲んで帰りましょ」

「だから言ったじゃん……。」



 --------


「……今回は疲れた……。」


 前回だって疲れてないわけじゃなかったけど、今回のアルバイトは湖でカヤックをやらされたり、それから吉田さんと。

 まあいいや、とにかく色々と想定外の事態が巻き起こったわけだ。

 今までと同じだと思わない方がいいぜ、と陽田は言った。その予言はほぼ成就したといっていいだろう。

 今までの夏休みなんて目じゃないくらい、いろいろなイベントが目白押しだった。

 そして、心理的な負担も、なくはない。

 でも、必要経費だろう。


 ポリン。

 メッセージの到来を告げるスマホの着信音。


[夏祭りに一緒に行かないか。]


 高須部長からのメッセージだった。

 そうか……高須部長と夏祭り……。

 いや、約束はしていなかったはずだ。

 でも、高須部長と二人で話す機会は、この夏、これが最後かもしれないな、という予感がある。


[行きます。待ち合わせはどうしましょう]

[学校の前でどうだ。そこからの方が近い。]

[じゃあ、待ってますよ。]

[ああ、それじゃあね。]


 夏休みも、もう終わりが近づいてきている。






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