eの王国 ~落ちぶれた元有名ゲーマーの俺が自称『王』のJKを誘ってしまった結果、王の導きにより弱小eスポーツ部が世界最強のチームになってしまいました~【パイロット版】

山庭A京

その王、かの者の隣に君臨する。



――〝王〟の話をしよう。



しかし、まずは王を語る俺が何者か――それを説かなければならない。


かつては銃弾飛び交う戦場を恐怖の渦に陥れた小隊『ラウンド・ミッドナイト』の援護兵役。ゲーマータグは『Kirome』、読み方はそのままでキロメだ。

日本鯖に入り浸っていた一般ゲーマーや、ガチ勢たちの掲示板に足繁く通っていた猛者たちならば、この名前を知らない者はいない――。


――いなかったのだ。しかし、新しい流行の到来、戦場の人口減少、小隊解散…………盛者必衰の響きあり。


俺も高校進学すると同時に、プロゲーマーになる夢は心の片隅に飾るようになった。



嫌なこともあったが、良いこともあった。


eスポーツブームの上陸だ。


海外では当時からゲーム大会が大々的に開催されていたものの、ついに日本でも全国区の大会が見られるようになってきた。



そんな時期のことだった。我らが〝王〟と出会ったのは――。







「逃げ切った! よし、火事場泥棒成功~~」


卑怯な手段でもって勝ち上がるのはいかがなものか……などという戯言は不要だ。

俺は成果をギルド長に報告する。


主には武具の強化アイテム、素材、スキルツリー用のポイント。



「さすがKirome。裏取うらどりはお手の物ってか」


「こんなことで過去の栄光を穢したくはないですけどね」



――裏取り。言うなれば鬼ごっこで、鬼が気付かれぬように子の後ろにまわりタッチをするような行為。背後に回ることで相手の意表を突くのだ。


俺は今、ファンタジーMMORPGの『Postポスト Primitiveプリミティブ Supremeシュプリーム』で他ギルド同士の抗争に紛れ、物資を盗んできたところだった。



「ギルド戦は来週からだからな……このタイミングでカチコミ決めたあいつらが悪い」


「sukebanさんも行ってきたらどうです?」


「いや、いい。俺は俺でクエ周回中だから」


「大変っすね」


「いやいや、Kiromeこそ大変だろ。高校のeスポーツ部、人員が足りないって。まだ見つからないのか」


「はい……自分、人望がないですから……」


「まあ確かに。カリスマ!って感じではないかも。。。」



チャットを打つ手が止まった。何か返す言葉を探したが、諦めて別れの挨拶を打ち込む。



「じゃ、自分は落ちます。乙でした」


「乙。また後で」



ノートPCを閉じれば俺はKiromeから冴木さえき千紘ちひろという男子高校生になる。

物語の舞台も、ルネサンス前夜のヨーロッパ風ファンタジーから、現代日本は某地方都市、その郊外の駅前カフェに移る。


かじかんだ指先では満足にゲームはできない。急な参戦が必要になったときはこのカフェに限る。


湯気が立ち昇るチャイティーを飲み干し、わずかに残るシナモンの香りを楽しみながらカフェを後に。そして帰路につく。



街路樹はすっかり葉を落とし、ダウンジャケットを着せてやりたくなる細さを見せる。

――別れの季節。


あのときも、こんな冬の真っ只中であった。



「はぁ……誰かいねーかな。ゲームできるやつ」


「……ハーッハッハッハ!!!!」



駅前は騒がしい。路上ライブ、宗教勧誘、そして変質者。俺のひとりごとは高笑いの中に埋もれていく。

冬の夜は気温による屈折率の差で、音が遠くまでよく聞こえるのだそうだ。迷惑な話である。



「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!! これこそルナ王国の皇帝にして国王陛下、ユニクス=桜庭さくらばである!!!! フゥアーハッハッハ!!!!!!!!」



――げえっ! うちの制服!



近くば寄って目にも見た結果、赤いマントをなびかせる変質者がうちの高校の人間だと知れた。しかも、中性的な声だったために気付かなかったが、女子である。



「む!!!! 君はボクと同じ学び舎の者か!!!!」


「やべッ――!!」



見つかったので逃げた。







「諸君、ボクこそはユニクス=桜庭だ! 国王陛下! もしくはユニクス三世と呼びたまえ!」



逃げられなかった。いや、正確には昨日は逃げ切れたのだが、こうやって巡り合うとは思っていなかった。

制服にマント。服装の違反に見て見ぬふりをする担任。クラスは嵐の稲穂のようにざわめいた。



「は~い。じゃあ桜庭さんの席は冴木くんの隣ね~」


「あ……あははは……」


「やや! 君は昨日見かけた小市民ではないか! ハッハッハ! これも運命のいたずらか!!」



――ユニクス=桜庭は俺の隣に君臨したのだった。


髪は赤みがかった外ハネのミディアム。ぱっちり二重の瞳は深蒼の虹彩。

名前からしても欧米圏のハーフのような印象だった。しかし、その顔立ちは日本人のそれで、こうやって無意識的に分析してしまう程度にはかわいらしい。


……つまり、何が言いたいのかというと、髪は染めて目にはカラコン、ユニクスという偽名の女子なのではないかということだ。さすがに偽名はアレかもしれないが。

ともかく、王などという戯言を言い放つのだから、そのすべてが虚構に見えてきた。



「君はあいも変わらず人望がなさそうな顔をしている!!」


「あははは……」



返す言葉もない。こっちはどう接すれば良いのかわからないのに、彼女は強引に俺の手を取り、距離を近づける。



「ボクにはわかる……君は何かに悩んでいる。それも案のごとくその人相のことだろう」


「え、そ、そんなわけ――」


「いや、実を話せば君のひとりごとを聞いてしまってね」


「ええ……!? あ、あの距離で? 地獄耳だ……」


「ボクのことは今はいい。遊び相手を探しているのならば、ボクが一肌脱ごう」


「な、なんで初対面の俺にそんなに構うんだよ」


「これは王たる者の責務だ」



真っ直ぐな瞳。

出会って数分の距離の詰め方ではない。このユニクス=桜庭とやらは俺の心の中に土足で踏み入り、そして俺の心を支えようとしている。


eスポーツ部の申請には最低でも4人、そして、確保している名前は自分自身ただひとり。


――何から何まで信じられない。泰然自若とした態度も、言動の一つひとつも、そしてこの出会いすらも。



「……桜庭さん。eスポーツ、やってみない?」



――そんな彼女を思わず誘ってしまう、俺自身のことも。







◆◆◆◆◆◆◆◆


※構想中の物語、その冒頭1話部分だけを公開し、パイロット版としています。もし気に入っていただけましたら、☆や感想などで教えて下さい!

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