eの王国 ~落ちぶれた元有名ゲーマーの俺が自称『王』のJKを誘ってしまった結果、王の導きにより弱小eスポーツ部が世界最強のチームになってしまいました~【パイロット版】
山庭A京
その王、かの者の隣に君臨する。
――〝王〟の話をしよう。
しかし、まずは王を語る俺が何者か――それを説かなければならない。
かつては銃弾飛び交う戦場を恐怖の渦に陥れた小隊『ラウンド・ミッドナイト』の援護兵役。ゲーマータグは『Kirome』、読み方はそのままでキロメだ。
日本鯖に入り浸っていた一般ゲーマーや、ガチ勢たちの掲示板に足繁く通っていた猛者たちならば、この名前を知らない者はいない――。
――いなかったのだ。しかし、新しい流行の到来、戦場の人口減少、小隊解散…………盛者必衰の響きあり。
俺も高校進学すると同時に、プロゲーマーになる夢は心の片隅に飾るようになった。
嫌なこともあったが、良いこともあった。
eスポーツブームの上陸だ。
海外では当時からゲーム大会が大々的に開催されていたものの、ついに日本でも全国区の大会が見られるようになってきた。
そんな時期のことだった。我らが〝王〟と出会ったのは――。
♤
「逃げ切った! よし、火事場泥棒成功~~」
卑怯な手段でもって勝ち上がるのはいかがなものか……などという戯言は不要だ。
俺は成果をギルド長に報告する。
主には武具の強化アイテム、素材、スキルツリー用のポイント。
「さすがKirome。
「こんなことで過去の栄光を穢したくはないですけどね」
――裏取り。言うなれば鬼ごっこで、鬼が気付かれぬように子の後ろにまわりタッチをするような行為。背後に回ることで相手の意表を突くのだ。
俺は今、ファンタジーMMORPGの『
「ギルド戦は来週からだからな……このタイミングでカチコミ決めたあいつらが悪い」
「sukebanさんも行ってきたらどうです?」
「いや、いい。俺は俺でクエ周回中だから」
「大変っすね」
「いやいや、Kiromeこそ大変だろ。高校のeスポーツ部、人員が足りないって。まだ見つからないのか」
「はい……自分、人望がないですから……」
「まあ確かに。カリスマ!って感じではないかも。。。」
チャットを打つ手が止まった。何か返す言葉を探したが、諦めて別れの挨拶を打ち込む。
「じゃ、自分は落ちます。乙でした」
「乙。また後で」
ノートPCを閉じれば俺はKiromeから
物語の舞台も、ルネサンス前夜のヨーロッパ風ファンタジーから、現代日本は某地方都市、その郊外の駅前カフェに移る。
かじかんだ指先では満足にゲームはできない。急な参戦が必要になったときはこのカフェに限る。
湯気が立ち昇るチャイティーを飲み干し、わずかに残るシナモンの香りを楽しみながらカフェを後に。そして帰路につく。
街路樹はすっかり葉を落とし、ダウンジャケットを着せてやりたくなる細さを見せる。
――別れの季節。
あのときも、こんな冬の真っ只中であった。
「はぁ……誰かいねーかな。ゲームできるやつ」
「……ハーッハッハッハ!!!!」
駅前は騒がしい。路上ライブ、宗教勧誘、そして変質者。俺のひとりごとは高笑いの中に埋もれていく。
冬の夜は気温による屈折率の差で、音が遠くまでよく聞こえるのだそうだ。迷惑な話である。
「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!! これこそルナ王国の皇帝にして国王陛下、ユニクス=
――げえっ! うちの制服!
近くば寄って目にも見た結果、赤いマントをなびかせる変質者がうちの高校の人間だと知れた。しかも、中性的な声だったために気付かなかったが、女子である。
「む!!!! 君はボクと同じ学び舎の者か!!!!」
「やべッ――!!」
見つかったので逃げた。
♠
「諸君、ボクこそはユニクス=桜庭だ! 国王陛下! もしくはユニクス三世と呼びたまえ!」
逃げられなかった。いや、正確には昨日は逃げ切れたのだが、こうやって巡り合うとは思っていなかった。
制服にマント。服装の違反に見て見ぬふりをする担任。クラスは嵐の稲穂のようにざわめいた。
「は~い。じゃあ桜庭さんの席は冴木くんの隣ね~」
「あ……あははは……」
「やや! 君は昨日見かけた小市民ではないか! ハッハッハ! これも運命のいたずらか!!」
――ユニクス=桜庭は俺の隣に君臨したのだった。
髪は赤みがかった外ハネのミディアム。ぱっちり二重の瞳は深蒼の虹彩。
名前からしても欧米圏のハーフのような印象だった。しかし、その顔立ちは日本人のそれで、こうやって無意識的に分析してしまう程度にはかわいらしい。
……つまり、何が言いたいのかというと、髪は染めて目にはカラコン、ユニクスという偽名の女子なのではないかということだ。さすがに偽名はアレかもしれないが。
ともかく、王などという戯言を言い放つのだから、そのすべてが虚構に見えてきた。
「君はあいも変わらず人望がなさそうな顔をしている!!」
「あははは……」
返す言葉もない。こっちはどう接すれば良いのかわからないのに、彼女は強引に俺の手を取り、距離を近づける。
「ボクにはわかる……君は何かに悩んでいる。それも案のごとくその人相のことだろう」
「え、そ、そんなわけ――」
「いや、実を話せば君のひとりごとを聞いてしまってね」
「ええ……!? あ、あの距離で? 地獄耳だ……」
「ボクのことは今はいい。遊び相手を探しているのならば、ボクが一肌脱ごう」
「な、なんで初対面の俺にそんなに構うんだよ」
「これは王たる者の責務だ」
真っ直ぐな瞳。
出会って数分の距離の詰め方ではない。このユニクス=桜庭とやらは俺の心の中に土足で踏み入り、そして俺の心を支えようとしている。
eスポーツ部の申請には最低でも4人、そして、確保している名前は自分自身ただひとり。
――何から何まで信じられない。泰然自若とした態度も、言動の一つひとつも、そしてこの出会いすらも。
「……桜庭さん。eスポーツ、やってみない?」
――そんな彼女を思わず誘ってしまう、俺自身のことも。
◆◆◆◆◆◆◆◆
※構想中の物語、その冒頭1話部分だけを公開し、パイロット版としています。もし気に入っていただけましたら、☆や感想などで教えて下さい!
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