第13話 精髄
深夜。
俺はブラスト男爵領のとある山中へと訪れていた。
「ふぅ……」
婚約。
学園への入学の決定。
それから3か月程たち、冬が過ぎて春の訪れを感じる季節へ移り替わりつつある。
来月には入学式が執り行われるので、俺はそれに合わせて首都へと向かう事になるだろう。
だがその前に、やっておく事がある。
それは―—魔王の精髄を手に入れる事だ。
首都では何が起こるかわからない。
なにせ、数か月後には内乱が確定しているのだからな。
なので、どんな状況になろうとも対応できるだけの力が必要だ。
――そのための力を得る為に、俺はこの山へとやってきていた。
魔王の精髄はブラスト男爵家の領内。
しかもそれ程屋敷からそれ離れていない場所にあった。
これは俺にとって、本当に幸運な事である。
もし場所がもっと遠い所だったなら、俺は精髄から漏れでる闇の波動を感じ取る事が出来ず、手に入れられなかった可能性が高かった。
世界征服するために動きまくっていたのなら、そのうちどこかで見つけていた?
残念ながらそうはならない。
世界征服に乗り出したのは、精髄による強化があってこそである。
もし手に入れられなかったなら、俺は今の父が望むように力を隠してひっそりと辺境で生きていく事を選択していた事だろう。
「さて、さっさと回収するか」
近い場所とは言え、往復にはそれなりに時間がかかる場所である。
当然だが、正式な許可を得て山に来ている訳ではないので――山に行くとか通る訳がない――さっさと終わらせる必要があった。
「夜が明ける前に戻らないと、俺が部屋に居ない事がばれてしまうからな」
俺はまだ雪の残る山肌に手を付き。
そして闇の魔法を使って、目の前に大きな穴をあける。
精髄は地中。
今あけた穴奥にあった。
もっと目立つ場所にあったなら、きっと他の誰かが見つけてしまっていた事だろう。
そうなれば、国によって何らかの形で処理されていた可能性は高い。
この点も、俺にとっては幸運だったと言える。
「よっと」
俺は飛行魔法を使い。
あけた穴からゆっくりと下降していく。
「よう、久しぶりだな」
そして黒いオーラを放つ、心臓の様な物の前に着地した。
これこそが魔王の残した精髄だ。
「また世話になる」
精髄に言葉が認識できているとは思えないが、なんとなくそう声をかけて俺はそれを手に取り。
そして――喰らう。
『コロセ!』
精髄を咀嚼し、飲み込む。
その瞬間、頭に声が響いた。
『コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ』
それは魔王の残した怨嗟の声だ。
ただただ破壊と殺戮を望む負の感情が込められたその声。
常人が聞かされたら心を病んでいたかもしれないが、回帰前の俺はその時点で十分すぎる程心を病んでいたし、今の俺に至っては人間を殺しまくっているので今更『コロセコロセ』言われても、相変わらずうっせぇなぐらいにしか感じない。
俺は体内に取り込んだ闇の魔力の吸収に集中する。
回帰前は、実は7割程の力しか取り込めずにいた。
俺自身の器が足りなかったためだ。
そのため、せっかくの力を3割近くも霧散させてしまっている。
だが今の俺は違う。
準備は十分に整っている。
婚約の話を聞かされて直ぐにここに来なかったのもそのためだ。
完全に吸収するため、器を広げる為に三か月かけて来たのである。
「さあ、今度こそお前の全てを食らいつくしてやるぞ。魔王」
闇魔のやり直し~世界征服直前で伝説の英霊どもに魔王の再来と言われ殺された俺、何故か20年前に回帰。よし!今度は英霊共もぶち殺して完璧な世界征服をして……ってあれ?なんか俺の知ってる流れと違うんだが?~ まんじ @11922960
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