第12話 厄介事

「やれやれ……」


鉱山のチェックが終わり、監査官が帰って少ししたあたりで来訪者が二組、ほぼ同時に訪れる。


片方は第一王子派閥の貴族からの遣いで。

もう片方は第二王子派閥から。


そいつらの要件はいたってシンプル。

ブラスト男爵家に、自分達の派閥に入れと言うお誘いである。


回帰前は大した価値のない男爵家だった。

首都から遠く離れている事もあって、両派閥からは若干の資金の無心があったけである。


――だが今の時間軸は、この二つの陣営から選択を迫られてしまう。


理由は簡単だ。

鉄鉱山のせいである。

かなり規模が大きい鉱山であるため、それを擁するブラスト男爵家は役に立つと両陣営ともが考えたのだろう。


まあ、当然か……


戦争で必要になるのは物資と人だ。

そして物資において、鉄は重要なポジションをしめている。


……兵士が身に着ける装備品は、そのほとんどが鉄製だからな。


――そしてその重要な物資を算出する鉱山が、ブラスト男爵家にはあった。


因みに、魔法金属であるミスリル製の装備などもあるが、希少なそれらを身に着けられるのは貴族や一部の騎士だけだ。


「面倒くさいことになった」


ベッドに身を放り出し、俺は問題に頭を悩ませる。


回帰前は高騰した鉄を売りさばいて戦争のための財をなし。

更に覇王として世界征服で戦争しまくった身なので、鉄の重要性を俺は十二分に理解している。


だから両陣営の行動は納得できるものだし、鉄鉱山を申告した時点でそうなる事は容易に想像できた。

どちらにつこうが鉄と資金をある程度融通すればいいだけの話なので、大した問題ではない。


問題は――


「まさか婚約の話まで持ち出してくるとはな……」


そう、婚約である。

両陣営とも、ブラスト男爵家を取り込むため縁談の話を持ち掛けてきたのだ。


まあ100歩譲って婚約は良い。

恋愛結婚だとかそういうものに興味はないので、家同士で決め手というのは好きにやってくれていい。


――問題は。


――そう、問題は。


――首都の学園に俺が通う事になった事だ。


鉄鉱山を手に入れたとはいえ、所詮は辺境の男爵家でしかないブラスト家に、高位貴族側から申し込まれた縁談を断ること撫で出来るはずもない。

ほぼ同時に申し込まれたため保留になってはいるが、必ずどちらかの陣営から婚約者を選ばなければならなかった。


そして両使者と父が顔を突き合わせて協議した結果——


来年から王立学園に通う事になる同年代の二人と同じ場所に通い。

そしてそこでの生活を通して相手を決めるという物だった。


前代未聞の選択方法である。

二つの陣営から同時に迫られたからこその現象と言えるだろう。


「まったく勘弁して欲しい物だ。来年には内乱がはじまるってのに……」


首都は王位継承争いの中心となる場所だ。

密かに力を蓄えなければならない身でだというのに、そんな場所に放り込まれるのは大きなリスクとなる。


……内乱に下手に巻き込まれれば、闇属性がばれてしまう危険性があるからな。


「どうせもうじき内乱がはじまるから、婚約話は無視しろと言ってやりたい所だが……」


それはそれで問題がある。

何故それが分かるのかって話になるからだ。


「父親が絶対の味方である保証がない以上、迂闊な事は口に出せん。ここは覚悟を決めて流れに任せるしかない……か」


まさか30年以上生きて、この俺がガキ共の通う王立学園に行く羽目になるとはな……

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