ハプニング
「え?」
彼女を男として飾る衣は床へと落ち。
其処に立つのは白き肌を晒す乙女のみ豊満な胸を潰す為の晒しすら解放され。
彼女の体は男を魅了する姿をしていた。
刺激の強い彼女の姿を目の当たりにして。
八峡義弥は言葉に詰まり、視線は彼女の胸に向けている。
対する思川百合千代は八峡義弥を見て呆然としていた。
男性に裸体を見られている自覚を得るまで数秒の間を有し。
ふと、その視線の先を見ると、彼女の豊満な胸が見えている事に気が付く。
そして彼女は途端に恥じらいを覚えて、頬を紅潮とさせた。
耳の先まで赤くした彼女は、先ずは胸を腕で隠す。
そして外敵を排する為に、攻撃行動に出る。
「なに、してるのさっ!」
叫び、彼女の手に持つものを八峡に向けて投げた。
八峡義弥に向けて放られたソレは、見事八峡の頭部にヒットする。
だが、大したダメージは無い。
八峡は投げられたソレを手で掴んで広げる。
薄桃色をしたソレは、三角形の形をした布であった。
少し生暖かさを感じるのは、思川が先程までそれを装着していたからだろう。
「おい、これ、パン――」
八峡が言い切る前に、思川がベッドの上に置かれた枕を握る。
それを八峡に向けて投げると、見事に八峡の頭部にヒット。
重量がある為に、八峡義弥はそのまま部屋から出て床に倒れた。
「痛ってェクソッ!」
八峡が顔を上げた直後、扉が勢い良く閉められる。
「なんで君が僕の部屋に入って来るんだよっ!」
と、思川百合千代が怒声混じりにそう叫んだ。
「知るかッ!俺はただ部屋を案内されただけだっ!」
「うわぁ、最悪だ…はだか、見られたぁ…」
思川百合千代が泣きそうな声をあげる。
八峡義弥は自分が悪く無い事を主張するよりも。
彼女の涙を拭う方が先だと瞬時に立ち上がる。
「百合千代、服、脱いでたって事はさ、もしかして、お前水着に着替えようとしてたのか?」
八峡義弥が話題を逸らす為に水着の話をする。
「あぁ、そうだよっ!水着に着替えようとしてたんだ」
「そうか、そりゃそうなるよな、今日は良い天気だ、空は快晴だし、海は凪いでる、絶好のバカンスだ、そうだろ?」
「…うん」
「さっき、見ちまったのは悪かった、部屋を確認しなかった俺が悪い、お前にも悪い事をしたと思ってる、今日のお前は多分最悪だと思ってるだろ」
「……」
思川百合千代は答えない。
答えないが、八峡義弥の言葉を聞いている。
「俺ァ、俺のせいで、お前の一日を最悪にしたくねぇ、今日を良い思い出として残してぇ、だから、百合千代、俺にお前の最高の思い出にさせるチャンスをくれねぇかな?」
そして答えを思川百合千代に委ねる。
思川百合千代は黙したまま、部屋の扉を開けた。
ひょっこりと思川の顔が出てくると、八峡に向けて手を指し伸ばす。
「パンツ、返して」
「あ、悪い」
八峡が思川に握っていた下着を渡す。
そして再び扉が閉められる。
だが、扉の奥から彼女の声が聞こえて来た。
「いいよ…許す、けど、八峡、ボクの体を見た記憶、忘れてよね」
思川がそう言った。
八峡義弥は扉の奥に居る思川に聞こえる様に声を荒げる。
「あぁ、分かった」
そう八峡は約束したが。
(百合千代デケぇな、葦北とタメ張るんじゃねぇか?)
その約束は口だけだった。
(部屋を間違えるとか何してんだよあの人)
八峡義弥は界守綴の事を考えながら廊下を歩き出す。
今一度界守綴を探し出して部屋を聞き出そうとして。
「八峡さん」
背後からそんな声が聞こえた。
八峡義弥が後ろを振り向くと。
其処には月知梅瑞稀が歩いてくる。
「おう、瑞稀か、あ、荷物あるか?」
八峡義弥が伺うと月知梅が頷く。
「八峡さんの部屋に置いておきました」
「あ?お前俺の部屋知ってんのか?」
月知梅瑞稀は八峡義弥を崇拝する変態だ。
八峡義弥が泊まる部屋を網羅していない筈が無い。
呪術系ヤンデレヒロインに愛されて仕方が無い 三流木青二斎無一門 @itisyou
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