メイド

森林が生い茂る土地に、ぽつんと建てられた屋敷。

既に贄波璃々たちが到着しているのだろう。

屋敷の中から、人の会話や物音が聞こえて来た。

八峡義弥は敷地内に入ると、玄関前まで向かう。

そして呼び鈴を鳴らすと、中から人が出て来た。

それは見るも麗しい女性の姿。

銀色に輝く長髪を靡かせて登場する女性。

頭部にはメイドキャップが装着している。

それを見れば、恐らくはこの屋敷の使用人である事が分かるのだが。

彼女の首から下は、露出が高かった。

と言うか、水着姿だった。

黒色の水着を着込んでいる彼女が八峡たちを出迎えていた。


「長い旅路、お疲れ様です。¥、不肖、この界守綴、八峡様ご一行の出迎えの為に参りました」


「なんだ姉貴ッ、その姿ァ」


後ろに居た界守愁が先輩たちを掻き分けて女性の前に立つ。

彼女は界守愁の姉である界守綴だった。

弟の存在に気が付いた界守綴は、界守愁に向けて話し掛けた。


「あら愁、貴方も来ていたの?どう?お姉さんの水着は?」


そう言って彼女がポーズを取って界守愁に見せつける。

胸の谷間を強調させる大胆なポージングは八峡義弥の視線を釘付けにさせた。


「恥ずかしいからやめてくれッ!すんません先輩ッ、ウチの姉が」


界守愁が自らの姉を恥じながら頭を下げる。

その言葉で八峡義弥は我に返って界守愁に言う。


「あ、いや別に、俺ァ界守さん知ってるからこういう人だってのは、まあ理解してる」


「まぁ八峡様、私の事を理解なさってるとは、ですが八峡様、それは性格程しか理解出来ていませんでしょう、よろしければ今夜にでも私のお部屋にもっと深く、奥の奥まで理解しあう仲になりませんか?」


界守綴が八峡義弥に近づき、首に手を回して耳元で囁いた。

暑い夏の季節だと言うのに、彼女の囁きが夏の暑さを忘れさせる。


「姉貴ィっ!何してんだコラァ!」


「失礼だが象形遣い、我が友に近寄りすぎだ、離れてもらおうか」


界守愁が怒りながら自らの姉に牙を剥き。

永犬丸統志郎が涼やかに界守綴と八峡義弥の間に割って入る。


「これは、失礼致しました」


無駄話ジョークはそこまでにしとけ」


「部屋に案内して貰おうか従士メイド


「はい、それでは」


そうして界守綴が部屋に案内しようとした最中。

再び八峡義弥に近づいた。


「私の部屋は空いてますので何時でもいらしてください…」


そう言って離れる。

そのまま部屋へと案内される。


「やかい、なにをいわれた?」


猿鳴形が不思議そうに尋ねた。

八峡義弥は答えるかどうか悩んで。


「〈歯に青のりついてますよ〉だってよ」


「あおのりたべたのか?」


八峡はそう嘘を吐く事にした。

猿鳴形は八峡の歯をマジマジと見つめる。

無論ながら歯に青のりなどついては居なかった。


「到着しました、どうぞ、八峡様」


界守綴が八峡義弥の部屋を案内した。


「あ、俺だけ?」


八峡義弥が界守綴に対してそう伺った。


「お部屋は一人一部屋となっておりますので、次は永犬丸様のお部屋を案内させていただきます」


と丁寧に界守綴がそう言う。

どうやらここで一度、八峡たちは別れなければならないらしい。


「一旦、お別れだな」


「どうやら、そうみたいだね」


「一息ついたら、また合流しよう」


そう言って、八峡義弥と永犬丸たちは其処で分かれる事になった。

一人、八峡義弥が部屋の前に立つ。


(さて、と俺の荷物、部屋に運ばれたんか?)


そう思いながら、八峡義弥が部屋を開ける。

中に入るとベッドが置かれた小奇麗な部屋だった。

其処はまるでホテルの一室の様で、清潔な空間として保たれていた。


「お―――ぉ?」


しかし、其処には先客がいる。

八峡義弥の目の前に、一人の女性が立っていた。

それは、思川百合千代であった。

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