第4話 幼馴染コミュニケーション

 今日は土曜日。朝九時からの午前練を終えて、俺と三好は昼飯を食べる。


 三年生は塾がある人がほとんどらしくそそくさと帰り、新しく入った一年生は交流を深めるため近所の回転寿司チェーン店に行くようでこちらもワイワイと帰った。


 二年生についても橋本は別の部活の友人と遊びに行くらしく気付いたらいなくなっていた。二年にはもうひとり次期キャプテンがいるが、彼は今日、家の事情で休みである。


「みんな忙しいな」


「せやな。オレらだけやで、部室でずっと駄弁ってんの」


「いやそれが高校生の特権ちゃうの?」


 なんもない日を楽しく過ごす。それが大事なのである。


「いやでもさ? 三年生ちょっとピリつき始めたよな」


 三好が米を飲み込んでから言う。


「確かに。やっぱ受験があるからかな」


「受験といえばさ、オレこの前今年の共通テストの問題解いたんやんか。あれむずいねんな。舐めとったわ」


 大学受験で国公立大を志望するひとは受けざるを得ないというアレか。


「そんなむずいん?」


「文章量がクソ多い。英語とかよう読みきらんかった」


「そうなんや」


 恐ろしい話を聞いた。俺は英語がめちゃくちゃ苦手なのだ。


「一年後にはあんなふうになるんかなぁ」


「え、やめてくれん?」


 受験の話なんて聞きたくない。折角頑張って今の学校に入ったのに、どうして三年としないうちに再び受験をしなければならないのか。


 そうこうしているうちに女子ソフトテニス部の面々が二階の部室に集まり始めた。男子の部室が一階なのは多分防犯上の理由があるのだろう。


 女子は相変わらず楽しそうである。あちらも俺たち同様、二年部員数5人の危機に瀕していたが、新入生が10人ほど入部したらしい。


 準備を終え、テニスコートに向かっていくその集団の中に懐かしい顔を見つける。はあ、とため息をついた。


「……どうした?」


「いやー? 別に」


「気になる女子でもおるんか」


「ちゃうて」


「じゃあなんやねん」


 別に言う必要性もないのだが、隠す必要もない。むしろ、三好との交友関係のためにははぐらかすのは悪手か?


「あんなかに幼馴染おるんよなぁ」


「えー、まじで? 新入生が幼馴染?」


「いや二年」


「二年?!」


 三好がポカンと口を開けている。


「いや芳賀はがお前、去年一年間全くそんなん言ってなかったやん」


「言ってへんけど」


「え??」


 頭を抱えている。


「えだってさ、何回か女テニとは交流してるやん。文化祭とか体育祭とか一日遠足とかバレンタインとか」


 先輩の代から脈々と続く伝統で、イベントに際して軟式テニス部は集合写真を撮ったり、バレンタイン、ホワイトデーにチョコを贈りあったりと、まるで世間一般でいうリア充のような交流がある。


「一切喋ってない」


「なんで??」


「四年ぶりに話しかけれるか?」


「頑張れよ四年ぶりくらいなら」


「甘いな三好……」


「は?」


「俺みたいなクソ陰キャにとってはなぁ! そのくらいの間が一番辛えのよ!」


 初対面ならむしろめちゃくちゃフレンドリーに行けるのだが、昔仲の良かった幼馴染とか絶対に話しかけられない。


「え、ちなみに誰?」


 サクラちゃん、と言いかけてやめる。


「……日野さん」


「日野さん?!」


「絶対無理やろ」


 四年ぶりに再会した彼女は、学年全体が色めき立つとかそういうわけではないが結構可愛い系の女子になっていた。去年同じクラスだった男子の話を聞くとクラス内ではかなり人気が高かったようだ。


「漫画みたいなことは起きないわけよ、現実にはな……俺はわかる、卒業まで喋らん未来が見える……」


「いや分からんやん、あっちが話しかけてくれるかもしれへんやん」


「そういうタイプの場合は一年の時点でイベントが発生してるんよ」


 “サクラちゃん”の方も女子としか喋らないというか、人見知りのタイプらしい。テニスコートの入り口でお互いに譲りあったときでさえ会話は発生せず、一生気まずい。


「しかも親同士はいまだにご飯とか行ってるから、お互いの情報が行き交ってるのが一番やばい」


「えー?! ……日野さんの話とか、聞きたいな?」


「……俺の名誉に関わるからやめてくれ」

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アホな高校生俺たち〜リア充が恋人持ちの人間こととか誰が言い始めたんや〜 千瀬ハナタ@忙殺中 @hanadairo1000

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