第42話 愛国心

 車はそのまま静かに進み……数十分もすれば目的地に辿り着いた。

 車を降りる時の眼鏡さんは額に汗を浮かべてまともに言葉も喋ってくれない状態だったけども、どうやら俺に対して恐怖心を抱いていたらしい。別になにかされなければこちらからもなにかするつもりはなかったんだけどな……そこまで恐れるってことは、結局なにかをするつもりだったってことだ。

 さて……偉い人たちも俺が車内で反抗して、なおかつ眼鏡さんよりも強かったことは想定しているはずだ。まぁ……もしかしたら戦闘にすらならなかったとは予測していなかったかもしれないけど。


「っ!? こ、これはこれは……よく来てくれたね」

「まぁ、事情聴取の為に呼び出された訳ですから、応じない訳にはいかないでしょう? 車の中でもちゃんとできましたし、そこまで長い話にはならないでしょうが」


 迎えてくれたのは、これまた胡散臭そうなおっさんだった。ちらりと眼鏡さんの方へと視線を向けてから、汗を拭って俺に対して貼り付けた笑みで対応しているが、明らかに視線が泳いでいるし、握手を求めている手が少しだけ震えている。今更になって……俺がもしかしたらヤバい奴なんじゃないかってことに気が付き始めているのかな?

 今の俺が本気で握手したら人間の手なんて簡単に握りつぶしてしまうから……ゆっくりと握手に応じながら俺もにっこりと笑顔を浮かべて対応する。


「さ、さぁ……学生さんをあまり長い時間拘束しておきたくないから、事情聴取だけパパっと終わらせてしまおうか! 警察の方も来ているからね!」


 警備をしているらしい魔術師らしき人をちらっと見ると、彼らもまた緊張した面持ちでこちらのことを観察しているようだった。もしかして、俺がここで暴れると思っているのか……それとも、最初からここら辺の大人とグルで、俺が無傷で車から出てきたことに驚いているのかな?


 おっさんによって通された部屋は窓も存在しない密閉された空間だったのだが……俺が椅子に座った瞬間にすっととんでもなく美人な女性が入ってきた。茶髪で背の高いモデル体型のお姉さんに、俺はちょっと見惚れてしまった……男子高校生だから綺麗なお姉さんには弱いのだ。


「さて、詳しい話を聞いてもいいかしら?」

「はいっ! 何でも聞いてください!」


 おっさんに詰められるのを想像すると気持ちが萎えてしまうけど、綺麗なお姉さんに尋問されると思うとちょっとテンション上がるな。なんでも喋りたくなっちゃう。


「まず、地底湖で貴方は捕まえた男に具体的にどうやって襲われたのか聞いてもいいかしら?」

「はい! 地底湖の水を泳げるシーサーペントみたいなモンスターを召喚して襲ってきました!」

「ふぅん……地底湖だからそういう戦い方をされたのね。それで、君はそれに対してどうやって対処したの?」

「ダンジョン内で行方不明者を捜索中だったので、召喚していた自分の召喚獣が防御の結界を張ってくれたので攻撃は簡単に防げました」

「簡単に?」

「ええ、簡単に」


 お姉さんの目がピクリと動いたが、気にせずに簡単だったと強調しておく。


「そう。で、それから貴方はどうしたの?」

「シーサーペントの動き的に、俺にダンジョンから逃げ帰って欲しいのだと判断して、俺は逆に結界を張ったままダンジョンの奥地に逃げようとしました。そうしたらシーサーペントが更に増えたのでやっぱり狙いは俺をダンジョンから逃げるように誘導して、行方不明者の捜索から逃げ帰ったという不名誉を押し付けるのが目的だろうなと思いました……知ってるんでしょ?」

「……これはただの聴取よ? 私は犯人の男が喋ったことしか知らないわ」

「別に誤魔化さなくていいですよ……今更、お互いの敵意を隠しても仕方ないでしょう」


 お姉さんは確かに綺麗な人だからちょっとなんでも喋ってあげたいなあと思ったけど、わざと惚れちゃったみたいな感じでテンション高く喋ってみたけど特に反応しないから、美人局でもなさそうだし。

 老若男女関係なく、危害を加えてくる奴は敵でしかないのだから。


「意味が分からないわね。次の質問よ」

「……」


 あくまでも聴取の体裁を崩すつもりはないらしい。


「襲われた理由は嫉妬だと犯人が供述しているけれど、君にその自覚は?」

「犯人が言っていたと思うんですけど、俺は別に面識ないので自覚も糞もないですよね。協会の人たちが俺の力に対して嫉妬しているかもしれないとは思っていましたけど、どっちかと言うと伝統ある召喚魔法から逸脱したのが原因みたいですし」

「質問してないことまで話さないで」

「もういいですよ、そろそろ本題に入りましょうよ」


 俺の掌に小さな蜘蛛が1匹落ちてくる。


「蜘蛛?」

「俺、ちょっとした特技があって……んですよね。当然、声も聞こえるし何が起きているのかリアルタイムで把握することができる」

「……なにを、言っているの?」

「隣の部屋で偉い人たちが待機して、ここの会話を聞いてるのも知ってるって言ってるんだ。敵対しているとはいえ、国の組織だから大きな問題にはしたくない……そっちだってそうだろ?」


 なんで高校生なのにこんなスパイ映画みたいなことしなきゃならないのか、クッソ理不尽な目に合っているから割とイラついているのだが、ここは冷静になって話し合いで解決したいと思っている。

 目の前のお姉さんは既に敵ではない。全て見切られているという現状に動揺が隠し切れていない時点で、男子高校生には綺麗な女性をぶつければ御し切れるのではないかぐらいの考えて選ばれている人だろう。美人局の専門家だったらこんな簡単にぼろは出さないはずだ。

 お姉さんが何も言えなくなったまま数分が経過すると、扉が開いて強面のおっさんが部屋に入って来た。


「……2人だけにしろ」

「は、はい」

「隣の部屋にいるのに、2人だけなんて言い方するのか?」

「この部屋には2人だけだからそれでいい」


 だからそれは2人だけとは言わないでは?


「単刀直入に言おう……君のその召喚魔法の力を使って、日本を他の国に負けない大国にしたい。召喚魔法の詳細について語ってもらいたいのと、君には是非ともこの国の人間としてこちらの指示通りに動いて欲しい」

「いきなりですね」

「勿論、高い報酬金は支払おう。学生として卒業できるように手も回すし、君が頷けば周囲の人間に危害を加えることもない……君の日本に生まれたのならば、この国に対して愛着があるだろう?」

「今、まさにこの瞬間にその愛国心が消えてる所ですけどね」


 何処までも上から目線で喋ってくる腐った連中だ。

 日本を他の国に負けない大国にしたいだ? それならまずは腐った連中を一掃してから言えよ。武力を持っていることを背景に話し合うことが外交とは言え、男子高校生に頼ろうとしていることを情けないと思うべきだな。


「断る」


 なんで俺が、こいつらの言う通りに動かないといけないんだよ。

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2025年1月11日 00:00
2025年1月12日 00:00

自分で戦う才能ないって言われたので召喚獣に戦ってもらうことにしました 斎藤 正 @balmung30

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