第41話 隠した手札
ダンジョン内で襲い掛かってきた男は捕まったらしい。
朝のニュースでちらりと映っているのが見えたので、そのままニュース番組を見つめていたのだが……事件の内容としては地底湖のダンジョンで男子高校生の召喚士Aに対して召喚魔法を用いて攻撃を行った。男子高校生が反撃したことで大きな怪我はなかったが、魔法を使用した犯罪としてしっかりと認められたのだとか。犯人の男は聴取に対して「自分より若い奴の才能が羨ましかったから衝動的にやってしまって後悔している」と発言したらしい。
「……国ってクソだな」
「なにを今更言ってるの?」
寮の共有スペースでソファに座りながらニュースに対して呟いたら、制服姿で後ろを通りかかった遊作に当たり前のことを言うなって反応されてしまった。
あの男は金で雇われて俺を殺すように言われたと口にしていたはずだが……どうやら全てがもみ消されたらしい。もしかしたら、このまま獄中で自殺か病死でもするかもしれないな。なんでサスペンス小説にもならないクソくだらない話が現実で起きているのか……俺には理解不能だ。
「それで? そろそろ着替えなくていいのかい?」
「おー……ちょっとさっきの件で呼び出されてるから今日は学校行かない」
「そっか。召喚士は大変だね」
「そうだよ。だからお前も早く取れ」
「ちょっと悩んでるかなぁ……僕、この年齢で社畜になりたくないし」
くっそ……俺が割と仕事に追われていることを知っているからこそ、免許取得の時期を遅らせて楽をしようって判断かよ。稲村先生から事前に聞いていたとは言え、想像以上の人手不足に俺は泣いてしまいそうだよ……しかも上層部が腐ってる。
「そもそも、君が聴取受けるようなことってあるの?」
「さぁ? 下手なことを言えば俺の方が悪い扱いされるかもしれないし、これ以上変な連中に目をつけられるのも嫌だから、無難にあんまり覚えてないで通すつもりだよ」
「……でも、そうやって目を逸らし続けていると何も変わらない」
「俺が1人で動いて何が変えられるんだよ……俺にできることなんて精々魔法を使って暴れて捕まるぐらいだろ?」
どれだけ力を持っていようとも、今の俺はただの男子高校生だ……世直しなんてできる訳も無いし、そもそもやろうとすら思わない。俺は自己中心的な人間だから、自分が助かるならそれでいいと思っているのだ。勿論、正せる不正は正していきたいし、できるなら他人の利益になることだってやりたいけどね……自分の利益を損ねてまでできるほど俺は聖人じゃない。
私服に着替えて学園から出たら……そこには黒い車が停まっていた。
「迎えに来たよ」
「……どうも」
この間、学園内で会った腹黒そうな眼鏡のお兄さんだ。どうやら俺が学園の外に出てくるのを待っていたらしいが……俺はてっきり電車で普通に向かうもんだと思ってたんだけどな。あっちからなにかをしたって自覚があるから謝りに来たのか……まあ、人に謝るなんて選択肢がある人間は、人を殺すような依頼をしたりしないだろうけども。
「乗ってくれるかい?」
「勿論」
迎えに来てくれたのに車に乗らないなんてことは流石にしないさ……まぁ、ちょっと保険はかけさせてもらうけども。
案内されるままに車に乗り込み、後部座席に座ると横に眼鏡さんが座った。
「……警戒されてる?」
「まぁ、なんか腹黒そうな顔してる人だなとはずっと思ってたので」
「手厳しいなぁ……まぁ、合ってるかもしれないけど」
眼鏡が太陽光を反射させて、瞳が隠れた瞬間に不気味に笑った。
「わかっているだろうけど、協会は君のことが邪魔だと思っている。私としてはそこまで嫌悪することでもないと思うんだけどね……協会の人からすると、君の使う誰にも扱うことができない唯一無二の召喚魔法っていうのが、既に気に入らないらしいんだ」
「……俺の召喚魔法が原因だったんですね。俺はてっきり、才能がある若者に対して嫉妬しているものだと」
「あはは……そういう面もあるだろうけどね。基本的には、君が使っている召喚魔法が原因だと思った方がいい」
まぁ……保守的な人間から嫌われるのは当たり前と言えば当たり前か。だからと言って、高校生を相手にいきなり殺し屋のような人間を送り込んでくるなんて、あまりにも酷いだろ。
「私と、取引しないかい?」
「内容によりますね」
「私も権力が欲しくて役人なんてやっていてね……君が上の連中を排除してくれるならそれはそれで助かるんだ。私は権力を手に入れることができるし、君だって面倒な老害たちから命を狙われることなく召喚士として生きていけるよ?」
「んー……興味ないですね、それは結局日本の話だけなんで」
ガキが何を言っているんだと思われるかもしれないが、俺は最初から世界を見据えて召喚士になっている。日本の協会とやらの権力闘争なんて知ったことではないし、取引をしても俺にとってメリットなんてない。
「……いいのかい? このまま命を狙われることになるけど」
「そもそもそれがおかしいって話ですよね。男子高校生に対してそんなことばかりやって恥ずかしくないんですか?」
「……ははは……君は愉快な人間だね」
ずっと張り付けたような笑顔を浮かべていた癖に、口角がピクリと痙攣したのが見えたぞ。結構俺の物言いにイラついているらしいが……俺だって普通にイラついているのだから、一方的になにか上から命令できると思わないで欲しい。
ぬるっと、車の窓になにかが見えたのでちらっと視線を向けたら……それは顔のない人間の影だった。最初は俺の影が窓についているのかと思ったが、どうやらそれは車の内側にいるらしい。
「えーっと……これは脅しているってことでいいんですか?」
「なにが?」
「まぁ別に俺はどうでもいいんですけど……ただ、互いに人目がある場所で暴れるのはあまりいい結果にならないのでは?」
彼が懐に隠していたナイフを握り、その刃を簡単に曲げていく。
明らかに動揺しているのが見えるが……どうやら俺が召喚獣から力だけを借りてくることができるのを知らなかったようだ。車に乗り込む前に、俺は既にハナとイザベラ、2人の力を貰っているので……今から召喚獣に対して攻撃を命令したとしてもコンマ1秒以内にこの車を破壊しながら目の前の男を殺すことができる。そこまでは理解していないだろうが……俺がなにかしらの方法で自らの身体能力を大幅に強化していることはわかっているはずだ。
「さて、どうしますか?」
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