第40話 そこそこ有名人

「お、俺は指示されてやっただけなんだ! だから、い、命までは取らないでくれ!」

「人の命を狙っておいて、自分の命は取らないでくれって……随分と都合のいいことを言っている自覚はあるのか?」

「さっさと殺すか。何も情報は持っていなさそうだしな……妾がさくっとやるぞ?」

「あぁ、頼む──」

「わ、わかった! なんでも喋る! 金だってやるから! な? 助けてくれるよな?」


 うぜぇ……どうせ学生程度なら特に相手にならないと思ってたんだろうけど、こうやって捕まった瞬間に保身に走るのは屑の常套句だな。


「金なんていらない。ただ……なんで俺の命を狙ったのか、それだけ教えてくれ」

「わ、わかった……俺は金で雇われて、お前を殺すように言われたんだ」

「……それで普通に殺しに来た、と?」

「あ、あぁ」


 こいつ、馬鹿なのか?


「そうやって簡単に金で雇われて人を殺せるような人間が、まともな人生を送って来たとは思えないな。どっちにしろ屑なんだからこのまま突き出すか」

「なっ!?」

「命だけは、なんだろ? 俺は別に人のことを殺そうなんて思わないから別に命を取ったりしないぞ。ただ……このままお前を放置なんてする訳が無いんだけどな」


 魔法を使って明確にこちらを殺しに来たんだから、かなりの重罪だ。俺は傷もついていないから傷害罪にもならないだろうが……魔法を使っての悪事はこの国では明確な重罪だ。

 文句を言おうと立ち上がろうとしていたので、力を込めて頭を蹴って気絶させる。ハナかイザベラに任せたら命を奪いそうなレベルだったので、そのまま自分でやったけどこれでも結構嫌な気持ちになるのに……よくも人を殺そうなんて考えられるものだ。金で雇われたって普通の人間はやらないんだけどな。


「さて……行方不明者なんて本当にいるのかな?」

「いないと思うが……妾はこのままダンジョンに残るのが良いと思うぞ」

「まぁ、確かに金は出る訳だしな……とは言え、この男を地上まで持っていくことを考えると、一度は外に出ないと駄目だな」


 それにしても、こんな簡単に命を狙ってくるなんて思っていなかった。もしかしたら……こうやってダンジョン内ならモンスターがやったか人をやったか区別がつかないから、結構横行しているのかな……嫌な世の中だな。



 男を引きずってそのまま地上に戻ると、職員に襲われたと説明して突き出しておく。その時に、ちらっと周囲を含めて観察していると、何人か反応している様に見えた奴がいたので、恐らくは俺を監視する役割を持っている連中だったのだろうな……全員がそうとは言わないけど。

 今日の分の捜索を終えたってことにして寮に帰ってきた訳だが……口からは溜息がそのまま漏れてしまった。


「お疲れかな?」

「まぁ……ダンジョンとかじゃなくて人間関係でな」

「へぇー……やっぱり、そういう面倒なこともあるんだね」


 同部屋の遊作が愚痴を聞いてやるから続きを話せと言わんばかりに促してくるが、俺としてはあんまり喋るつもりはない。だって俺が嫌われているのは俺の存在そのものが悪いと思うから、遊作には関係ない話なのだ。


「……深くは聞かないけど、色々と大変みたいだね」

「おう」


 やっぱりイケメンで性格いいよな……遊作みたいな奴が、女にモテるんだろうな。

 別に女にモテたいとか普段からずっと思ってる訳じゃないけど、なんだかんだ言って人に嫌われるよりは好かれていたいから、もう少し遊作みたいな性格のいい人間を真似した方がいいのかなって思ってしまう。俺がもし、遊作みたいに人に対して気を遣えるような性格をしていたら協会の偉い人たちにも嫌われることはなかったんじゃないかなって。


「僕たちの世代では免許取得者1号なんだから、あんまり俯いてばかりじゃ駄目だよ」

「わかってる……え? そういうのどっかで見れたりするの?」

「免許取得者は普通にネット上に名簿で登録されるからね……同意書にサインしたでしょ?」

「何も見てなかったわ……遊作ってもしかして説明書とかちゃんと読むタイプ?」

「当たり前でしょ」


 ま、真面目だなぁ……俺なんてわからないところが出てきてから説明書を読むのに。



 俺が免許を取ったことは学内でそこそこ噂になっているらしい。召喚士の癖に、みたいな感じではなく……1年生の内に免許を取った人間なんて聞いたことも無いって感じの噂の広がり方らしいけど……先日、魔術師科の人たちにも色々と囲まれて質問されてしまったものだ。

 これはこれで、話題性の為には必要なのかもしれないけど……こうしていざ目立つ存在になってみると中々面倒だなって思うのはちょっと贅沢な悩みかもしれないな。


「それで? 面接で何聞かれた?」

「あー……別に高校の面接とあんまり変わらない感じだったよ? ただやってるだけって言うか……多分、あんまり意味がない感じの面接」

「へー」

「筆記試験は難しかった?」

「滅茶苦茶簡単だった。召喚士と魔術師の免許で違いがあるのかは知らないけど」


 冗談抜きで人気者みたいになってしまっているが……食堂で質問攻めにするのはやめて欲しい。なんで調子に乗るなよみたいな視線を向けられなければならないのか、俺には理解できない。直接、俺に質問してる奴らに言えよ。


「……聞いている限り、やっぱり実技が絶対的な試験なのね」

「それは当たり前と言えば当たり前なんだけどね……でも、僕や桜井さんだって情報として知っているだけで、実際に受けたことがある人の意見は聞いたことが無かったから、参考にはなるでしょ?」

「そうね……先を越されたのが滅茶苦茶ムカつくけど」

「理不尽!」


 俺はさっさと免許取ったらみたいなことを遊作や稲村先生に言われたから取ったのに。


「個人的な感覚だけど、遊作と桜井さんは普通に受けたら余裕で免許取れると思うよ。そこまで滅茶苦茶難しいって感じじゃなかったし」


 俺の場合は嫌がらせがあったけど。


「その言い方もなんだかムカつくのよね……言っていることはきっと正しいのでしょうけど」

「そうだねぇ……でも、僕としてはちょっとした自信になるかな?」

「俺に言われたなくても自分の力量ぐらいは把握してるだろ」


 なんで俺に言われたからなんとなく自信が湧いてきたぞ、みたいな言い方してんだ。

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