誰かいるなら。

@ko_natsu

Step1.夢を叶えるまでの道のり


18:00


(ただいま...)


心の中で呟いてからドアを開ける。


今日も疲れた…


頑張ったよ、わたし。


定時で上がって、さっさと帰ってきたけど、

勤務時間には自分のやるべき仕事を精一杯やった。


うん。頑張った。

これでいいんだよ。


頑張ったもん、今日も。


なのに、どうして罪悪感があるんだろう。


何の罪悪感?


社員さんは、きっかり定時で上がらずに少し残業して帰るのに、

派遣のわたしはすぐに帰ることに対する申し訳なさ?


職場の人と目が合っても、

愛想よくニコッとできないことに対する自己嫌悪?


もっと気を遣えばよかったかな。

あのときの返答、感じ悪くなかったかな…


業務終わりは毎日反省ばかり。


人にどう思われるのか怖くて、

自分に自信がなくて。

むしろ生きててごめんなさい、だ。


ダメだ。またネガティブの渦に堕ちる…


こうなってしまうと、

帰宅後にまともに過ごすこともままならなくなる。


明日もまた仕事なのだ。


ちゃんと栄養あるもの食べて、お風呂に入って、

きちんと眠らないと明日困るのは自分だ。


寝不足で、頭が上手く働かなくてミスしたら、

一緒に働く周りの人へも迷惑をかけてしまうのでそれだけは避けたい。


ちゃんとしなきゃ、ちゃんとしなきゃ。


悔しい、悔しい、悔しい。



部屋に入って、まずは手を洗う。


ワンルームの狭くて古いアパート。


外壁は塗装が剥げかかっているし、

外から見ると、いかにもボロアパートな見た目だけど、

部屋の中は、そこまで悪くない。

築年数は古いけど、リホームされていて綺麗だし、

ひとりで淋しく暮らすぶんには十分だ。


まずは、換気。


朝、閉めっぱなしで出ていった部屋の窓を開ける。


ふと目に飛び込んできた空はどんより暗い。


今日は、1日中曇っていた。

じめじめとした気持ちにさせる灰色の空だけど、

雨が降ることはなかった。

ギリギリのところで、なんとか耐えていた。

まるで、わたしみたい。


28歳、独身。

恋人なし。

実家は遠方のため滅多に帰らない。

友だちもなし。


趣味、読書。

特技なし。


生きる喜び?


なんだろう…


とりあえず、病気一つせず健康だし、

生きたくないけど、積極的に死にたいわけでもないので生きている。

惰性で。



そんなわたしには、小さな夢がある。

それは、事故物件に住むこと。


所謂いわゆる、幽霊がいる部屋。


18歳のときに実家を出て一人暮らしを始めてから10年。

ずっとひとりぼっちだった。


寂しい気持ちに、自分で気が付かないほど孤独だったようで、

つい最近、自分が実は寂しいのだということを自覚した。


ひとりで暮らしていても、

寂しさを感じていない人はたくさんいる。


でも、今のわたしは、どうやら寂しいらしい。


恋人や友達をつくって一緒に暮らすなんてムリだし。

というか、生身の人間は、気を使って疲れる。

だから、幽霊と暮らしたい。

そのくらいが、ちょうどいい。


つい2週間前に、そう思い立ってから、

ほぼ毎日、仕事終わりに、ネットで事故物件探し。


ササっと、ごはん→お風呂を済ませてから寝るまでの1時間、

ホットココアを淹れて、甘いお菓子を準備したら、

わたしの1日を締めくくる癒しの時間のはじまり。


会社から遠くても1時間以内で通える範囲で、

家賃4万円以内。

どうしても気に居れば5万までならアリ。


ユニットバスでも、1階の部屋でも、

なんならシャワーの水圧が弱めでもいい。


“事故物件であること”

それが第一条件。


ここは、都心でもないし、

程よく田舎な、治安のいい地方都市なので、

探してみると、事故物件なんて全然なかった。


事故物件探し初日は、大島てるで会社近くの地図を見てみたけど、

全く燃えていなかった。

平和かよ。いや、いいけど。素晴らしいけど。


なので、実際に不動産屋へ行って、

「事故物件ありますか?」と直接聞きに行こうと思っていた。


そう思っていたのが、先週末のこと。


しかし、結局、行けなかった。


身体が重くて、動けなかった。


休みの日は、よくストレスに負けて過眠する。


金曜の夜から、夜ごはんを食べた後ダラダラして、

お風呂も入れず、そのまま寝落ち。

次の日は昼過ぎに起きて、やっぱり怠くて。

過食と過眠の週末を過ごしてしまう。


それもこれも、心の奥底の孤独感が根本原因では?と、

やっと気が付いた。


わたしだって、誰かと一緒に住んでいたら、

こんな腐った休日には、しないはず…


だからこそ、出来る限り早く事故物件で幽霊と暮らしたい。








夢の事故物件暮らしまでの道のりは、楽じゃなさそうだ。










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