15日目 代わりに

 今日はラウンジで、佐藤さん達と話をしていると、金光さんが入ってきた。


「おはよう、金光さん」


「おはよう」


 金光さんは力無く返事して、ボーッとソファに座り込む。

 いつもとは大違いだ。


「…金光さん、どうしたの?」

 おれが佐藤さんにそう尋ねると、佐藤さんは呆れたように言う。


「昨日、すごく面白いアニメを見終わったらしいんだけど、その余韻が終わって、ロス状態らしいの」


「なるほど」


 それであんなにボーッとしているのか。


 恐らくそのアニメを思い返しているのだろう。おれも良い映画を見た時なんかはそうなる。

 もう一度見返すか迷って、結局もう一度観るのだ。


「そんなことより、ゲームしましょ」


「…ほっといていいのか?」


「落ち込んでるわけじゃないんだし、大丈夫でしょ」


「それもそうか」


 ということで、何のゲームをしようかと、おれと佐藤さんは話し始めた。


 

 

 1時間ぐらいして。

 徐ろに金光さんが立ち上がる。


「よし、代わりを探そう!」


 金光さんはそう言うと、こちらに近寄ってきて、

「代わりのアニメを探すの、手伝ってくれないか?」


 と俺たちに尋ねた。


「嫌よ。めんどくさい」

 佐藤さんは容赦なく断る。


 金光さんはそこを何とか…と頼み込む。

「ひとりじゃ寂しいし、途中でなんか違うと見るのをやめちゃう気がするんだ。」と。


 おれはOKした。アニメ探しも面白そうだ。

「いいですよ」


「そうか?ありがとう!」


「やめといた方がいいわよ。代わりなんてそうそう見つかるもんじゃないから。時間の無駄になるわ」

 そう佐藤さんが言うと、金光さんは反論する。


「そんなことないさ。きっと代わりは見つかるはずさ」


 「…私もね、代わりを探したことがあるの。

 アニメじゃなくて、彼氏の代わりだけどね。


 当時付き合っていた元カレに振られて、それを忘れようと新しい彼氏を作った……

 でも忘れられなかった。

 …何かを好きになるってそういうものなのよね。代わりなんて見つからないのよ……」


 佐藤さんが演技めいた口調で言った。

 新しい彼氏が可哀想だ。


「恋愛とアニメは違うかもしれないじゃないか。お願いだよ。付き合ってくれよ〜」


 と金光さんがお願いする。


「加藤君がいるからいいじゃない。」と佐藤さん。


「確かに。それもそうか」と金光さん。


 ということで、おれと金光さんが金光さんの部屋に行こうとすると、佐藤さんが引き止める。


「ちょっと待った。そう簡単に納得されるのも釈然としないわ。やっぱり一緒に探してあげる」


「え。いや、加藤君がいるから別にいいよ」


「そんなこと言わずに」


「まあそこまで言うなら…」


 いつの間にか立場が逆転しているような気がするが、綺麗に収まったので良かった。


 

 金光さんの部屋に行く前に、ホテルのレンタル室から、DVDを取っていく。


 金光さんにロスしたのはどんなアニメかを聞いて、その代わりをおれと佐藤さんでひとつずつ探すことになった。


 おれは金光さんがロスしたアニメと同じジャンルで、前々から1、2を争うレベルで好きなアニメがあったので、それを選んだ。


 確認したところ、金光さんも佐藤さんも見たことがなかったので、ちょうどいい。


 佐藤さんも決まったようで、3人で外に出て、金光さんの部屋に向かう。


 金光さんの部屋は81階だそうだ。

 やっぱり高階層の方が良いだろ。と言っていた。


 分かる。

 おれも部屋を選ぶ時、上層階と迷ったのだ。


 結局、色々便利そうな49階にしたが。


 エレベーターが81階に着いて、DVDを持って3人で降りる。何だか不思議な感じだ。


 ついに金光さんの部屋にお邪魔する。


 思えば、他の人の部屋に入るというは初めてだ。おれの部屋と、どれだけ違うのだろう。


「お邪魔しまーす」


 中に入ると電気が自動でついて、部屋の中が暖かく照らされる。


 窓には分厚目のカーテンがかかって、落ち着いた色合いのソファ。


 部屋の大きさはおれの部屋の方が広いか、

 金光さんの部屋は、おれの部屋とは雰囲気が違う。


「さ、座って。何か飲み物を用意するよ。何がいい?」


「私、アイスティーで」


「じゃあおれもそれで」


「オッケー。僕はコーヒーにしようかな」


 そう言いながら、金光さんはアイスティー2つとコーヒー1杯を用意し、トレーに乗せて、テレビとソファの間の机に置く。


 アニメ鑑賞が始まった。

 


 まず見たのはおれの選んだアニメである。

 とりあえず3話見た。


 佐藤さんは「なかなか面白かった。」と言ってくれた。

 金光さんも面白いとは言ってくれたが、「なんか違う気がする。」とのことだ。


 とりあえず面白かったようで良かった。

 おれもやっぱりこのアニメは面白いなと思った。


 後で見返そう。


 ここで、時刻がお昼を回ったので、軽い食事を取ることになった。


 ルームサービスに、おれはフライドポテトとハンバーガーを頼み、佐藤さんはピザとパスタを、金光さんはラーメンを頼んだ。


 ピザを頼むか迷ったが、この前ピザとパスタを食べたばかりなのでやめておいた。


 ルームサービスのロボットが来て、机と椅子をを展開する。


 この前頼んだ時は椅子は1人分しかなかったけどどうするのだろうと思っていたら、金光さんが何かしら液晶画面を操作すると、追加で2つ椅子が出てきて、さらに机が広がった。


 すごい機能だ。


 せっかくなので、おれの選んだアニメの続きを見ながら食事をする。


 おれと佐藤さんは、ポテトとピザを少しずつ交換し合って、ラーメンを頼んだ金光さんは何も交換できないが、仕方ないので分けてやった。


 ポテトは火傷しそうなほど熱々で、塩がよく効いていて、


 ハンバーガーは口の中に入れた瞬間、ジューシーな肉汁が溢れ出して、とろとろのチーズとマッチして美味しかった。


 

 食事を終えて、今度は佐藤さんの選んだアニメを見る。

 佐藤さんは全く違うジャンルのアニメを選んだ。


「こういうのはね、全然違うタイプの方がインパクトがあって良いのよ。」とのことだ。


 佐藤さんが選んだので、おれと金光さんはどんなアニメか、あらすじも見ていない。タイトルだけだ。

 そういう状態でアニメを見るのは久しぶりだな。


 おれも最近はあらすじを見ては食わず嫌いしてきたので、あらすじを見ないという方法は良いかもしれない。




 佐藤さんの選んだアニメを3話、見終わった。


 なかなか面白かったので、後で続きを見ようと思う。

 というか続きがすごい気になる。


 しかし金光さんはやっぱり何かが違うようで、「面白いが何かが違う気がする。」と言っていた。


 それを聞いた佐藤さんは、それ見たことですかと言わんばかりで面白かった。




「君の言う通り、代わりなんてないんだね。」

 しばらく考えた後、金光さんがそう言った。


「だからあのアニメをもう一周、見ようと思う」


「付き合ってくれる?」

 金光さんがそう言いながら振り返ると、そこに2人の姿はなかった。


 ──────


 廊下を歩きながら、おれは佐藤さんに話しかける。


「途中で出てきて、良かったんですか?」


「いいの、いいの。どうせ最初にハマったアニメをもう一回観ようって言い出すから」


 でも少し申し訳ない気がする。

 そんなおれの様子を察したのか、佐藤さんが言った。


「…あなたは真面目すぎね」


 ──────


 この後、金光さんが追いかけてきて、やっぱり3人でアニメを見ることになったとか、ならなかったとか。

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天国ホテルでバカンスを 日山 夕也 @hiyama5

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